「いつか、気軽に温泉に行けるようになりたい」乳がんサバイバー増田さんがすすめる“入浴着啓発活動”とは
2020/12/18
2人に1人ががんに罹患すると言われる時代。発見が早ければ治る病気ではありますが、治療後はすべて元どおりの生活を送れるというわけではないようです。昨年乳がんと診断され、2度の手術を経験し、今なお治療を続けている増田郁理さん。乳がんが見つかるまでの経緯や治療を進めるなかで感じた不安、そして“入浴着啓発活動”について聞きました。
(取材・文:みらいハウス:渡部郁子)
話を聞いた人・・・
セルフチェックでしこりを発見
増田さんは、ある日入浴中のセルフチェックでしこりに気づいたそうです。そのときの状況をお聞きしました。
「しばらく仕事の繁忙期が続いた後、やっといち段落してゆっくりお風呂に入ることができたので、セルフチェックしていたところ、右胸のしこりに気づきました。乳がんのセルフチェックの方法を知っていたので、お風呂でチェックすることはよくありましたが、しばらく忙しい状態が続いていたので時間の余裕もなく、久しぶりにチェックしてみたのです。そのとき、豆より少し大きい程度の「何かがある」ことに気づいて、血の気がすっと引いたことを覚えています。
それからすぐに、人間ドックの予約を入れて乳がん検査をしました。再検査になり、乳腺外科の外来に行くように案内され、後日改めていくつもの精密検査を受けました。結果を聞きに行くときに「家族を連れてきてください」と言われたので、少し先の日程になってしまいましたが、夫と娘の都合のつく日を選んで病院へ行くと、「娘さんは病室に入らないでください」と言われ、そのときに「私はガンなのだ」と確信しました。
セルフチェックで気づいたのが2019年の6月。人間ドックを受けたのが7月。そして結果を聞いたのが8月。検査から結果を聞くまでの期間は、何をするにも身が入らず、気が気でない毎日を過ごしました」
即決で全摘術へ
増田さんは夫と一緒に検査結果を聞く中で、乳ガンの告知を受けました。
「そのときにステージ2、分類はルミナールAとの診断と、治療方針について詳しい説明を受けました。摘出部位については「最低限の摘出も可能ではありますが、できれば全摘しましょう」という医師の話を聞いて、右胸の全摘を即決しました。
検査から約1カ月、気が気でない毎日を送っていたので、告知を受けてむしろすっきりしたというか……摘出するなら全摘、とスパッと割り切ることができました。
ただ、手術日はその後さらに1カ月後の9月後半に決まり、やきもきしながら手術日を待つ日々が始まりました。近くの温浴施設に行ったり、右胸との別れを惜しみながら過ごしました」
手術は成功、しかし……
それまで、出産以外で入院したことがなかったという増田さん。入院生活もリハビリも順調で、予定より早く退院したのですが、術後の結果は思うように進みませんでした。
「術後の精密検査で、ルミナールAタイプではなく、HER2陽性タイプだったことがわかりました。抗がん剤治療の必要がないルミナールAという診断から、抗がん剤治療が必要なHER2陽性タイプになったことに、大きなショックを受けてしまいました。
全摘で治ると思っていたのに、思ったように進まないことに気持ちが沈み、不安が広がりました。抗がん剤治療に不安があったので、もともとの治療方針では抗がん剤治療の必要がない、と聞いていたことが救いだったのです。
でもここで歩みを止めてはいけない、と思い直して、10月から抗がん剤治療を開始しました。治療に前向きになれたのは、最初に告知を受けてからあらゆる場面で一緒に支えてくれるガン専門の看護師さんの存在が大きかったです。
とても恐れていた抗がん剤治療ですが、心配していた吐き気は、吐き気止めの薬を飲めば大丈夫でした。髪の毛が抜けることも心配だったのですが、覚悟と準備ができたせいか、実際に治療を始めて14日後ごろから抜け始めたとき、思ったよりショックはありませんでした。
抗がん剤治療が、体調により予定どおり受けられないこともありました。加えて、リンパ節を取るため12月に再度手術をすることになりました。2度目の手術は、当時小3の娘に大きな精神的ダメージを与えたようで、入院中に家に来てくれた義母と娘がぶつかり合うこともあったようです」
人として丁寧に生きること
ガンのタイプが変わり、治療方針が変わり、2回目の手術を受けるなど、思うように進まないガンとの闘いの中で、しっかり前を向いて治療を続けてきた増田さん。医師や医療への不信感などはなかったのでしょうか。
「最初に告知を受けたときから、ガン専門の看護師さんが寄り添ってさまざまな相談に応じてくれました。その看護師さんに初めて会ったとき「ネットや根拠のない話は信じないように」と言われました。もし不安があれば先生に聞いてクリアにするべきという話を聞いて、ネットで調べることはあえてしませんでした。今ある標準治療は悪いものではないし、間違いもないと信じて、治療に不安はありませんでした。
今も治療を続けているし、再発の不安がないこともありません。ただ、先生からの「食べられるものを食べて、普通に生活してください」という言葉を聞いて、「人として丁寧に生きること」を大切にしていきたいと改めて感じています」
乳がんサバイバーとしての活動
増田さんは今、乳がん経験者として「入浴着啓発活動」に取り組んでいます。乳房の摘出を受けた人が公衆浴場で周りの目を気にせず入浴できる「入浴着」の存在を多くの人に知らせる活動です。
「治療が落ち着いてきたころ、同じ病気と向き合う人と話をしたくて、オンラインでお茶会を呼びかけました。5人の参加者が集まりさまざまな話をする中で、入浴着の話になりました。私が手術で一番残念に思っていたのは、公衆浴場に行けなくなることでした。入浴着があっても、知られていない。使える施設が少ない。だから、入浴着を広く知ってもらい、使える施設を増やしていけたらという話になり、啓発動画を作成することにしました。
賛同してくれた各地の温浴施設で、この動画が流れています。入浴着が一般的になって、私もまた気軽に公共浴場を楽しめる日がくることを楽しみにしています」
なお、増田さんが啓発を進めている「入浴着(バスタイムカバー)」を手掛けているブライトアイズでは、女性のがんの心と身体をサポートするための商品がほかにも数多くそろっています。他人事と思わず、ぜひ一度サイトをチェックみてはいかがでしょうか。
◆取材・文/みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。
構成:サンキュ!編集部