性教育と聞くと、どんなことを思い浮かべますか?からだの仕組みや男女の違いなどについて学んだ小学校の授業を思い出す人も少なくないのでは?「生」教育アドバイザーの山田亜弥さんが伝えているのは「包括的性教育」。従来の性教育とは異なり、自分らしさや人との関わりを大切にし、心とからだのことを幅広く学びます。山田さんはどのようなことを伝えているのか、また包括的性教育が浸透した未来に何を期待するのか伺いました。
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- 「包括的性教育」とは自分の心とからだと向き合うための大切な教育
- 心とからだのことを楽しく学ぶ、性教育の出前授業
- どんなに親しい仲でも自分と相手には境界線がある…「バウンダリー」という考え方
- 今日から取り入れられる”おうちで性教育”のすすめ
プロフィール:山田亜弥さん
「生」教育アドバイザー。園児や小・中学生向けに、性教育やいのちの大切さを伝える出前授業を行っている。また、最近では教育現場で働く職員向けに研修や講演を行い、注目を集めている。Instagramは@ohanairo_aya
「包括的性教育」とは自分の心とからだと向き合うための大切な教育
日本では、性教育というとからだのことや生殖のことを教えるものだと思っている人が多いですが、包括的性教育のベースにあるのは”私たちは大切にされる存在である”という考え方。
そのほかジェンダーに関することや生まれた国の文化や価値観の違いを大切にしようというところまで、幅広いテーマを包括的に学びます。
包括的性教育でとくに大切にしているのが、人と人とのコミュニケーション。「0歳から死ぬまで、生きることについて考えたり議論したり大切にしたりしていることが包括的性教育。なので、人生まるっと教育だなって私は思っています」と山田さんは話します。
自らを「生」教育アドバイザーと呼ぶ山田さん。「包括的性教育を伝えれば伝えるほど、性教育って生きることに関する学びそのものだなって実感しています。なので、親しみやすさも含めてあえて「生」教育と表現しています」
さらに「おっ、なんでその字?」と疑問を持ってもらうことで、包括的性教育に興味を持つきっかけにしてもらいたいという狙いもあるのだとか。
心とからだのことを楽しく学ぶ、性教育の出前授業
山田さんは園児から小中学生まで、子どもたちに性教育を教える出前授業をおこなっています。
園児向けのワークショップでは、色水を使って生理時のナプキンを再現する実験をおこなったり射精について学んだりしてきました。なんと、コンドームをふくらませて風船バレーをしたこともあるんだとか!
小さな子どもでも、ワイワイ楽しく心と体のことを学べるのが山田さんの授業の特徴です。
性教育の授業をするにあたって、緊張しているのはお母さんたちのほうだと山田さんは言います。当の子どもたちは「人間ってすごいね!」「自分ってこうやって生まれてきたんだ」と感動してくれるのだそう。
このように自分の出生の秘密を知ることで、自分って大事なんだなと思うことにも繋がります。そのためにも、性教育を伝える大人が恥ずかしがらずに淡々と話すことが大切です。
どんなに親しい仲でも自分と相手には境界線がある…「バウンダリー」という考え方
看護師、レディースクリニックのスタッフとして働いていた山田さんが現在のような性教育の授業をすることになったのは、教員をしている友人からの依頼がきっかけでした。中学生に向けて性教育の授業をおこなったことが実績となり、今では北海道内を中心に各地のこども園や子育てサロン、小中学校などへと足を運んでいます。
また、外部講師として性教育の授業をすることにはメリットもあると山田さんは話します。
「現在の日本には、性交や妊娠の経過について学校教育のなかで扱わないものとする「はどめ規定」というものが存在します。必ずしも守らなければいけないというものではありませんが、文部科学省の方針に沿った授業を求められるなかで、先生方がそこを飛び越えて踏み込んだ内容を扱うことがむずかしいのが現状。そのため、私が外部講師として科学的な知識をもとに補完的な立場で伝える立場を担っています」。
