「灯台もと暗し」とは?由来や例文などから誤認されやすい本当の意味を解説
2022/10/23
「こんなに近くにこんなに美味しいレストランがあるなんて、灯台もと暗しだね。」
日常的に使用されることわざ、灯台もと暗し。
「どんな意味か教えてください。」
そう聞かれても、ほとんどの人が回答に困らないくらい一般的なことわざのひとつです。ところが、そんな「灯台もと暗し」の「灯台」について、多くの人が誤解をしていると言ったら皆さんはどう思いますか?
「自分は大丈夫」そう自信を持って言える人も、「大半の人が勘違いしているかも」と言われると少し不安になるのではないでしょうか。今回は、そんな勘違いされがちな「灯台もと暗し」について、意味や正しい由来・語源から類語、使い方まで徹底的に解説していきます。
まずは誰もが知っている「灯台もと暗し」の意味についておさらいしていきましょう。
「灯台もと暗し」とは?
「灯台もと暗し」とは、多くの小学校で教えられていることわざで、「灯台の真下は暗い」ということから生まれたことわざと言われています。
「灯台もと暗し」の意味
「灯台もと暗し」は、「身近な物事はかえってわかりにくい」といった意味のことわざです。ことわざは、単語や熟語と違い、1つの言葉に複数の意味を併せ持つというケースは非常に稀です。「灯台もと暗し」も例にもれず、上記の意味のみを持っています。
間違って認識されやすい「灯台もと暗し」の由来・語源
さて、冒頭で述べた通り、「灯台もと暗し」の由来については、誤った知識を持っている人が多いと言われています。
それでは、「灯台もと暗し」の正しい由来・語源とは?
まずは、誤解の元となっている「灯台」について一緒に考えていきましょう。
間違って認識されやすい「灯台」
「灯台もと暗し」の言葉の由来は、灯台の真下は明かりが届きにくく暗い、ということからきています。
「灯台もと暗し」はことわざの中でも、その語感から意味をくみ取りやすく、語感から由来が見て取れるため、ことわざの意味と由来どちらも知っている、という人が大多数を占めるのではないでしょうか。
ところが、その言葉の由来について勘違いしている人が多いことわざでもあります。先ほど解説した「灯台もと暗し」の由来、「灯台の真下は暗いこと」という説明は既知の事実です。それでも勘違いしている人が多いということはどういうことでしょうか。
その原因は「灯台」という言葉にあります。
「灯台もと暗し」の「灯台」、本当の意味は「燈台」?
「灯台」には、次の2つの意味が含まれています。
1. 島、岬、港に設置され、建物自体や建物から照らす光などで、航行の目印となる施設。
2. 昔の室内照明(燈台)。
そして、驚くべきことに、ことわざ「灯台もと暗し」に使われている「灯台」の語源は、2の「昔の室内照明(燈台)」であると言われています。
つまり、「灯台(燈台)の真下は暗いこと」が転じて「身近なことには意外と気づきにくい」という意味となった、という説明は正しいのですが、「岬の灯台の真下が暗いこと」が転じて、という説明は誤りとなります。
「灯台もと暗し」は、その由来は何となく知っているものの、使われている「灯台」の語源については誤認されがちであり、由来についても実は正しくは知らない人が非常に多い、という少し変わったことわざと言えます。
「灯明台」と呼ばれていた「灯台」
それでは、どうして「灯台もと暗し」の「灯台」が「燈台」であると言われているのでしょうか。
まず、「灯台もと暗し」がいつ頃からことわざとして使われるようになったか、という点から説明します。具体的にいつから使われているか、は明らかではありませんが、1645年に刊行された松江重頼の『毛吹草』という俳諧論書に「灯台もと暗し」という表現が出てきます。
そのため、約400年前には既に「灯台もと暗し」はことわざとして認知されていたと考えられます。
