不妊治療をしている人のリアルなお金事情と気持ち。かかった費用の平均は?
2024/09/07
少子化の一方で、不妊の検査や治療を受けたことがあるカップルは年々増加。昨年、公的医療保険適用で不妊治療を受けた人は約37万3000人(※)に上ります。保険適用になってもなお大きなお金の負担。心と体の試練。そして仕事と治療の両立の難しさ。不妊治療のリアルを取材しました。※(厚生労働省 2023年)
<教えてくれた人>: 雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」統括編集長 米谷明子
「妊活は女性だけでなくカップルで向き合うもの。だから男女が一緒に読める妊活本を作りたい」と「妊活たまごクラブ...
- 世界では約6人に1人が不妊を経験
- 日本で体外受精で生まれた子は約11人に1人。不妊治療をしている人の最多年齢は39歳
- 「妊活」という言葉が生まれ、不妊治療が徐々に浸透
- 2022年から不妊治療が保険適用に。かかった費用の平均は46万962円 → 33万3472円に(約7割に)
世界では約6人に1人が不妊を経験
(WHO 2023年)
「昨年WHO(世界保健機関)が不妊に関するデータを発表し、『ついにWHOも不妊に着目した!』と編集部で話題に。WHOによれば、高所得国から低所得国まで国の経済状態にかかわらず不妊に悩む人の割合には差がない状況。不妊は世界規模の課題なのです」(米谷さん)
※不妊とは……妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、1年以上妊娠しない状態(日本産科婦人科学会による定義)
●リアルVOICE
「13歳と6歳の子を不妊治療で妊娠。上の子のときは、周りで治療を経験している人の話はほぼ聞いたことはなかったけど、下の子は同じクラスにだいたい1人くらい治療したと話している人がいます。治療する人が増えただけでなく『治療した』って言える雰囲気になってきたのかな」(あみかさん 49歳 治療開始は35歳と40歳)
日本で体外受精で生まれた子は約11人に1人。不妊治療をしている人の最多年齢は39歳
(日本産科婦人科学会 2021年)
「実は日本は世界トップレベルの技術で体外受精が行われている国。体外受精で子を授かるのは珍しいことではなくなっています。2022年に体外受精が保険診療になったことで不妊治療をする人はますます増えています」。
●リアルVOICE
「11人に1人ってことは、44人の学級なら4人。7歳の娘は体外受精で、母に『すごいわ』なんて言われたけど、今は普通ですよね」(ぽこママさん 45歳 治療開始は36歳)
「妊活」という言葉が生まれ、不妊治療が徐々に浸透
「ここ10年で子どもを授かるための行動全般を“妊活”と呼ぶように。『妊活してます』『不妊治療をしたことがある』などとオープンに話す人が増え、妊活グッズも続々登場」。
おりものに含まれる「妊活おしらせ物質」に反応し、排卵タイミングを知らせてくれるシート。2023年に発売され、手軽さが話題をさらった。「ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート 5コ入」店頭想定価格 ¥600前後(税込)/ユニ・チャームTEL0120・423・001
2022年から不妊治療が保険適用に。かかった費用の平均は46万962円 → 33万3472円に(約7割に)
(妊活たまごクラブ 2023年・2024年)
菅義偉(よしひで)政権時代に不妊治療の保険適用が決定。「それまでは全額自費だった人工授精や体外受精が3割負担になり、治療費の平均額が10万円以上ダウンしたデータも。ただ早い段階で授かる人と治療が長引く人の差が大きく、高級車一台分を支払ったという人もいます」。
●リアルVOICE
「保険適用前に治療。子ども2人は体外受精で、合計1000万円以上使いました……。子どもに恵まれたことに感謝しているけど貯金はほぼゼロに。今、必死に貯めていますが教育費も老後資金も不安しかありません」(ひろくまさん 47歳 治療開始は37歳と40歳)
【保険適用になって良かったこと】
1 お金の負担が減り、治療の選択の幅が広がった
1回約50万円かかった体外受精が今は約15万円で行えます。「お金のために治療を諦めずに済んだ」「妊娠の確率を上げるオプション治療にトライできた」という声も。
2 治療にかかるお金が全国一律になった
採卵(10個)3万1200円、体外受精1万2600円など、保険が利く治療はどの病院で受けても金額は同じ。費用が分かりやすく、お金の見通しも立ちやすくなりました。
3 カップルでの受診がマストだから、女性が1人で頑張らなくてよくなった
不妊治療の保険適用を受けるためにはカップル(事実婚もOK)での受診が必要。「不妊治療は女性だけでなくカップルで取り組もうというメッセージを国が打ち出したのだと思います」。
治療を経験した人の約95%が仕事をしながら治療。うち約4割の人が両立に苦しみ、働き方を変えた
(NPO法人Fine 「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート2023」)
「治療歴が長いほど退職や転職をする人が多い傾向があります。不妊治療は生理周期に合わせて行うため、通院スケジュールをあらかじめ立てるのは難しい。働きながらの妊活は時間、体力、精神面においても苦労の連続です。両立には職場や社会の理解が大切ですね」。
●リアルVOICE
「小学校の先生をしながら人工授精と顕微授精をしました。多いときは週3回通院しました。仕事を途中で抜けるたびに、穴埋めしてくれる同僚たちに平謝り。治療をしていた期間で、一生分くらい謝りました」(ゆみさん 31歳 治療開始は26歳と29歳)
「月に何回も通院しなければならず、待ち時間も長い。治療していることは職場に伝えていましたが、ゴールが見えず退職しました。来年43歳。治療のやめどきを考えてます」(メグさん 42歳 治療開始は36歳)
<教えてくれた人>
雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」統括編集長 米谷明子さん
「妊活は女性だけでなくカップルで向き合うもの。だから男女が一緒に読める妊活本を作りたい」と「妊活たまごクラブ」を創刊し10年間編集長を務める。日本の妊活と不妊治療事情に詳しい。
参照:『サンキュ!』2024年9月号「不妊治療をしている人のお金と気持ちのリアル」より。掲載している情報は2024年7月現在のものです。取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部