女性実業家として成功

ふつうの主婦が道をあやまるとき~小説・妻たちの千夜一夜物語~

2019/04/22

「恋人・夫婦仲相談所」所長として、長年夫婦関係の悩みやトラブル解決と向き合ってきた三松真由美さん。本連載では、三松さんが相談・取材を通じて知ったさまざまな“夫婦のカタチ”を、“妻たち”の視点から、小説にしてお届けします。

今回のテーマは、ふつうの主婦たちが道をあやまるとき。ある調査によれば、妻の約3割に不倫経験があるそうです。その背景には、どんな事情があるのでしょうか……。

会員数1万3,000名を超えるコミュニティサイト「恋人・夫婦仲相談所」所長として、テレビ、ラジオ、新聞、We...

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小説・妻たちの千夜一夜物語~第1夜~

わたしの名前は澄川紗里那。夫は出張が多い商社マンです。商社っていっても電子部品だけを扱う中小です。娘が2人いますが、下の子が高校に入ると同時にパートのかたわら、自宅でネイルサロンを開きました。

ママ友の口コミだけで1日7名の予約と、おかげさまで満杯。サロン名は“マーメイド”。看板を出さずにリビングでこぢんまり施術します。そのせいか、マーメイドを訪れる方々は施術中、ポツンポツンとたわいない話をしてくれます。

お子さんの悩み、旦那さんの愚痴……そして、ここでしか言えない内緒の話。手が触れあっている親密感と、視線が爪に集中して直接目線が合うことがないので、ふだん友だちにも話さないような、きわどい話題も言いやすいのでしょう。

そんなお話を毎日毎日聞いていると、ふっとアラビアンナイトを思い出します。妻が千人いれば、妻の数だけ秘め事がある。こっそりとひとつずつお話しましょうか。

芳恵・44歳:肌寒い日にペディキュアをほどこす理由

Dragan Grkic/gettyimages

その日は重い雲がたれこめ、お昼前には季節外れの粉雪がはらりと舞うほど底冷えがする日でした。


「ギリギリになっちゃってごめんねー。旦那のお昼ご飯つくってて」


予約時間ギリギリに芳恵さんがやってきました。ダボッとしたグレーのセーター。厚手のタイツの上に水玉模様の靴下を重ねて履いています。セミショートの髪は右耳の上がピョコンとはねて寝癖がついているかのよう。洗い物が終わって急いでここに来たのでしょう。

芳恵さんのお宅は自営のお菓子屋さん。店舗の近くでご両親と二世帯で暮らしています。お子さんは中学生。芳恵さんは店の経理を手伝っています。毎日、仕事の傍ら旦那さんのお昼ご飯をつくっているそうです。お昼ご飯を毎日つくるなんて、よっぽど仲がいい夫婦なんでしょう。私なら「お昼は外で食べてよ」と言ってしまいそうです。


「ねえ、今日はフットもおねがい。ピンクラメでハンドと同じで」

「え?こんな寒い日にフットネイルですか?誰も見ないでしょう」


私は思わず聞いてしまいました。服装は寒さ対策でもこもこした厚着なのに、足の爪にペディキュアなんて……。

すると首を傾けてフフッと笑いながら芳恵さんのここだけの話が始まりました。

大学時代の仲間と20年ぶりの再会

2 名様分のスマート携帯電話を比較
BernardaSv/gettyimages

「誰にも言わないでね。あのね、今、気になっているひとがいるの」


正直、私はびっくりしました。芳恵さんはいつもカジュアルな格好で自転車を乗り回す、どこにでもいそうなおかあさん。旦那さんととてもなかよしだって思ってたのに。


「えーー!どこで知り合ったんですか?」

「学生の時にね、同じゼミにいたひとよ。その頃は付き合ってなかったんだけどね。お互い彼氏彼女がいたから」

「それがどうして今になって?」


芳恵さんはピョコンと跳ねている髪に気づいたのか指でクセを直しながら答えます。


「彼の奥さんは、大学時代の親友。大学卒業してそのまま結婚したの。私は学生時代の彼とは別れて、親戚の叔母さんの紹介で今の夫と結婚したのよ」


私は思わず手を止めて、前のめりになりました。


「うわっ。友達の夫?いつから気になりはじめたんですか」

「彼の奥さん、多枝っていうんだけど、多枝とはしょっちゅう会ってたからね。3年前かな、多枝の自宅でゼミ仲間の同窓会やろうってことになって、20年ぶりよ。で、お宅にお邪魔したわけ。仲間4人でおしかけてワイワイ。

