「コロナ禍で移住希望者が増えている」子育てをきっかけに移住した石田さんの場合

2020/08/18

子育てをきっかけに、移住に興味を持つ人は多いのではないでしょうか。とはいえ、家族で移住を実行するには大きな覚悟が必要です。

新たに居を構え、新たな仕事を探し、現在の仕事や生活を一変させなければいけません。移住したいという思いはあるが、実際に行動に移す一歩が踏み出せずに、諦める人も多いでしょう。

一方で、コロナ禍に伴う新しい生活様式やテレワークの普及により、ある意味で移住へのハードルが下がったと考える人もいるのではないでしょうか。

4年前に東京から移住したという石田恵海さんは、山梨県北杜市でレストラン「Terroir愛と胃袋」と古民家宿「旅と裸足」を経営しています。石田さんに、移住するきっかけや、移住してからのお話をお聞きしました。

なお、本インタビューは2020年7月にオンラインで実施したものです。

取材・文/みらいハウス 渡部郁子

移住について考え始めたきっかけ

もともとは編集者、ライターとして雑誌やウェブ、書籍に関わる仕事をしていた石田さん。シェフである夫と結婚し、子育てをしながらレストランを一緒に経営するなかで、移住について考え始めたそうです。

「ちょうど長男が産まれて8カ月の頃、夫が独立し、東京・三軒茶屋で一緒にフレンチレストランを運営していました。ですが、1年経たずして次男を授かり、お店を運営しながら年子の男子2人を育てるのはとにかく体力勝負。保育園が休みの休日は、私がひとりで自転車の前後に2人の子どもを乗せて公園に連れて行って1日中遊びに付き合い、ヘトヘトになることもありました。また、お店だけでなく、自宅も三軒茶屋にあったので、高額家賃を二重で支払うのなら、店舗と自宅を一体化すれば、固定費の負担が軽減できるうえ、子育てもしやすいのではないかと考え、世田谷区内で物件を探し始めたのがきっかけです」

ですが、石田さんは、なかなか思うような物件に出会えませんでした。

「お店のすぐ近くで自宅物件も紹介されたのですが、1階部分を店舗に改装すると、1億円を超すことになる。それをたとえば35年ローンで支払っていくのか……と考えた時、私たちって世田谷区で、東京でお店をすることにこだわりがあったんだっけ?とあらためて夫婦で話してみたら、お互いにまったく東京にこだわっていないことに気づきました。むしろ、子育てのためにも、もう少し自然の多い場所へ行きたいという気持ちもあり、それならばと移住について考え始めました」

都内から2時間以内、自然の多い場所へ

▲石田さんがオーナーを務める「愛と胃袋」店内の様子

自宅兼店舗探しから始まった石田さん夫婦の移住計画。移住先は、ある程度、場所を絞り込んで探し始めたそうです。

「既存の東京のお客さまもいらっしゃれるようにと、東京から2時間以内、子どもがいきいきと遊べるような自然風土があり、魅力的な学校があるところ、といった条件から、山梨県内に絞って移住先を探しました。東京にある『やまなし暮らし支援センター』に相談にいった際に北杜市を紹介され、実際に北杜市を訪問したときに、条件にも合い、かつ自然の多さや空気の良さなどから夫婦共に『ここにしよう』と決めました」

現在店舗のある場所は、実際に北杜市に移住してから見つけた物件なのだそうです。

「自宅と店舗が隣接した物件を探す中で、現在レストランをしている古民家と自宅物件になる家を借りられることになり、古民家をレストランに改装してはじめました」

地のものを、自信を持って紹介できる

▲「愛と胃袋」でいただける料理の一例。石田さんは「地のものを自信を持ってお客様に紹介することができます」と話す

山梨に移住してからもう一人子どもが増え、3人の男の子を育てながら、お店の経営を担う石田さん。移住してから感じたことをお聞きしました。

「移住を後悔したことは一度もありません。物件探しで多少苦労はしましたが、北杜市はファミリーでの移住者も多いですし、何を求めてこの地に来ているのか、という思いは似ている。理解し合える仲間にもたくさん出会うことができました。

