「語弊を招く」は間違い?「語弊がある」の正しい使い方・例文、「誤解」との違いを解説
2022/10/05
ビジネスシーンや書籍など幅広いシーンで使用されている「語弊」という言葉。「これは語弊のある言い方かもしれませんが」といった言葉は、聞き手にあらかじめ「誤解を生む可能性」について念押しできる便利な言い回しです。
誰もが耳にしたことがある「語弊」という言葉ですが、「語弊を招く」や「語弊を生む」といったように「誤解」と誤用されやすく、注意が必要な言葉でもあります。
今回は、そんな「語弊」について、その意味や語源、よくある誤用から英語表現まで詳しく解説していきます。
語弊とは?
「語弊」は、「語弊のある~」といった表現など、様々な会話や文章で使用されている日本語です。
「語弊」とは、一体どういった意味で、どういった語源・由来があるのでしょうか。
よく勘違いされている「御幣」との関係性などと合わせて解説していきます。
語弊の意味
「語弊」とは、「言葉の使い方が適切でないために誤解を招きやすい言い方。また、そのために起こる弊害」を意味する言葉です。
「語弊がある言い方だ」や「語弊のある言い方かもしれませんが」といった使い方をされることが多く、ビジネスシーンのみならず日常会話でもよく使われています。
「語弊」は、話し手の発言に対する印象や、発言による影響について言及する際に用いられる言葉で、よく「誤解」と混同されがちですが、その意味や使い方は異なります。
語弊の語源・由来
「語弊」は、「語る」という漢字と、「倒れる、やぶれる」といった意味のある「幣」という漢字が組み合わされた熟語です。
「幣」という漢字は、「倒れる、やぶれる」といった元々の意味から派生した、「状態が悪いこと(物)」や「それに伴って起こる害」という意味を持つ漢字でもあります。
「語弊」は、それぞれの漢字の意味から「言葉によって起こる害」や「言葉の状態が悪いこと」という意味を持つ熟語として用いられています。
「御幣」は由来も無関係
「語弊」と同音異義語かつ、文字の見た目がやや似ている「御幣」という言葉があります。
「語弊」は前述の通り、漢字が持つ意味を組み合わせた熟語で、「御幣」が語源や由来ではありません。
「御幣」とは、神祭用具の1つで、紙や布を切って細長い木に垂らしたもののことを指します。
「御幣」の「幣」は「ぬさ」と読まれる漢字で、神に祈る際に用いられる紙や布のことを指します。
「御幣」は、「幣(ぬさ)」に接頭語として「御」が付けられ「御幣」となった名詞です。
「語弊」と「御幣」は無関係ということは頭の片隅に置く程度で大丈夫ですが、メールや手紙など文章で「語弊」を使用する際は「語弊」の「弊」を「幣」と書き間違えないよう注意しましょう。
「語弊」の類語と異なる点
「語弊」は便利な反面、似た言葉と混同しないなど使用する際は注意が必要な言葉でもあります。「語弊」と似た言葉と、その言葉との違いについて解説します。
「語弊」と「誤解」の違い
「誤解」は、「間違った理解や解釈をすること」といった意味の熟語です。
「誤解」は、主に受け手(聞き手)の印象や、受ける影響などを言及する際に用いられる言葉の1つです。
「語弊」と「誤解」は言葉が持つニュアンス自体は似通っているものの、話し手か聞き手、どちらの主観かという点で大きく異なります。「語弊」と「誤解」は同じシーンで使用されることも多いですが、混同せずに正しく使うためには注意が必要です。
例文(全てほぼ同一の意味)
「あなたの発言は語弊があります」
「あなたの発言は誤解を招きます」
「あなたの発言は誤解を生む恐れがあります」
「語弊」と「失言」の違い
「失言」は、「言うべきでないことを、うっかり言ってしまうこと。また、その言葉」という意味で用いられる言葉です。
例文
「あなたの先ほどの発言は失言です」
「わたしの先ほどの発言は失言でした」
このように「私」や「あなた」が言及したことに対して用いられるという点では、「語弊」や「誤解」と同じです。
「語弊」や「誤解」が話し手の意図に反して聞き手が誤って解釈することを指す言葉であるのに対し、「失言」は話し手の意図とは関係なく、発言自体を「言うべきではない」と非難する際に用いられる言葉です。
「語弊のある」は正解?「語弊」の正しい使い方
