乙武洋匡さん「僕は〈存在を断捨離〉されることが多いんですよ」
2021/06/22
断捨離®の提唱者やましたひでこ先生のご自宅(本物っ)に断捨離しているゲストを迎えて対談。今月のお客様は作家の乙武洋匡さん!
「僕はだいたい、断捨離するより断捨離されることのほうが多いんですよ」と乙武さん。立ち直りたいときは、無い物、失った物を数えるのではなく、ある物に気持ちをフォーカスするのが正解だけど、未練はなかなか断捨離できない……。
「ないもの探し」ではなく「あるもの探し」をして生きたい。
乙武洋匡
作家。1976年、東京都生まれ。早稲田大学在学中に出版した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員など歴任。最新作は「家族とは何か」「ふつうとは何か」を問う小説『ヒゲとナプキン』(小学館)。現在はロボット義足による二足歩行に挑戦中。 YouTubeチャンネル 乙武洋匡の情熱教室 - Limitless OTO
やましたひでこ
断捨離®提唱者。1954年、東京生まれ。早稲田大学を卒業し子育てや介護を経験した後、ヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」から着想を得た「断捨離」理論を構築。BS朝日『ウチ、"断捨離"しました!』(毎週月曜夜8時)にレギュラー出演中。最新刊は『モノ・人・心の悩みが消えていく断捨離道場』(講談社)。
乙武さんは一体何をしたい人?
ひでこ:率直に聞くけれど、乙武さんのご職業は何かしら(笑)?
乙武:よく聞かれます!(笑)。なんでもやってますね。大学時代に『五体不満足』を出版し、卒業後はスポーツライター、小学校の教師、東京都教育委員などを経て今に至るのですが、仕事をつうじて実現したいテーマの軸は一貫しているんです。それは、「どんな境遇の人も幅広い選択肢を持てる世の中にする」です。
ひでこ:障害を持つ人だけでなく?
乙武:はい。「障害をもつ人も含めた、マイノリティーの人にも幅広い選択肢を!」が僕の不変のテーマです。マイノリティーとは社会的少数者を指します。たとえば私のような障害者や難病の患者、貧困家庭に生まれた子どもや海外にルーツを持つ方、そしてLGBTQなどですね。彼らには選択肢が少ないので、それを変えたくて。一人ひとりのちがいを認めあい、一人ひとりが胸を張って生きていける社会にしたいです。「選択肢を増やす」というと、断捨離とは正反対に見えるけど、実は共通する部分もあると思うんですよね。
ひでこ:ですね。「不足」も「過剰」も、つまり「選べない状態」。乙武さんは前者、私は後者からの脱却をめざしている。
乙武:おっしゃるとおりです。
選択肢があるのは、当たり前ではない
ひでこ:人間って「不足」には敏感だけど、「過剰」には鈍感なんですよね。断捨離が苦手な人のように、既に足りているのに「不足」と思い込んで、結果「過剰」になって迷ってしまい、選べなくなるのは本当に残念。
乙武:選択肢があるって、すごいことなんですけどね。僕が「幸せとは?」と聞かれて必ず答えるのは、「自分で自分の人生を選べること」。たくさんの中から絞ることと、最初から選択肢がないことは、まったく違いますからね。
僕は断捨離するより、断捨離される側かも……
ひでこ:断捨離はしてますか?
乙武:僕はむしろ「存在を断捨離」されることが多いですね(苦笑)。そのつど苦しいですが、一方で持ち前のMっ気が発動されて、この試練を糧に成長できるなとも思うんです。「失ったものを数えるな、残されたものを活かせ」というパラスポーツの精神を表す言葉があるんですが、まさにそれですね。元の自分に戻ろうとすると絶望しかないので、リセットしてゼロから積み上げて、今の僕がいます。
ひでこ:つらいけどリセットして、ゼロから再起動。それ、今の日本の社会に必要な考え方だと思いますね。イケイケの時代に戻ろうとするのではなく、「今」を基準にどう変わっていくのかを考えないとね。
乙武:同感です。でも、イケイケの時代に戻りたいと思っている人も多いようですね。
ひでこ:過去への執着ね。人間って儚(はかな)い存在でしょう? たとえば旅の記念におみやげを買おうとするのは、自分が確かにそこに存在していたという印が欲しいから。その結果、物に縛られて身動きが取れなくなっている人も多いんですよ。
乙武:根深い問題ですね。僕の友人の父親はそれとは真逆の考え方の教育方針で、子どもに物をほとんど買い与えないぶん、旅行や読書のチャンスは惜しみなく与えるんです。物は災害でも起ころうものなら消えてしまうけど、体験して心で感じたことは消えないからって。
ひでこ:素敵な考え方! これからの時代はそういう発想が大事ね。
乙武: 人生100年時代、生き方、働き方がどんどん変わっていくなかで、断捨離はますます必要になりそうですね。
ひでこ:そう。人生のステージが変わったのに、舞台上には既に終わった演目の大道具や登場人物が残されたままだなんて、あり得ないもの。物を手放して、変わっていかないと。
断捨離できない未練と、どうやって生きていく?
乙武:僕も自分の今のステージにふさわしい物を選ばないと、と思っているんですが……。5年前の行動については反省しかありませんが、正直今も、それにより政治への道を絶たれたことへの未練を引きずっておりまして……。「どんな人にも選択肢のある社会を」という僕のライフワークを実現するには、政治に携わることがいちばんの早道だと考えていたんです。今のところまだ、それ以上の夢を見つけられていないんですよ。
ひでこ:そうでしたか。乙武さんは夢を断捨離されてしまったんですね……。では私も告白しますね。実は私も最近、生まれて初めて「断捨離された」の。しかも人間関係で……。
乙武:え! 断捨離の先生が、逆の立場に?
ひでこ:ええ。おかげで「断捨離できない未練とどうつきあう?」という新たな課題に取り組むことになりました。まだまだ模索中だけれど、未練も過去への執着の一種なので、そこから離れて「今」と向き合うことは必要と思っているところです。でもつらいわね……。
乙武:つらいですよね。わかります。それでも今ととことん向き合って、その結果「今が幸せ」と思えたら、つらい過去も「終わったこと」として受け入れられるかもしれませんね。
ひでこ:そうね。「今」をポジティブに切り取れれば視点が変わって、過去も未来も変えられるますからね。乙武さんにはきっと、政治の世界以上に力を発揮できる場所があると思いますよ。乙武さん自身の選択肢を増やすこともライフワークの実現の一歩なのだし、「次はこれをやる!」と決めてしまえば、道は必ず開けるわ。大丈夫!
乙武:ありがとうございます。なんだか勇気がわいてきたな~!
ひでこ:お互い、頑張りましょうね!
参照:『サンキュ!』2021年7月号「断捨離トークひでこの部屋」より。掲載している情報は2021年5月現在のものです。撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 取材・文/志村香織 編集/サンキュ!編集部
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