二男に骨肉腫がわかって1年『命さえあればいいじゃない』

2024/03/02

2月4日はワールドキャンサーデー(世界対がんデー)。世界中の人々の「がん」に関する意識を高め、がんに対して行動を起こすことを目的としています。日本人の2人に1人ががんになる時代(※)。誰にとってもひとごとではないがんを経験したママにお話を聞きました。

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(※)人口動態統計:厚生労働省(2021)

<プロフィール>
篠原春香さん 43歳 2人の子の母
栃木県在住。家族構成は夫(44歳)、長男(小6)、二男(小4)、愛犬(3歳)。看護学校卒業後、病棟看護師などを経て現在は通所型介護施設の看護師としてパートで働く。好きな時間は友達とランチやお茶をしながらおしゃべりすること。二男の怜くんのがんがわかってから控えていた友達付き合いを最近少しずつ解禁。

骨肉腫の告知と同時に母子入院と治療の生活が待ったなしに始まった

「病院で検査を受け、二男の怜が骨肉腫かもしれないと知った日の夜は頭が真っ白になるまで泣き、ネット検索して不安でいっぱいになってまた大泣きして、その繰り返しで朝を迎えました」。翌日東京の大学病院に緊急入院し、9カ月に及ぶ過酷ながん治療が始まりました。同時に家族の生活も一変。「私は休職して90日間の付き添い入院をしました。命を守るために治療が最優先。でも家はどうしよう。長男の世話は?思春期の難しい時期に長く離れて大丈夫だろうか。長男の日常を守ること、仕事やお金のことも夫婦で話し合い、実家の母にも頼って生活を回し、闘病に伴走して……もう無我夢中でした」。退院後も多くの課題が残っています。「骨肉腫は肺に転移するリスクがあり、治療が終わっても不安はあります。だけど今、家族がこうして一緒に過ごせていることが心からありがたい。そう思って日々を生きています」。

病室のベッドで勉強中。治療を始めた頃はマッシュルームカットだった怜くんは、このあと抗がん剤治療で髪を失う
腫瘍が見つかった骨を切る手術を受けたあと。傷の長さは約25センチにわたった。「看護師の私も小児科や腫瘍の分野は専門外。治療は病院に一任しました」

HISTORY

2022年秋 怜くんが左の足首周辺を痛がり始める
2023年1月 怜くんが左足を引きずるように歩いているのに気づき病院へ。レントゲンで異常が見つかる。骨肉腫を疑われ、東京都内の大学病院を受診し、そのまま入院
2月 骨肉腫と診断され、抗がん剤治療が始まる
5月 左大腿骨の悪性腫瘍を取り除き、人工関節を入れる手術を受ける/抗がん剤治療再開
8月 手術した場所が感染症を起こしていることがわかり、感染したところを取り除く手術を受ける
10月 皮膚の下の異常な組織を取り除く手術を受け、9カ月にわたるがん治療が終わり退院
11月 自宅でのリハビリを開始/特別支援学級に復学

思いもよらない試練がありました

ひとたび子どものがん治療が始まると、お金の工面や付き添い入院、遠方からの通い面会、退院後の生活など、乗り越えなければならない困難が次々と押し寄せました。

【母の付き添い入院と通い面会】病床脇の簡易ベッドで付き添い入院。食事は出ず、3食コンビニ

付き添って病院生活をする保護者には食事は出ず、外出も制限されるため近くのコンビニで調達。「治療で苦しむ息子を身を切られる思いで見守り、夜は子どもの様子を気にしながら硬いベッドで眠りました。付き添い入院以外の約6カ月間は週3回、往復4時間かけて面会へ。帰り際『ママ帰らないで』と大泣きされて電車を乗り過ごすこともたびたびでした」。

看護師を始め病棟スタッフは大忙し。付き添い入院する保護者は24時間態勢で子どもをケアすることになる
子どもの病床の脇に置かれた簡易ベッドで寝泊まり。ベッドがギシギシ音がするので寝返りは我慢する

【お金】子どもは医療費がかからない、だから保険は不要と言われていたけど……

「子どもの医療費は助成制度があるから治療自体は無料です。でも長期入院となると思わぬ出費がかさみ、9カ月で約120万円かかりました。わたしは休職して収入がストップしたのでダメージは余計に大きく、貯蓄を取り崩しました。ただ夫の保険に子どもの医療特約をつけていたことで、すごく救われました。これから入院給付と手術給付で65万円を受け取る予定です」。

医師からの説明を書き留めたノートに、毎日の出費も記録

予想もしなかった出費があった(1カ月当たり)

付き添い入院中
■ 付き添い入院中の母の食事・飲み物代 約3万円
■洗濯機やテレビを利用するためのカード代 約6000円
■付き添い入院の母の寝具のリース料 約1万3000円
■ 息子が体調不良の時の食事・間食・飲み物代 約1万5000円
 総額 約6万4000円

通い面会中
■ 面会日の交通費(宇都宮‐東京 在来線利用) 約6万円
※傷の感染により急きょ医師から呼び出された際は新幹線を利用したので、別途往復8000円
■ 面会日の駐車料金(自宅ー最寄駅までは車移動) 約4800円
■面会日の母の昼食代 約1万円
■面会日の息子の食事・間食・飲み物代 約3万円
(冷凍食品や「マクドナルド」のハンバーガーなど。食欲が落ちた怜くんの希望にできる限り応じた)
 総額 約11万2800円

■ 診断書作成料など 約2万円

【退院後の暮らし】普通に学校生活を送れるまでには、まだまだ時間がかかる

怜くんの退院から約1カ月。「徒歩20分の通学と階段の上り下りなど校内での移動をどうするか、9カ月間の学習の遅れをどう取り戻すかなどハードルがいくつもあって、最近1日1時限のお試し通学がようやく始まったところ。自宅でのリハビリ生活やがんの経過観察、いずれは人工関節を伸ばす手術も必要です。退院して万事解決!なのではなく、道のりは長い。少しずつ前に進んでいます」。

障害者手帳4級を交付された怜くんの移動はつえか車いす。エレベーターのない小学校での学校生活は難しい

子どもの勉強やゲーム、大人の仕事や人間関係は、命に比べれば小さな悩み

「怜の病気を機に、生きていることがどんなに大切かを思い知らされました。勉強や生活習慣、大人のいざこざも“生きてこそ”の悩み。いつもの生活に戻って子どもを育てていると焦りや欲が顔を出してしまうけど『命さえあればいいじゃない』と自分に言い聞かせています」。

参照:『サンキュ!』2024年3月号「がんを経験したわたしのストーリー」より。掲載している情報は2024年1月現在のものです。撮影/久富健太郎 取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部

 
 

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