たとえば、先日おこなわれた中学校の授業では、デートDVについて話すなかでセックスについても明確に言及したそうです。
「付き合っていたら、セックスをすることが最大級の愛の証というのは恋愛の思い込み、ということを伝えました。子どもたちがインターネットやSNSを通じて誤った情報を仕入れてしまう前に、正しい知識を持った大人が教えることが大切だと私は考えています」。
山田さんの授業では性犯罪への言及を行うこともありますが、そこでも包括的性教育の知識や考え方が活かされています。
「包括的性教育のベースにあるのは“私たちは大切にされる存在である”という考え方ですが、これは言い換えれば他人も大切ってことなんです。包括的性教育が当たりまえな世の中になれば、自分が大事だから隣のだれかを大事にできて、隣のだれかが大事だから周りもみんなを大事にできる…っていう連鎖が生まれて、性犯罪はもちろん、暴力すら起きないんじゃないかって私は思っています」。
今日から取り入れられる”おうちで性教育”のすすめ
性教育は学校だけではなく、家庭でも行うことが大切と山田さんは言います。
「性教育というと「何かを教えなければ」と思いがちですが、実は小さいうちは育児すべてが性教育。自分が大切にされていると実感できるように接することを心がけます。
男女の違いに気づき始める3歳頃から、少しずつからだについて知っていく。そして小学生になったら、思春期に向け10歳頃までに生理や射精などについて話すことが理想です。さらに、恋愛が絡んでくる中高生では、避妊について教えることも重要。しかしそれまでの土台ができていなければ、いきなりそのような話はできませんよね。ですから、性教育は小さいうちからの積み重ねが大切なんです。
すでに子どもが思春期を迎えている場合には、思春期向けの本や漫画を取り入れるのがおすすめ。また、思春期のサイトもあります。何か知りたいことがあったとき、通常のインターネット検索ではアダルトコンテンツに繋がってしまうことも。思春期の子どもたちのために作られたサイトなら、専門家が答えてくれるので安心です」
山田さんおすすめの思春期向け性教育サイト
セイシルは、10代の若者が抱える性のモヤモヤに答えるwebメディアです。医療関係者をはじめとする専門家が、なかなか身近な人には相談しにくい性のお悩みに回答してくれます。
思春期の子どもたちが抱える性に関する疑問を、わかりやすく解説しているサイト。子どもにからだや性のことをどのように伝えたらよいかが性別・年齢別に書かれた、保護者向けのコンテンツもあります。
若者の性に関する正しい情報を伝える、NPO団体ピルコンの公式サイト。心とからだのお悩みをはじめ、デートDVなどについても学べます。
ママも自分自身を大切に…完璧でない自分を受け入れる
包括的性教育が必要なのは、子どもだけではありません。ベースにある“私たちは大切にされる存在である”という考えは、大人にとっても大切なものでしょう。
山田さんが自分を大切にするうえで大切にしているのは「どんな自分でも否定しない」こと。”HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)”と呼ばれる繊細気質の持ち主である山田さん。元々は一人反省会が大の得意でした。しかし今は「失敗したけどまあいっか」と受け入れて、どんな小さいことでも自分を褒めることに変換していくことを心がけているそうです。
「ママが子どもに幸せでいてほしいと思ったとき、まず幸せになるべきは自分だなって思ってます。子どもに自分っていいな、自分を大切にしてほしいなって思うのであれば、まずママである自分が自分を大切にする。完璧でない自分も受け入れたり自分にご褒美をあげたり、自分にフォーカスを当てて自分が生まれた価値をずっと忘れないでほしいなと思っています」
包括的性教育の考え方が浸透することで、だれもが自分や相手を認めて受け入れられる。それはやがて、暴力のない世界にも繋がっていく…。私たち大人も、いま一度包括的性教育についてこの機会に学んでみませんか。
執筆者…サンキュ!STYLE 取材班 むらせ
年中と年長の年子姉弟の母。家事・育児とのバランスに悩みながらもフリーライターとして奮闘中。サンキュ!STYLEにて暮らしをラクにする商品に関する記事を執筆中。