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競技中にバク宙すると「-2点」……フィギュアスケートで「減点」されることとは?

2022/02/03

2022年2月4日から開幕する北京2022冬季五輪。数ある競技のなかでも、メダル獲得への期待がとくに高いのがフィギュアスケートです。五輪開幕当日の午前9:55(北京現地時間/日本時間10:55)に始まる「団体戦の男子シングル ショートプログラム」を皮切りに、2月20日の「エキシビション」まで、連日のようにフィギュアスケートが見られるということで、テレビ観戦を楽しみにしている人も多いのでは?

そこでサンキュ!では五輪開幕に合わせて、日本中が注目するフィギュアスケート競技の観戦がもっと楽しくなる情報をお届け。解説してくれるのは、さまざまなメディアでフィギュアスケートのライターとして活躍する長谷川仁美さんです。

ライター。1974年静岡市生まれ。1992年アルベールビル五輪の伊藤みどりさんのころからフィギュアスケートを...

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フィギュア競技で「バク宙」を見ない理由は?

氷上でのバク宙、ご覧になったことはありますか?そして、競技中にバク宙を行うと「-2点」されてしまうことは、ご存知でしょうか?

「-2点」って結構大きいので、競技中に行う人はいません。私たちがバク宙を見られるのは競技以外の場になります。アイスショーやエキシビションには違反がないので、男性が女性の靴を持ったリフトや、バク宙なども目にするのです。ちなみに、今大会の優勝候補のひとりであるネイサン・チェン(アメリカ/男子シングル)も、エキシビションでよくバク宙を見せています。

こんな風に、フィギュアスケートにはいくつか「減点される」項目があります。今回は、どんなときに減点されるのかについて、見ていきましょう。

バク宙以外にもいろいろ……危険な技は減点される

図アイススケート
Lefthand666/gettyimages

先ほどのバク宙は、「違反要素」のために減点されます。

「違反要素」とされているのは、「サマーソルト型ジャンプ」と「不正なホールドでのリフト」です。「サマーソルト」とは、具体的に言うと“でんぐり返し”、“とんぼ返り”、“宙返り“、“前か後ろへの回転”のこと)。つまり、頭が下に来る回転をするジャンプは違反とされています。

もう1つの「不正なホールドでのリフト」ですが、これはペアで男性が女性を持ち上げるとき、足や腰などをホールドせず、靴やブレード(スケートの刃)だけを持っている、というような状態を指します。

この2つが違反要素とされているのは、「危険だから」です。

衣装などから装飾が落ちるのも減点対象

危険が理由の減点には、衣装がからんだものもあります。

フィギュアスケートの衣装には、キラキラ光るスワロフスキーやビーズなど、かなりの装飾品がついています。ふわふわした羽根がつけられたものもあります。

衣装のデザイナーさんたちは、そうした小さな装飾が落ちないようにと、丁寧に1つ1つ手で接着していますし、羽根の芯の部分をしっかりつけています。ですが、転倒や何かのはずみで、装飾が落ちてしまうこともあります。すると、衣装などからなにかが1個落ちるごとに「-1点」されていきます。氷の上に何かが落ちていたらとても危険だからです。

名前を呼ばれたら30秒以内に!「時間」に関する減点

フィギュアスケート。
Artur Didyk/gettyimages

減点項目にはほかに、時間に関するものもいくつかあります。

まずは、選手が名前をコールされてから、スタートポジションにつく(静止する)までの時間が、30秒以内と決められています。

試合になると、「カオリサカモト、ジャパーン」といったコールとともに選手がリンクに出てきますね。そうやって出てきた選手たちは、名前のコールから30秒以内にスタートポジションにつかねばなりません。31秒以上かかってしまうと、「-1点」なのです。

ときどき、集中のあまり時間経過に気づかない選手がいます。たいてい会場の大型スクリーンに時間経過が表示されているので、20秒過ぎても選手がまだスタートポジションにつきそうもないと、会場がざわざわしはじめます。前列のほうの観客がなんとなく「時間、時間!」とお知らせしたりして、選手がはっと気づいて、ぎりぎり間に合い「ほっ……」といったこともあります。

演技時間をオーバーすると「5秒ごとに-1点」

時間についての減点は、もうひとつ。各選手の演技時間は、ルールで決められているのですが、この演技時間を超えてしまったり足りなかったりした場合、「5秒ごとに-1点」されていきます。

ちなみに演技時間は、男子シングル、女子シングル、ペアでは、ショートプログラムは2分40秒 (±10秒)、フリーは4分(±10秒)。アイスダンスのリズムダンスは2分50秒(±10秒)、フリーダンスは4分(±10秒)です。

