「がんは治る時代。よかったね」という言葉に傷つくことも。小児がんの子とママのしんどい現実に寄り添う

2023/08/19

息子が小児がんになって初めて知った、子にも親にもつら過ぎる現実を、少しでも楽にしたい。そう考えた阿部美幸さんは、小児がんの患者と家族を支える「勇者の会」を立ち上げました。阿部さんの活動エリアは北海道。取材の日は旭川に住む茉羽ちゃんと涼風ちゃんとママのために「勇者ようちえん」を開きました。写真右端が阿部美幸さん、右から2番目は阿部さんのママ友で「勇者の会」の事務や幼児教育を担当する西下理恵さん。

1972年北海道小樽市生まれ。高校卒業後就職し、北海道の観光に関わったのち結婚、退職。長男が小3で小児がん(...

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●プロフィール
(あべ みゆき)1972年北海道小樽市生まれ。高校卒業後就職し、北海道の観光に関わったのち結婚、退職。長男が小3で小児がん(急性リンパ性白血病)を発症し、入院・在宅で通算2年半余り抗がん剤治療を経験。そのときに痛感した子どもと親の苦しみに寄り添おうと2017年「勇者の会」を立ち上げる。家族構成は55歳の夫と23歳の長女、高1になった長男。趣味はK-POP鑑賞で推しはBIGBANG(カムバックを切望)。

小児がんの子と家族の苦しみ。「放っておけない!」と、ママが立ち上がった

息子が小児がんになって知った、子どもにも親にもつら過ぎる現実。居ても立ってもいられなくなって、「支える会」をつくった。

「1年以上続いた入院では私も病院に泊まり込み、痛みや不安と闘う息子の治療生活に24時間付き添いました。4人部屋で親は添い寝か硬い簡易ベッドで寝るため、いつも寝不足。子どもの前では涙を見せず、夜中に声を殺して泣く毎日でした」。闘病中の困りごとの1つが勉強。「勉強の遅れや治療の副作用が原因で、退院後も学校に行けない子が何人もいました。私は高卒で教員免許も持っていません。だから、勉強を教えた経験のある大学生や社会人を探して患者会『勇者の会』を手さぐりでつくり、息子や同じ病気の子の勉強支援を始めました」。

キャンプなど親子イベントや交流会、病院に付き添うママの買い物代行なども行い、家族のケアにも努めています。「経験しないとわからないつらさがたくさんあって、私はそれを知っているからこそ、今苦しんでいる人の力になりたいです」。その熱い思いが阿部さんの原動力になっています。

闘病中の長男・透真くんと阿部さん。感染症を防ぐため常時つけていたマスクには、透真くんが夢中だったBIGBANGのメンバーG-DRAGONのロゴ
入院中のベッド脇。透真くんは抗がん剤治療の副作用で赤血球などをつくることができなくなったため何度も輸血を受けた

「がんは治る時代。良かったね」と言われるけど、息子が生きるための闘いは、子にも親にも壮絶だった

「息子と同時期に入院していた小児がんの子のなかには亡くなった子もいます。助かったとしても、小児がんの治療に使う抗がん剤はとても強いため闘病は過酷で後遺症も重く、発達の遅れや不妊など障害が残ることもありますし、治療のつらさから心の病にかかる子もいます。みんな励ますつもりで『がんは治る』と言ってくれるのはわかる。けれど現実を知らない言葉に傷つくことがあるのも事実です」。

【DATA】小児がん※と診断された子の人数 2117人 子ども約7500人に1人の割合

※0歳から14歳の子どものがん
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(2019年)

小児がんは希少がんが多いのが特徴。同病の子がなかなかいないため情報交換がしづらく、子も親も不安や孤独感がつのる要因に。

(がん診療連携拠点病院等「院内がん登録」 2016-2017年小児AYA集計報告書より作成)

透真くんの闘病記録

阿部さんの長男の透真くんは小3で突然、小児がんを発症。痛い検査や治療と、強烈な吐き気や脱毛など重い副作用をともなう抗がん剤治療を経験しました。

入院したばかりの頃の透真くん
連日の痛い治療に泣く
腰椎に針を刺し骨髄を取る治療
病室で母の日を迎える
今年の春、高1になった透真くん。今も経過観察は続いている

園に通えない子に、体験と笑顔をプレゼント

治療や後遺症で園に通えない子どもと親を招いて「勇者ようちえん」を開く活動をしています。「子どもと家族は治療優先の生活で、多くの我慢を強いられます。でも、がんを理由に子ども時代の楽しみをあきらめるのは悲しい。だから、その時しか体験できないことを1つでも多くさせてあげたいです」。

お歌が大好きな茉羽ちゃんは9カ月で重い脳腫瘍がわかり、過酷な手術と抗がん剤治療、放射線治療を経験しています。「障害が残ってしまったので保育園などには入れず、デイサービスに行っています。ふつうの子のように楽しませていただけるのがうれしいし、私を休ませてくれようとしているのも伝わり、感謝しかないです」とママのほのかさん(25歳)
白血病で1年3カ月間入院し、昨年退院した涼楓ちゃんとママのちあきさん(30歳)。「この子にとってはここが幼稚園。明日からも治療がんばろうと思えます」
子どもたちが大好きな手遊び。ふだんお友達との交流がほとんどないふたりには、刺激がいっぱいの特別な時間。もう少し大きい子にはひらがなを教えることも

病気に24時間寄り添うママを力いっぱい応援する

「元気な子に産んであげられなくてごめん」「私が病気を代わってあげたい」……子どもが病気になったことで、自分を責めてしまうママの気持ちが痛いほどわかる、と阿部さん。ママの生活は、子どもががんと告げられたその瞬間から激変し、ひたすら病気と向き合うことになります。24時間365日、気が休まることはないママに寄り添い元気づけることも阿部さんのテーマ。

いつも頑張っているママに、「ベストマザー賞」を贈る
「ママが笑っていないと娘も笑えない。だから私は笑って生きています」と、ほのかさん

数えきれないほど泣いてきたけど、仲間がいるから頑張れる

「がんがわかった瞬間から暮らしは一変。向き合うものが違い過ぎて、ふつうのママ友とは疎遠になってしまいます」(ほのかさん/左)。「でも『勇者の会』には不安や孤独を共有できる人がいます。つらくて押しつぶされそうになる日もあるけど、私と同じように戦っているママやパパ、子どもたちとの交流にも救われています」(ちあきさん/右)

参照:『サンキュ!』2023年9月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2023年7月現在のものです。撮影/久富健太郎 取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部

 
 

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