「暖冬」は暖かいだけじゃない!?暖冬になる理由、春以降の影響などを気象予報士が解説!
2023/11/08
秋から冬にかけてはよく、ニュースなどで「今年は暖冬の見とおし」や「暖冬の影響で…」といったフレーズを耳にします。
「暖冬」は文字どおりの意味だと「暖かい冬」ですが、本当に気温が高いだけなのでしょうか。それとも、ふつうの冬とは何かが違うのでしょうか。
今回は、気象予報士・防災士・野菜ソムリエとして活躍する植松愛実さんに、意外と知らない「暖冬」について解説してもらいます。
「暖かい」だけじゃない暖冬
ある冬が暖冬か暖冬でないかを決める基準は、やはり気温です。
気象庁が持つ気温の観測データを元に、平年(直近の30年間の平均値)と比べてどのくらい高いかで判断されます。
暖冬になる原因は世界規模の大気の流れにあることが多く、「エルニーニョ」と呼ばれる熱帯付近の風の流れが通常と変わる現象や、「西太平洋パターン」と言って北半球の寒気の流れを大きく変える現象などが関係していることもあります。
一方で、実際に暖冬になると冬の間は「気温が高い」だけでなく、ほかにも雪や雨の量が変わるなどさまざまなことが起きます。
というのも、そもそも暖冬になる冬というのは、いつもの冬と比べて日本付近の「天気の構図」が違うためです。
寒くなる構図とは
日本の冬が寒いのは、「シベリア気団」と呼ばれる、大陸の非常に冷たい空気が季節風によって運ばれてくるためです。
よく天気予報などで「西高東低の冬型の気圧配置」というフレーズを聞くと思いますが、この冬型というのがちょうど、季節風によって日本に寒気が運ばれやすい構図。
通常の冬はこの構図によって全国的に寒くなるだけでなく、日本海側では雪が降りやすく、太平洋側では晴れて乾燥しやすくなります。
ところが、前述のような世界規模の風の流れが原因で冬なのに冬型の構図になりにくいと、日本に寒気があまりやって来ないため、いつもの年より気温が高い暖冬に。
そして冬型の構図になりにくいということはつまり、日本海側では例年より雪が少なくなり、太平洋側では晴れの日が減って曇りや雨の日が多くなりやすいのです。
暖冬のほうが雪が増える地域も?
暖冬になると日本海側では前述のとおり雪が減る傾向にありますが、太平洋側ではちょっと気をつけたいことがあります。
それは、南岸低気圧です。
ふだんの冬は北から押し寄せる強い寒気の影響で日本に近づきにくい南岸低気圧が、寒気の流入が弱まる暖冬の状態では近づきやすくなってしまいます。
もちろん近づいたからといって必ず雪になるわけではありませんが、湿った重たい雪が降ることが多いため災害につながりやすく、とくに東海や関東、そして東北の太平洋側ではいつもの年より気をつける必要があります。
暖冬で水不足!?春になっても続く影響とは
多くの場合、暖冬の影響は春以降も長引きます。というのも、通常の冬に降る雪が、私たちの生活にとって非常に重要だからです。
冬の間に山沿いに降り積もった雪は、春を迎えると解けて水になります。その水は川をつたって自然に流れていくものもあれば、ダムに貯まっていくものもあります。そしてダムに貯められた水は、生活用水や工業用水、そして農業用水として私たちの生活を支えるのです。
私たちが使う水を構成する三大要素は雪・梅雨・台風ですから、おおむね初夏にかけては雪解け水に頼っている状態。
つまり冬の間に雪が極端に少ないと、春以降に水不足になってしまうおそれがあるのです。
いつもと違う冬こそ情報収集はこまめに
いつもの冬より寒い「寒冬」ならまだしも、いつもより暖かい暖冬なら、寒さ対策も楽だし特段準備もいらないのでは?と思われるかもしれません。
しかし、前述のように、気温以外の様々な影響力を暖冬は持っています。
たとえば雪が降りやすい場所が変わるということは、車で冬のレジャーや帰省に向かう場合、予想外の場所で雪の被害に遭う可能性を考えておく必要があります。
また、冬の間は日々の気温変化が小さいのが通例ですが、暖冬の年は気温のアップダウンも大きくなり、寒暖差疲労で体調をくずすことも。
つまり、天気や気温の情報をこまめに手に入れる必要があるのです。
現在気象庁から発表されている季節予報では、今年2023年12月から来年2024年2月にかけて、全国的に気温が平年を上回る見とおしが示されています。
「暖かいなら大丈夫!」と油断せずに、いつも以上に天気や気温の変化に気をつけましょう。
■執筆/植松愛実さん
気象予報士と出張料理人の両面で活動中。気象・防災に関するヒントのほか、野菜ソムリエ・食育インストラクターとしておいしい食材のおいしい食べ方を発信中。インスタグラムは@megumi_kitchen_and_atelier。
編集/サンキュ!編集部