選手たちは、上記の演技時間内に収まるように編集した曲を、大会に持参しています。もちろん、何かがあっても大丈夫なように、最大使える演技時間より数秒短く、音楽編集をしてきます。ですので、流れる曲に合わせて演技が終われば、時間超過も不足もありません。

ですが、想定通りに行かないこともあるのです。たとえば、演技のどこかで転倒したりミスしたりしたとき、そのミスに時間をとられてしまいますよね。それが2~3秒とかであっても、いくつか積み重なると、余裕を持っていたはずの演技時間を超えてしまったりするのです。

ほかにも、演技中に怪我をしてしまったり、靴ひもがほどけてしまったりして演技を中断したときにも、減点されます。

「転倒」の減点は、結構厳しい……

優雅なフィギュアスケートの女の子黒のシルエット
sportpoint/gettyimages

転倒については、厳しい減点が決められています。

「転倒」とは、選手がコントロールを失って、体重の半分以上がブレード以外の部分に支えられた状態になること。具体的に言うと、片手や両手とか片膝、両膝、片尻、両尻、腕の一部が氷についてしまったとき、ですね。ですので、ジャンプで転んだ、という以外の転倒も、すべて減点対象です。

五輪のようなシニアの大会では、転倒1回で「-1点」、2回目も「-1点」、3回目と4回目はそれぞれ「-2点」、5回目以降は「-3点」です。つまり2回転倒したら「-2点」、4回転倒したら「-6点」!……結構厳しいですよね。

「ジャンプの転倒」には、さらにもう少し減点があります。少し複雑になりますが、転倒したジャンプは、でき栄えがマイナス評価されます。つまり、ジャンプが本来持っている「基礎点」という得点から、点数を引かれてしまうのですね。

アイスダンスは離れすぎるのがNG

また、アイスダンスには、違反制約がたくさんあります。たくさんありすぎてお伝えしきれないのですが、覚えていただきたいのは1つだけ。「男女が2m以上離れてはいけない」ということです(一部例外あり)。

とにかく2人が2m以上、つまりお互いが腕を伸ばしあった「両手間隔」以上離れてはいけない。それくらい近い位置で2人が滑る、つまりアイスダンスとは、それくらいむずかしいものだということもわかりますね。

自由なように見える「衣装」にもさまざまな規定が

少女フィギュアスケート
SergeyNivens/gettyimages

ふわふわエアリーだったり、キラキラ輝いていたり……フィギュアスケートの衣装は全体的に自由な感じがします。とはいえ、衣装の規定についても、明文化されています。

大まかにまとめると、「控えめで、品位があり、スポーツ競技としてふさわしいものでなくてはならない。デザインがけばけばしかったりおおげさだったりしてはならない。しかし、音楽のキャラクターをよく反映するものであるといい」というイメージです。

男子はタイツNG、装飾品の着脱もNG

もう少しこまかい規定もあります。「極端にヌーディな表現を与えるようではならない。男子選手は(ペア、アイスダンスも含む)、長ズボン着用。アイスダンスの女子選手は、スカートを着用すること。小道具はNG」というものです。

男子選手はタイツNGです。女子選手は厚手のストッキングのようなものの上にスカートをはいたり、パンツスタイルだったりしますね。アイスダンスの女子選手はスカート着用ですが、今シーズンのリズムダンスのみ、ズボン着用OKです。また、ズボンの長さは自由なので、ホットパンツをはいている選手もいますね。また、装飾品は、着脱可能なものはNGです。全部、衣装にくっついている必要があります。

基本的には、品位があり、自分たちの滑る音楽に合っていて、過度に露出したり露出しているように見せたりしなければOKです。衣装って、見ていると楽しいんですよね。衣装については、また別記事でご紹介します。

減点項目を見ればフィギュアに求められるものが見えてくる?

減点項目を見ることで、フィギュアスケート界が選手たちに求めているものが、少し伝わってくるような感じがしませんか?

たとえば、「ジャンプで転倒すると結構な減点がある」ということは、裏を返すと、「ジャンプの転倒はよくない」と考えられているということですよね。

こんな風に、ルールに触れるときには、ルール作成側の意図が見えてきます。そうしたものを読み取ることも、フィギュアスケートを理解する早道のひとつだと思います。


◆監修・執筆/長谷川仁美
ライター。1974年静岡市生まれ。1992年アルベールビル五輪の伊藤みどりさんのころからフィギュアスケートを見始め、2002年より取材開始。選手、コーチ、振付師、関係者など、数多くのインタビューを行ってきた。『蒼い炎II ー飛翔編ー』(羽生結弦)の構成、雑誌『フィギュアスケートLife』、雑誌『Ice Jewels』、Web媒体などでの執筆、オンライントークの企画運営、スケート関連雑貨の企画販売なども。保育園児の育児に揺さぶられる日々を送っている。

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