もちろんいい面ばかりではありません。車社会なので、子どものお迎えや買い物など移動にどうしても時間がかかるので、その分、仕事にかけられる時間は東京にいるときよりタイト。しかも、仕事以外の集落の集まりから、地域を盛り上げるような活動など、東京にはない地域活動がありますから、忙しさのレベルは東京時代の比ではありません。

子どもはいつも土のうえや森の中で遊ぶことができるので、いきいきと楽しそうです。世田谷区ではマンションの上階に住んでいたので、子どもが遊ぶ用意をして地上に降りるまでに時間がかかりました。今は、家の目の前の庭ですぐさま遊べますし、近くの公園にも遠くの公園にも車での移動でストレスなく行くことができます。

コロナ禍で、東京では公園で遊ぶにもソーシャルディスタンスが必要だと思いますが、うちの場合は近くの公園に行くまで誰にも会わない、なんてことが日常だし、車というプライベート空間で移動できるので、自転車の移動よりも楽だと感じます。

また、いつも山を近くに見て、旬の野菜がおいしくて、季節の細やかさを肌で感じることができます。東京でも日本のおいしいものをお店で紹介してきましたが、ここでは、地の誰がどういう日常のなかで育てたのかまでを知るおいしいものを自信を持ってお客様に紹介することができます」

お店の運営は編集の仕事に似ている

もともと携わっていた編集やライターの仕事から店舗の経営へ、仕事の重点が大きくシフトしたことを、石田さんはどのように感じているのでしょうか。

「お店の運営は編集の仕事にとてもよく似ています。だから、自分の仕事が大きく変わったとは思いません。1割ほど書く仕事も内容によっては受けていて、八ヶ岳での仕事と子育てに関するWebマガジンのコラムの連載も持たせていただいているのですが、お店や子育てや地域活動などとにかく時間がないので、なかなか書けないでいます。

自分のキャリアについては、予定や計画は立てていません。2017年4月に『Terroir愛と胃袋』をオープンしてから3年が経ちました。そしてこの7月に古民家宿『旅と裸足』をオープンしたところです。この先は、子どもの成長と合わせて経営も成長させていけたら、と考えています」

移住について考える人へのアドバイス

石田さんの元には、移住相談者が訪れることもあります。コロナ禍で、最近は相談者が増えているそうです。

「コロナ禍の影響で、間違いなく移住者が増えています。相談された時に確認するのは次の2つのポイントです。その土地で『プライベート』と『仕事』がイメージできるかどうか。プライベートとは『なんでこの場所?』と聞かれた時に淀みなく答えられる自分ならではの納得した考えがあること。仕事とは、その土地で収入を得るための手段がある程度見えていること。この2点は重要な気がします。『その場所が好きだから』という理由だけでは移住はできても、長く暮らすのは難しいかもしれません。

子どもがいると、移住に関するいろいろな面で子どもが助けてくれます。例えば、近所のご年配の方々とのコミュニケーションに、子どもがいることは移住者と地元民とのいい潤滑油になります。私たちの住む地域は子どもが少ないのもあり、我が家の子どもたちは本当に多くの方々にかわいがっていただいていますし、田舎は子どもに助けられる機会がたくさんあると思います。だから家族で移住するという選択肢は、とてもいいと思っています」

取材を終えて

石田さんは、山梨で活躍する起業家としても注目されています。お店のことや移住のことで、アドバイスを求めて訪れるお客様も多いようです。新しく始まったばかりの古民家宿は、訪れる人をワクワクさせるデザインとコンセプトで、地域で注目されています。

石田さんの語り口調は淡々としながらも説得力があり、日々の暮らしを楽しんでいる様子が言葉の端々から伝わってきました。

コロナ禍を機に、移住に興味を持つ人が今後ますます増えるのかもしれません。そんな方々に石田さんのアドバイスが参考になることを願っています。

◆取材・文/みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。

構成:サンキュ!編集部

 
 

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