400年前の日本はと言うと、江戸時代の初期でした。当時の「灯台」は、石積みの台の上に小屋を建て、その中で木を燃やすことで明かりとするもので、この日本式の灯台は「かがり屋」や「灯明台」と呼ばれていました。
その後、徳川幕府も末期になると、外国の人材や知識が流入してくるようになり、1866年5月に初めて西洋式の「灯台」が、日本国内に建てられたと言われています。
こうした背景から、「灯台もと暗し」に用いられている「灯台」の語源が岬を明るく照らす「灯台」という認識は誤りとなります。
「灯台もと暗し」の使い方
「灯台もと暗し」は、様々な書籍から、日常会話やビジネス会話まで、幅広いシーンで活躍する非常に便利なことわざです。そんな便利なことわざですが、使い方を間違えてしまっては伝えたいことが正しく伝わらず、最悪の場合、相手に不愉快な思いをさせてしまう場合もあります。
そんな失敗をしないために、様々なシーンを想定した例文を見て、「灯台もと暗し」の正しい使い方を覚えましょう。
「灯台もと暗し」の例文
「メガネ、メガネ、と言いながら探していたメガネが額についていたとは、とんだ灯台もと暗しだ。」
「チームに必要な人財を社内メールで公募していたが、隣に座っている部下から参加したいと声をかけられ参加させたところよい働きを見せた。あのときは灯台もと暗しとはこう言うことか、と実感した。」
「灯台もと暗しということもあります。まずは近隣の聞き込みから始めましょう。」
「灯台もと暗し」の類語
「灯台もと暗し」は古くから親しまれていることわざの1つです。
類語とされることわざもいくつかありますが、「秘事は睫」のように「灯台もと暗し」に比べると認知度は低いものばかりです。
そのため、「秘事は睫…あぁ、灯台もと暗し、みたいな意味のことわざだね。」といったように、あまり聞きなれないことわざの説明に対して「灯台もと暗し」が使われることが多いかもしれません。
「傍目八目(おかめはちもく)」
「傍目八目」は、「第三者の方が当事者よりも物事を冷静に判断できる」という意味のことわざです。
「傍目八目」は「岡目八目」と書かれる場合もあり、囲碁の対局の難しさを表す言葉が、時代の変化に伴ってことわざへと転じた言葉です。
囲碁の対局中は冷静な判断が難しいことも多く、「傍目(はため)」から見ると、対局の当事者よりも「八目」分は得をする手が思い浮かぶ、と言われることから「傍目八目」という言葉が生まれたとされています。
「秘事は睫(ひじはまつげ)」
「秘事は睫」は、「秘事はまつげのように案外身近なところにあるものの、意外と気づきにくい」といった意味のことわざです。
「傍目八目」に比べると、「灯台もと暗し」の意味合いにより近いため、「灯台もと暗し」を別のことわざに置き換えるときは、このことわざを用いることが多いようです。
このことわざも「灯台もと暗し」同様、『毛吹草』で紹介されていることから、400年前には一般的なことわざとして認知されていたことがうかがえます。
似たような言葉として、「近くて見えぬは睫」や「自分の睫毛は見えない」といった言葉も同様の意味で用いられます。
「足元の鳥は逃げる」
「足元の鳥は逃げる」は、「油断していると手近なことでも失敗してしまう」といった意味のことわざです。
読んで字のごとく、足下の鳥だからといって自分のものと油断していると、鳥に逃げられてしまうこともある、というところが語源のことわざです。
いくつかの類語を紹介しましたが、実際に聞いたことがあることわざがあったという人は少ないのではないでしょうか。かつては多くの類語が使われていたものの、今となっては、「灯台もと暗し」のみが一般的なことわざとして残っていったということではないでしょうか。
そんな中、現在まで生き残っている「灯台もと暗し」ですが、同様に今でも使われていることわざの中に、「灯台もと暗し」の対義語と呼べるものはあるのでしょうか。
「木を見て森を見ず」は対義語ではない?
