PTA不倫、妻の秘めたる思い~小説・妻たちの千夜一夜物語~
2019/06/11
「恋人・夫婦仲相談所」所長として、長年夫婦関係の悩みやトラブル解決と向き合ってきた三松真由美さん。本連載では、三松さんが相談・取材を通じて知ったさまざまな“夫婦のカタチ”を、“妻たち”の視点から、小説にしてお届けします。
今回のテーマはPTA不倫。保護者どうしが集うこの場で、不倫関係に陥る人は少なくないそうです。なぜ、彼女・彼らはあまりにリスクが大きい「PTA不倫」に走るのか?その背景にあるものとは……。
小説・妻たちの千夜一夜物語~第二夜~【後編】
<【第二夜・前編】「PTA不倫が始まってしまうきっかけとは」のあらすじ>
授業参観のために紗里那のネイルサロンを訪れた富美加(42歳)。夫と高校生の長女、中学生の長男、4人家族のママである彼女は、PTA活動や長男の部活動で顔を合わせるパパ“ヨッサン”に、男性として惹かれるものを感じていた。紗里那の「PTA不倫」という言葉に対して、当初は他人事のような態度を見せていた富美加だが、話を聞くうちにLINE交換をしていたことが明らかになり……。
富美加・42歳:ジーンズをスカートに履き替える夜
「ヨッサンと話す時って、1人の女でいたいっていうか…初恋してたときの気分、わかる?好きな人に告白する前のドキドキしてる気持ちのことよ。『私は自分のことをどんだけかわいく見てもらえるか』、『好印象与えるにはどうすればいいか』とか、アレコレ考えていた、あの時の気分を思い出すのよ。
だから、ヨッサンには私と2人の世界で話をしてほしい。うちのパパに遠慮なんてしてほしくない。だからうちのパパの話はせずに、”私はこんな女ですアピール”しちゃうの。昔はこうだったとか、好きな食べ物はイチゴパフェですとか、パートで楽しくやってる話とか。
彼といると、思わず「私はこんな女ですアピール」しちゃうの。部活の子どもたちにおにぎり差し入れする時あるんだけど、ヨッサンの分を大きめに握って、中身に具もたくさん入れてね『ヨッサンは特別にオトナおにぎりですよ』って手渡すの。これなら周りのひとにも怪しまれないし。さりげなくアピってるでしょ」
夫は96点…足りない4点は
「”私こんな女ですアピール”、私も覚えがありますよ。それ、旦那さんにはしないんですか?」
「結婚前はしてたけど、一緒に暮らし始めたらはする必要もなくなった。私が“こんな女”ってわかっての結婚だもん。アピらなくてもパパは私のこと好きでいてくれる。だから、おなかダブダブは目をつむる。
でもパパね、気遣い力は抜群。私が熱っぽかったり、疲れてたりするとすぐに気づいて、『だいじょうぶか?』って言って、スムージー作ってくれるの…小松菜の(笑)。あんまり美味しくないけど気持ちはうれしい。皿洗いも全部やってくれるし、淳吾ともたくさん会話するし、父子会とか言って子どもと3人でフードコートでゴハン食べてくるときもあるの。『ママに自由なひとり時間を作るのが目的だ』って言ってくれた。夫としてもパパとしても96点よ」
96点…意味深な点数です。女性としてヨッサンにさりげなくアピールする一方、旦那さんのことを愛している富美加さん。じゃあ、減点分の4点はと思わずにはいられません。やさしい旦那さんなのに、何かが足りないってことなのでしょう。
そのとき、足元に大きな紙袋が置いてある事に気づきました。ファッションブランドのロゴが大きく書かれている袋。
「お洋服買ったんですか?」
「…うん。ここ来る前に買いにいったの。パート代ほとんどつぎ込んだ」
「へえ、見せてくださいよ」
富美加さんのネイルが乾くのを待ちました。その間、富美加さんは部屋にある水槽の熱帯魚を見ながらうれしそうに笑っていました。ネイルが乾いた頃、もったいぶったように紙袋に手を差し込む富美加さん。
その手にはギャザーがたっぷりはいった濃いパープルのロングスカートが。
「きれいなスカート。いつ履くんですか?」
「相談に乗ってくれたお礼にって、ヨッサンが居酒屋よりちょっとだけいい店に連れてくって言ってくれたんだ。だから今日のネイルも、参観日のためじゃないんだ」
「いつものジーンズではなくて……」
「そう。これまでヨッサンに見せたことのない、スカート姿で行こうって決めてたの」
セピアラベンダーの髪、ワイン色のネイル、そして夜色のドラマティックなギャザースカート。富美加さんは紙袋を大事そうに抱えてドアから出ていきました。
三松真由美の解説:「PTA不倫」は子どもも巻き込む大惨事に
PTA不倫については、私も多数取材をしました。全く存在しない学校と多発する学校がありました。気づいていても気づかないふりをするという人もいました。気づいているが波風立てて会合が増えると困るからスルーしているというひとも。PTA不倫のあり方は、地域や学校のカラーによってそれぞれです。
夫婦喧嘩は犬も喰いませんが、PTA不倫は周囲にとっては格好のネタになります。第3者ですらドキドキして注目してしまうのですから当の2人はそれ以上に盛り上がっているはずです。
しかし、その盛り上がりはどこに着地するのかは明白。今回の富美加のように自分を気遣ってくれる夫のやさしさに感謝しながらも、よそのパパに惹かれてしまう。その矛盾する行動はひとの弱さでもあります。今の我が身の幸せ、家族の平和に気づかなければ、それらを失ったあと心がちぎれるくらいの後悔をすることになります。
「足るを知る」。老子は不倫を戒めるために言ったのではないでしょうが、今現在の夫婦の幸せを把握できていないひとに向けられた言葉のように感じます。
もっともっと楽しいことしたい。もっともっと刺激が欲しい…と追い続ければ、子どもも巻き込む大惨事になる可能性が高いのです。PTAでほかのパパママと仲良くなるのはいいことですが、大人の暗黙のルールは死守しましょう。父母会グループLINEは恋愛ツールとして使ってはいけません。よろめきそうになったら「足るを知る」と唱えてください。
◆監修・執筆/三松 真由美
会員数1万3,000名を超えるコミュニティサイト「恋人・夫婦仲相談所」所長として、テレビ、ラジオ、新聞、Webなど多数のメディアに出演、執筆。夫婦仲の改善方法や、セックスレス問題などに関する情報を発信している。『堂々再婚』『モンスターワイフ』など著書多数。