サヘル・ローズさん「親と暮らせない子の助けになりたい。それが児童養護施設育ちの私の恩返し」
2022/06/16
取り残されているひとをなくしたい。ずっと住み続けられる地球にしたい。そんな思いと行動が「持続可能な世界」につながると『サンキュ!』は考えます。今日よりあしたを良くするために、何かを始めたひとに会いに行く連載です。
<教えてくれた人>
サヘル・ローズさん(36歳)/俳優・タレント
さへる・ろーず●1985年イラン生まれ。イラン・イラク戦争で身寄りをなくし児童養護施設で育つ。7歳のとき、当時20代だったフローラ・ジャスミンの養女になり8歳で来日。高校時代にラジオ局J-WAVEのパーソナリティになり、以降、タレント活動と並行し俳優として舞台や映画、ドラマに出演。
◎History◎
●1993年(8歳)養母と来日後ホームレス生活を経験。公園から小学校に通う
●1997年(12歳)公立中学校に入学。貧困は継続。卒業までいじめに遭う
●2000年(15歳)都立の園芸高校に入学
●2003年(18歳)高校在学中にJ-WAVEのレポーターになる/大学に入学しITを専攻
●2006年(21歳)大学在学中に声優養成の専門学校に入学し俳優を目指す/テレビのレポーターに抜てきされる
●2008年(23歳)舞台「志士たち」で俳優デビュー
●2022年(36歳)日本育ちのクルド人女子高校生を描いた国際共同制作テレビドラマ「マイスモールランド」に出演
ホームレスや貧困、いじめを受けた経験も。支えてくれたひとたちがいるから、私はこうして生きている
戦争による混乱と困窮に苦しんでいたイランに生まれ、幼少期を児童養護施設で過ごしたサヘル・ローズさん。8歳で養母と日本に移住してからは差別やいじめ、極貧生活が続きました。
「幸いだったのは、救いの手を差し伸べてくれたひとがいたこと。自分の家に母と私を呼んでご飯を食べさせてくれた給食調理員のおばちゃん、日本語を教えてくれた校長先生……私が生き延びられたのは、多くのかたが支えてくださったおかげです」。
透明感のある声、美しくよどみない日本語でサヘルさんは語ります。「今度は私が誰かの支えになる番」と、日本の児童養護施設の子どもたちの支援など、サヘルさん流の「お節介」を続けています。
1人でも多くのひとに「児童養護施設」がどんな場所なのかを知ってほしい
「児童養護施設で育った子の多くは、自分が社会になじめるか、そして自立して生きていけるかといった不安を抱えています」。サヘルさんは彼らのロールモデルになるために、自らが児童養護施設出身であることを明かし、彼らと社会を橋渡しする活動をしています。
「児童養護施設で育ったことは恥ではなく、むしろこれまで生き延びてきたことを誇りに感じてほしい。彼らの存在を社会に伝えていくことも私の使命」。
児童養護施設って?
●全国に612カ所
●1~18歳まで2万4539人が在籍
●虐待を受けていた子の割合は65.6%
保護者がいない子どもや虐待されている子どもなどが生活する施設。虐待を受けて心に傷を負った子どもの割合は年々増加しており、専門的なケアの必要性が増している。子どもの平均在籍期間は5.2年、10年以上在籍する子どもは14.6%。
(出典)"社会的養護の施設等について"(令和2年)厚生労働省HP
血縁がなくたって親子になれる。養母のフローラと私のように
血のつながった家族はいなくても、養母や助けてくれたひとたちとの縁は宝物。「イギリスやニュージーランドをはじめ、養子縁組の家族が当たり前な国があります。縁は「血縁」だけではない。日本でも養子縁組や里親制度が当たり前になったらいいなと思っています」。上の写真は養子縁組をして間もない頃のサヘルさんとフローラさん。下は現在の2人。
アートに触れる、ひとと出会う。そんな場をつくるのも私の「お節介」
「日本には、困っていそうなひとに『大丈夫?何かあったら相談してね』と声をかける「お節介」という風習があります。私はこの美しい風習に救ってもらったので、今度は私がお節介をする番」とサヘルさん。イランで小児がんと闘う子どもたちに車いすを贈る一方で、今年3月には児童養護施設で育った子どもや成人、里親らを招きアートのイベントを自ら主催。写真は光り絵アーティスト和代人平さんのパフォーマンス。
支援を長く続けたいから自分を犠牲にし過ぎない
以前は支援に力を入れ過ぎたことも。「キャパオーバーすると、『こんなにやってあげたのに』と支援が支配に変わる瞬間が訪れる。長く支援を続けるために、自分と自分の家族をないがしろにしないことを大切にしています」。今の心のよりどころの1つは、俳優の仕事に熱中する時間。写真はサヘルさんが初めて主演した新宿梁山泊の舞台『恭しき娼婦』/2018年
いじめられてる、病気と闘ってる、家族がつらい……今、苦しいひとへの本を書きました
苦しみも喜びも経験するなかで、言葉は投げかけた相手への花束にも凶器にもなると気づいたサヘルさんは今年1月、『言葉の花束』(講談社)を出版。「私の言葉が、今つらい状況にある誰かの心に花を咲かせられたら、と祈りながら書きました」。
「私は児童養護施設で育ったの」…こう自然に打ち明けられる日本になったらいいな
「私が接した子の多くは施設で育ったことを負い目に感じていますし、実の親と暮らせていない境遇を打ち明けたときの周囲の反応に傷つくことも珍しくありません」。血縁がある親に育てられるのは必ずしも当たり前のことではない。そう考える人を増やすこともサヘルさんのテーマ。写真は児童養護施設で育った子らに向けたイベントのフィナーレ。
参照:『サンキュ!』2022年7月号「サンキュ!SGDs部」より。掲載している情報は2022年5月現在のものです。撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 取材・文/志村香織 編集/サンキュ!編集部