そのとき耕助さん……と久々に会って。学生時代は言葉数も少なく、とっつきにくいイメージだったんだけど、40過ぎると男の人って社交的になるのね。耕助さんは食品会社に勤めてるんだけど、野菜の栄養の話とか魚の話とか、おもしろおかしく教えてくれるの。すごい知識があって、話に引きずり込まれちゃった。ゼミ仲間で一番かっこいい大人になってるって思ったわ」

「そこで、一方的に好きになっちゃったんですか?」

「ううん、違う。そのときは、耕助さんって素敵な旦那さんだなって多枝がうらやましかったくらいよ。それがね。去年……ほら、おしゃれな家具屋がインターの近くにできたでしょ。組み立て家具売ってる大型店。スマホサイト見てたらセールやってるってわかって。欲しかったチェストが半額だったの。

夫は店が忙しいから1人で運転して買いに行ったのよ。コロコロに乗せたら駐車場まで1人でも運べそうだなって思って。そこのお店でばったり耕助さんと会ったのよ。耕助さんはペット用のキャリーケースを買いに来たって。それで、車まで買ったものを運んでくれて、お茶でもしようかって」


私は、その場面を想像してみました。学生時代のゼミ仲間に会えば、友だちの夫って言ってもお茶飲むくらいするかしら。


「家具屋の1階にある珈琲スタンドでお茶したの。耕助さんは聞き上手で、ニコニコしながら話を聞いてくれたの。たわいない話よ。店の経理で1,000円合わないと落ち込むんだとか、夫の昼ごはんは息子の塾弁の残り物なんだとか。そうそう卵焼きはまん中が息子の弁当で、端っこが夫のぶんになるって言ったら大声で笑われちゃった。

話の最中、彼からツッコミがあって、そのたびにおかしくて吹き出しちゃう。テンポが合うの。うちの夫とも仲が悪いわけじゃないけど、なんてことない会話がここまで盛り上がることなんかないから、すっごく新鮮な気持ちになったな。

息子が中学生になって、手が離れたって開放感もあるの。学校、部活、塾でほとんど私のそばにいないしね。開放感と息子ロス、複雑な気持ちの頃だったかもしんない。だからなんとなくLINE交換したの」

開放感と子離れが背中を押す

クローズ アップ。男と女は、手をしっかりとホールドします。
vadimguzhva/gettyimages

開放感と子離れ…なるほどと思いました。たしかに毎日子どものことは頭の中から離れない。そばにいなくても、事故に遇ってないかとか、寄り道してへんな場所に行ってないかとか気になるもの。

でも、子どものことをそこまで心配しなくなる時期って、確実にやってくる。そして時間が自由になると、「妻でもママでもない自分」が現れてくる。男の人にはわからないだろけど。

私も下の子の手が離れた感じがあったから、ネイルサロンを始める気持ちになったし。子どもに「ママ、ママ」って言われることが少なくなってくると、安心するかたわら私の第2の人生の開始時期かなって気づくのかな。母じゃない私、妻じゃない私。芳恵さんもそんな時期だったのでしょう。

「それで、お茶してLINE交換して、次は?」

「また会おうかって言ってくれた。私が多枝もいっしょに?て聞くと、困ったように眉をハの字にしたの。それからちょっと間を置いて『よっちゃんがよかったら2人で会いたいな』って……。

うれしかったな。2人で会いたいなんて、もう一生男の人に言われることなんかないって思ってた。わたし、夫と子どもとの生活は平和なままずっと続くって感じてたけど、たまにドキっとすることが起こればいいなって思うことあったの。だから恋愛ドラマ見ていいなあって浸ったり、街で手を組んで歩いてるカップル見ると、ステキだなって思ったり。

