本を読んで眼精疲労を苦しんでいる女性

「手元が見えにくい=老眼」ではないことも!?放置すると首(頚椎)に異常の恐れもある症状とは

2024/10/13

手元が見えにくいことに気づき、「老眼では?」と心配になった経験はありませんか。しかし老眼の症状は、近くが見えにくいだけではありません。またスマホなどの使い方によって、老眼に似た症状が起こることもあるんです。

今回は老眼の症状や対処法と、老眼に似た症状を引き起こす「調節緊張」について、医療法人社団久視会いわみ眼科理事長の岩見久司氏に聞きました。

Q.老眼の原因と症状を教えてください

目の中にはピントを調節するレンズである水晶体(すいしょうたい)があります。老眼はこの水晶体が硬くなることで生じます。

老眼になると、ピントを近くに寄せられなくなって手元が見えにくくなります。それだけでなく、ピントを近くに寄せた後、元の場所に戻すのにも時間がかかるようになります。

「手元が見えない・近くが見にくい」は老眼の症状として認識されやすいです。一方「手元に寄せたピントが元の位置に戻らない」という症状は老眼と認識されにくく、「遠くが見にくくなった」「目が悪くなったと」誤解されているかたも多いです。

Q.老眼の治療や対処法にはどのようなものがありますか

アイケア、眼鏡やコンタクトレンズを手にした選択、目のヘルスケアによるクローズアップとビジョン。処方レンズ、フレームとプラスチック容器を持つ人、眼鏡と健康を備えた検眼
PeopleImages/gettyimages

現在のところ老眼そのもの、つまり硬くなった水晶体に対する治療法はありません。対処法としてはやはり、低下したピント調節力を道具で補うことになります。

老眼の矯正として

・老眼鏡
・遠近両用眼鏡
・遠近両用のコンタクトレンズ
・遠近両用レンズを目の中に入れる手術(有水晶体眼内レンズ挿入術、白内障手術)

があります。

老眼鏡は手元用の眼鏡です。老眼鏡を使うと手元がはっきり見えますが、かけたままでは遠くが見えません。遠くを見るためには眼鏡を外す必要があります。

1枚のレンズに遠くが見えやすくなる部分と、近くが見えやすくなる部分の両方があるのが遠近両用眼鏡です。遠近両用眼鏡であれば、近くを見る・遠くを見るときの眼鏡のかけ外しの作業が不要です。しかしレンズの遠用部分と近用部分の境目で、像のゆがみやひずみを感じることがあります。ほかにレンズの特性上、階段を降りるときには顎(あご)を引いて下を見ながら降りるという独特の動きが必要になります。

コンタクトレンズは同心円状に遠用部分・近用部分を配置しているため、境目で困ることはありません。見え方の質は少し落ち、ぼやけます。

手術で遠近両用の眼内レンズを入れるかたもおられます。眼鏡やコンタクトを使わなくてすみますが、見え方の質はコンタクトレンズよりさらに少し落ちます。

Q.生活習慣によって老眼の進行が早まることはあるのでしょうか

老眼は水晶体の硬さで決まりますので、ふだんの生活習慣で進行が早まることはありません。しかし糖尿病などで白内障の進行が早まることが知られており、これが老眼に影響する可能性はあります。

また老眼に似た「調節緊張」が、老眼と同じような症状をきたすことはあります。

Q.老眼に似た症状を起こす「調節緊張」とはどんなものですか

「調節緊張」は近くの作業をするときに使われる眼の調節力が、過度に働きすぎている状態を指します。原因は手元の作業を長時間しすぎる、極端に顔を近づけて作業しすぎるなどが考えられます。

また、近視のかたが眼鏡を外して手元ばかり見ていると「調節衰弱」が現れることもあります。これは手元が見えないまさに老眼に似た症状が出るのですが、適切な眼鏡やコンタクトの使用で回復していきます。

よくある事例として

・休憩を取らないで長時間PC作業を行う
・スマホの画面をのぞきこむようにして長く見続ける

が挙げられます。

調節緊張の症状には

・ピントが近くに固まってしまって遠くが見えにくくなる
・ピントの位置が安定せず、見え方が不安定になる(よく見えたり、見えにくくなったりする)
があります。

調節緊張を引き起こす生活習慣が、調節をつかさどる毛様体筋(ようもうたいきん)の疲労や、首の角度が悪くなることを招きます。それにより頭痛や肩こりが生じます。軽症のうちに生活習慣の改善をすると治りやすいですが、慢性化すると吐き気がするほどの強い頭痛を生じたり、治るのにとても時間がかかることもあり、果ては頚椎(けいつい:首の骨)の異常をきたすケースもあります。

Q.「調節緊張」にならないために、ふだんからどのようなことに気をつければいいでしょうか

まずはアメリカで提唱されている「20-20-20ルール」をおすすめします。これは「20分画面を見たら、20秒でいいので20フィート(約6m)先を眺める」というものです。こまめに遠くを眺めることで、調節する筋肉をストレッチする働きがあります。

また、厚生労働省が出している「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」では、PCを含めたデジタル画面を見る作業は連続して1時間までとし、そのうち10~15分は画面から離れて休憩をとるようにとしています。

体にあった机や椅子で目の高さを調節するのも大切です。そのうえで適切な老眼鏡などの老眼を改善する道具を使っていくのがいいでしょう。

意外ときちんとした老眼の矯正(道具を正しく使うこと)ができていない人が多く、先進国でも約3分の1の方が適切な道具を持っていないとも言われています。

正しい水晶体の屈折値は眼科でしか検査ができません。見え方に困ったら眼科で視力検査を受けてください。また、ほかの病気が隠れている可能性もあるので、眼科以外の検診を受けるのも大事です。

調節緊張については生活習慣の影響が大きいですが、点眼によりある程度の症状緩和が可能です。生活習慣や眼鏡を調整しても症状が残る場合は、眼科へ受診をおすすめします。

教えてくれたのは・・・

岩見久司さん

医療法人社団久視会 いわみ眼科理事長。1日100人を超す外来をこなしながら、若手医師の教育や医師・医療関係者向けの講演も頻繁に行っている。加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などを得意とする網膜内科医として、現在急増している網膜の病気に繋がる可能性がある小児の近視治療にも積極的に取り組んでいる。令和5年度より、「100歳まで見える目」をたくさんの方が持てるように啓蒙活動を展開している。大阪市立大学医学部卒、眼科専門医、医学博士、兵庫医科大学非常勤講師。

取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部

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