「特定不妊治療費助成」解説、体外受精や顕微授精の費用を一部サポート

2019/02/17

赤ちゃんを自然に授かることがむずかしく、不妊治療を受ける夫婦は少なくありません。今回は、不妊治療にかかる高額な費用を助成する制度について、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに詳しく教えていただきました。

「特定不妊治療費助成」とは?

不妊治療にはいろいろな治療法があります。

一般的には「タイミング法」からスタートし、その後、「人工授精」や「体外受精」、「顕微授精」などへ段階的に移行していくケースが多いでしょう。

初期の段階で行われるタイミング法は健康保険が適用されますが、人工授精以降になると保険が適用されません。

治療によっては1回につき約20万〜50万円もの費用がかかるため、経済的にかなり大きな負担となり、妊娠を望んでいても思うように治療を進められない夫婦もたくさんいるようです。

そこで、この高額な費用の一部を負担する制度が実施されるようになりました。

不妊治療は、「一般不妊治療」と「特定不妊治療」の2種類に分けられます。

■一般不妊治療・・・・・・タイミング法(保険適用)、人工授精(保険適用外)
■特定不妊治療・・・・・・体外受精(保険適用外)、顕微授精(保険適用外)

助成制度では、上記の「特定不妊治療」(体外受精および顕微授精)でかかった費用に対して、お金が支払われます。人工授精は「一般不妊治療」に区分されるため、今回ご紹介する助成の対象にはなりません。

どんな人が利用できるの?

この助成制度を利用するには、次の条件をすべて満たしている必要があります。

■「特定不妊治療以外の方法では妊娠する見込みがない、または可能性がきわめて低い」と医師から診断された夫婦
■治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
■前年の夫婦の合計所得が730万円未満

どのような助成が受けられるかは、治療の内容や妻の年齢、自治体の取り決めによって異なります。また、助成を受けるためには、自治体が指定する医療機関で治療を受け続ける必要があります。

自治体によっては、タイミング法など「一般不妊治療」に対する助成を行っている例もあるので、役所の担当窓口やホームページなどで確認してみるといいでしょう。

助成内容はどうなっている?

助成金の額

「特定不妊治療費助成制度」では、治療を受けた回数に応じて、次のような助成金が給付されます。

<助成金の例>
■1回目・・・・・・30万円
■2回目以降・・・・・・15万円
■2回目以降(採卵を伴わない凍結胚移植などの場合)・・・・・・7万5000円
■男性に精子採取手術などが必要な場合はさらに15万円

ここでいう「1回目の治療」とは、採卵準備のために投薬を始めるところから、体外受精・顕微授精1回に至るまでの過程を指します。

自治体によって助成金額は異なるので、特定不妊治療を検討している人は、自分が住んでいる市区町村でどれほどの助成が受けられるのか調べておきましょう。

助成の対象となる治療

「特定不妊治療費助成」では、国が設定している(A)~(H)の治療ステージがあり、これらのいずれかに当てはまるものが助成の対象です。

<治療ステージ>
(A)新鮮胚移植を実施
(B)凍結胚移植を実施
(C)以前に凍結した胚を解凍して胚移植を実施
(D)体調不良により治療のめどが立たず治療終了
(E)受精に至らない、または異常受精などにより中止
(F)採卵したが卵が得られない、または状態のよい卵が得られず中止
(G)卵胞が発育しない、または排卵終了のため中止
(H)採卵準備中に体調不良などにより治療中止

最近では男性不妊治療を受ける人も増えています。特定不妊治療(体外受精および顕微授精)の一環として行われる男性不妊治療で助成が受けられるものは、下記のとおり。

■精巣内精子生検採取法(TESE)
■精巣上体精子吸引採取法(MESA)
■精巣内精子吸引採取法(TESA)
■経皮的精巣上体精子吸引採取法(PESA)

なお、男性不妊治療単独での助成申請はできません。「特定不妊治療費助成」の申請と同時にする必要があることを覚えておきましょう。

助成の回数

助成金が給付される回数は、妻の年齢(申請時)に応じて、次のように決められています。

■40歳未満・・・・・・通算6回まで
■40歳以上43歳未満・・・・・・・通算3回まで
■43歳以上・・・・・・対象外
※自治体によっては、上記の国の基準を超える助成を行っているところもあります。

いつ、どのように申請すればいい?

手続き方法は自治体によって異なるので、住んでいる地区町村を管轄する役所に問い合わせて、確認をしてください。

以下は一例として、東京都の申請手続きをご紹介します。

東京都の申請手続きの流れ

申請をしてから、助成金が振り込まれるまでの流れは、次のとおりです。

1:必要書類を用意する

<申請に必要な書類>
□特定不妊治療費助成申請書
□住民票の写し
□戸籍謄本
□申請者と配偶者それぞれの所得関係書類(住民税課税証明書、住民税決定通知書、確定申告書、源泉徴収票のいずれか)
□医療機関が発行した領収書のコピー

2:役所の担当窓口に必要書類を郵送する
3:審査結果の通知が届く
4:指定口座に助成金が振り込まれる

必要書類を郵送してから、審査結果が届くまでは約2カ月。さらにその約1カ月後に助成金が振り込まれます。

申請期限はある?

東京都の場合、「1回の特定不妊治療が終了した日」の属する年度末(3月31日消印有効)が申請期限とされています。

申請日は、郵便局の消印日になるので、年度末近くに発送をする際は気をつけてください。

ただし、1月から3月までに特定不妊治療が終了し、3月31日までに申請するのがむずかしい場合は、特例として4月1日から6月30日(消印)までの期間に申請してもよいことになっています。

まとめ

不妊治療にはどうしても高額な費用がつき物ですが、このような制度を利用すれば、経済的負担を軽くすることができます。

治療を進めていくうえでとても頼りになる制度なので、必要に応じてぜひ利用を検討してみてください。


教えてくれたのは・・・

井戸美枝さん

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP(R))、経済エッセイスト。講演やテレビ、ラジオなど多数のメディアを通じて、ライフプランや資産運用についてアドバイスを行う。著書に『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『身近な人が元気なうちに話しておきたい お金のこと 介護のこと』(東洋経済新報社)など。

取材・文/有馬未央(KIRA KIRA)

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