でもね、夫と腕を組んで歩きたいかって言ったらそうじゃないのよ。夫は夫。家族の守り神。だから腕を組む妄想彼氏は、これまではテレビで観るイケメン俳優だったんだ。でも、耕助さんがまた会いたいって言ってくれたときから、妄想彼氏が耕助さんになったの。」


妄想彼氏ってよく聞きますが、芳恵さんの場合、リアル彼氏候補が出現したわけです。


「次はランチの約束したのよ。彼は営業職だから平日の午後、外回りの時に時間をつくれるの。車にいっしょに乗ってるの見られるとまずいから、電車で彼の会社とうちの駅の中間の駅で会うようになったわ。彼といると一気に気持ちが10歳くらい若返るのよ。はしゃぐっていうか。話してて胸がはずむってわかる?ほんとにここがトクトクって動き始めるの。」


芳恵さんはネイルを塗った手のひらで胸をトントンと叩きました。


「それから、時々ランチするようになって。今ではランチの日が待ち遠しくなってるの。月2、3回会えるんだけど。ほんとは毎週でも会いたいな。」

「ほんとにそれだけ?」


私は手元から目線をあげて、じっと目を見ました。芳恵さんは、はぐらかすようにスッと目をそらし、ゆっくりまばたきをしました。

◇◇◇◇

「あ、もう行かなくちゃ。ワン切り着信があったら50分後に現地集合ってことになってるから。」


ピンクラメのフットネイルが乾きました。芳恵さんは160デニールの分厚いタイツを履いて、ショートブーツに足を入れました。ネイルが見えないときの芳恵さんはどこにでもいるおかあさん。

窓に目をやると季節外れの粉雪で外は真っ白です。寒い寒い午後。きれいなフットネイルをブーツで隠し、街を歩く。あのフットネイルは誰かが見ることになるのでしょうか。

三松真由美の解説:主婦の約3割が不倫経験アリ!?

女性が離陸して結婚指輪スマート フォンからメッセージが届きました。
yavdat/gettyimages

数年前に「昼顔~平日午後3時の恋人たち」という不倫ドラマが話題になりました。不倫は男性がするという概念を覆す妻側不倫。『大人の「不倫学」』などの著書がある森川友義先生の調査によれば、「男性の74%、女性の29.6%は不倫経験者」であると言われています(※)。

私が夫婦仲相談所で実施した1,609名の主婦調査でも2割が不倫していると回答しました。この数値、皆さんはどう思いますか?

「3割しかいないじゃないか。少ない少ない」でしょうか。それとも、まさかあのママ友も?でしょうか。機会があればママ友の爪をじっくり見てください。きれいに塗られていたら、きれいなラメがついていたら…それは「夫以外の誰か」に見せるためのジェルネイルかもしれません。

今回の主人公、芳恵が不倫に至ったかどうかは想像におまかせしますが、友人の夫を略奪しようとするものでした。妻が悪いのはもっともですが、そこに至る気持ちの動きに一種の共感を覚える人もいるかもしれません。

しかし今回の芳恵のようなケース、専門家の経験からすると結末は99%うまくいきません。

夫以外の男性との恋は継続することもなく、相手側の妻にバレて法的に争うことになる可能性が非常に高い。そして自身の夫との今後の関係性には悪影響を及ぼします。信頼を裏切ったのですから、時間をかけてわかり合わなければ完全修復は難しいですし、ことあるごとに「おまえは一度裏切った」と態度で威圧され、年老いてゆくことになるのです。妻の不倫発覚以降、妻と夜の営みが消滅したという話もポツポツ聞いています。

夫以外の相手を好きになりそうになるとき、その行く末を冷静に想像してみることです。そのひとと、どういう未来を描きますか。

◆監修・執筆/三松 真由美
会員数1万3,000名を超えるコミュニティサイト「恋人・夫婦仲相談所」所長として、テレビ、ラジオ、新聞、Webなど多数のメディアに出演、執筆。夫婦仲の改善方法や、セックスレス問題などに関する情報を発信している。『堂々再婚』『モンスターワイフ』など著書多数。

 
 

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