「灯台もと暗し」には対義語と呼べるものは存在しません。
「灯台もと暗し」は、「身近な物事は意外と気づきにくい」といった意味の言葉ですので、この意味と反対の意味を持つ説明は「身近な物事は気づきやすい」や「遠すぎる物事には気づきにくい」といった意味となります。
つまり、これらの意味を持つ言葉が「灯台もと暗し」の対義語となります。
実は、「灯台もと暗し」の対義語として、「遠すぎる物事には気づきにくい」という意味に近い「木を見て森を見ず」ということわざが紹介されることがあります。
「木を見て森を見ず」は、「小さいことに捉われていると全体を見落とす」といった意味のことわざで、厳密には「灯台もと暗し」の反対の意味とは少し異なっています。そのため、「木を見て森を見ず」を「灯台もと暗し」の対義語とするのは、少し乱暴な解釈かもしれません。
ちなみに、「木を見て森を見ず」には、「鹿を逐う者は兎を顧みず」という対義語が存在します。これは、「大きな利益を追い求めると、小さな利益を失っていることに気づかない」といった意味のことわざです。
こうして見ると、「鹿を逐う者は兎を顧みず」と「灯台もと暗し」はどちらも「木を見て森を見ず」の対義語として紹介されることがあるにもかかわらず、全く違う意味合いの言葉となっていることがわかります。
このことからも、「木を見て森を見ず」を「灯台もと暗し」の対義語とするのは誤りと考えられるのではないでしょうか。
「灯台もと暗し」の反対の意味については、特に何か比喩を用いて表現するほど理解しにくいことでもないため、わざわざそういったことわざが生まれなかった、ということかもしれませんね。
「灯台もと暗し」の英語表現
日本においては、もはや一般的な言葉となっている「灯台もと暗し」ですが、英語においてはどうでしょうか。
「It’s hard to see what is under your nose.」
これは、直訳すると「自分の鼻の下にあるものは見るのが難しい」といった意味となる英文です。
「灯台もと暗し」の英語表現によく使われる言い回しで、「灯台もと暗し」の類語である「秘事は睫」に近い表現方法で、「身近な物事は気づきにくい」といった意味を表しています。
その他にも「Go abroad to hear of home.」(直訳すると、外国へ行けば自分の国の噂を聞く)といった言葉も「灯台もと暗し」の英語表現として用いられます。
学校教育と「灯台もと暗し」
文部科学省によると、ことわざの教育は、「言語文化に触れることで、言葉に親しんだり、楽しんだりするとともに、その豊かさに気づき、理解を深めることに重点を置いている」という目的のための1つとされています。
「灯台もと暗し」も、ことわざに使われている漢字が難しくないこともあり、多くの小学校でもその意味について扱う機会があります。
「灯台もと暗し」はいつ習う?
「灯台もと暗し」に限らず、意味や由来、語源などに関して学校教育を通して学ぶことわざは数多くあります。
文部科学省発行の「小学校学習指導要領 国語編」によると、我が国の言語文化に関する事項の章の伝統的な言語文化の項目に「第3学年及び第4学年ではことわざや慣用句、故事成語などの長い間使われてきた言葉を知り、使うことを知る」と記載されています。
ちなみに、「灯台」の「灯」は第4学年、「台」は第2学年で習い、「暗」は第3学年で習います。このことから、「灯台もと暗し」ということわざ自体は、第4学年で「灯」という字と合わせて習うケースが多いのではないでしょうか。
「灯台もと暗し」は中学受験に出やすい?
「灯台もと暗し」は、中学校の入試問題に頻出のことわざだと言われています。
中学入試に出題されやすいことわざの条件として、小学校で習う漢字で構成されたもので、数字が入っている、動物に関することわざ、同音異義となる漢字が多い、一般的によく使われる、などが考えられます。
「灯台もと暗し」は、「灯台下暗し」と「灯台元暗し」を混同していないかどうかで、「下」と「元」の違いがわかるなど、言葉の理解度を確認できることもあり、中学校の入学試験に出題されやすいようです。
その他の中学受験に頻出のことわざ
それでは、「灯台もと暗し」の他に、中学の入学試験で出題されやすいことわざはどういったものがあるのでしょうか。
・「石の上にも三年」
・「一石二鳥」
・「馬の耳に念仏」
・「弘法にも筆の誤り」
・「朱に交われば赤くなる」
・「仏の顔も三度まで」
・「三つ子のたましい百まで」
これらは例年、入試問題に登場することわざの常連組と言われています。こうして見ると、数字や動物が出てくることわざもそうですが、教育的な意味合いが強いことわざも入試問題に出題されやすい傾向にあるようです。
まとめ
実は岬の灯台と、「灯台もと暗し」は無関係。多くの人にとって驚きの事実だったのではないでしょうか。
「灯台もと暗し」の「灯台」や「下」のように、漢字の意味を正しく理解することが、ことわざの意味を正しく理解することに繋がるケースは少なくありません。
「灯台もと暗し」に限らず、意味がわかりづらい言葉に出会ったときは、単語の意味や語源などを紐解いていくことで、言葉全体の意味を掴んでいくというアプローチをしてみるのもよいかもしれませんね。