「語弊のある」や「語弊のない」といった「語弊」の正しい使い方を、例文を用いて解説していきます。
「語弊のある」
「語弊のある~」は、「語弊」という言葉の中でもよく使われる表現ではないでしょうか。
この表現は「誤解を招きやすい言い方」という意味の「語弊」という言葉を正しく使った表現の代表例です。同様に、「語弊のない~」といった表現も、「語弊」を用いた正しい表現の1つです。
例文
「こう言うと語弊があるかもしれませんが」
「語弊のないように言わせていただきますと」
『羅生門』でも使用されている「語弊」
「語弊」という言葉は一般的にもよく使用される言葉の1つです。
幅広いシーンで使用されている「語弊」ですが、国語の教科書に掲載されている芥川龍之介の『羅生門』で初めて目にしたという人もいるのではないでしょうか。
『羅生門』では、物語中盤の「いや、この老婆に対すると云っては、語弊があるかもしれない。」といった一文で「語弊」が使用されています。
芥川龍之介に限らず、夏目漱石などもよく「語弊」という言葉を著書内で用いているため、既にこの時代には日常的に「語弊」という言葉が使われていたと考えられています。
「語弊を招く」は間違い?「語弊」の間違った使い方
「語弊」は「誤解」と同じように使われることもありますが、「誤解」を「語弊」にそのまま置き換えることは日本語として正しくないとされています。
「誤解を招く」は正しい日本語ですが、「語弊を招く」は誤用となります。
それでは「語弊」と「誤解」の違いや、「語弊」でよくある誤用についてなどを1つずつ解説していきます。
「語弊を招く」「語弊を恐れる」「語弊を生む」は誤用
「語弊」という言葉は、「語弊を招く」「語弊を恐れる」「語弊を生む」といった使い方をされているケースをよく見かけます。一般的にこれらは全て誤用で、「語弊」を「誤解」と置き換えることが正しいとされています。
「語弊を招く」という表現は、「誤解を招きやすい言い方を招く」という表現になってしまい、意味が重複するため不適切だと言われています。
「語弊を恐れる」も同様に、「誤解の恐れがある言い方を恐れる」という表現となり、「頭痛が痛い」のように誤った表現とされています。
「語弊を生む」に関しては、「誤解を招きやすい言い方を生む」→「誤解を生みやすい言い方を生む」と言い換えることもでき、「招く」や「恐れる」と同様に誤用の代表例です。
「語弊力」という言葉は存在しない!?
SNSなどでときおり「語弊力」という言葉を目にしたことがある人もいるかもしれません。
「語弊」は、「誤解を招きやすい言い方」という言葉ですので「語弊力」という言葉はそもそも言葉として存在しません。
「語弊力」という言葉は誤って広まった存在しない言葉ですので、「語彙力」と混同している人がいれば正しく覚え直しておきましょう。
「語弊」の類義語
「語弊」と「誤解」は少し違った意味合いの言葉ですが、少し言い回しを変えることで「語弊」を使った文章を「誤解」を用いて表現することも可能です。
その他にも「齟齬」や「勘違い」など、「語弊」の類義語として使える言葉をいくつか紹介していきます。
「誤解」
「誤解」は、「間違った理解や解釈をすること」といった意味の言葉です。
「語弊」が「誤解を招きやすい言い方」という意味のため、「語弊」は「誤解」を内包している、という考え方もできます。
また、「誤解を与える」という表現は、誤った解釈を与えるという意味となるため、「語弊がある」と似たニュアンスの言葉として用いることができます。
例文
「その言い方は誤解を生みます」
「誤解を恐れず発言しますと」
「誤解を与える(与えやすい)言い方かもしれませんが」
「齟齬(そご)」
「齟齬」も、「語弊」の類義語としてよく紹介されている言葉の1つです。
「齟齬」は、「物事がうまくかみ合わないこと。食い違うこと」といった意味の言葉で、意図と反して伝わってしまう、という点においては「語弊」と似通った意味を持つ言葉と言えます。
「齟齬」と「語弊」は、誤って伝わるという結果は同じであるものの、その原因がどこにあるのか、という部分が異なります。
「語弊」は話し手の話し方に原因があり、「齟齬」は話し手・聞き手、どちらに原因があるかははっきりしない(両者にある)と考えられる場合に適当な言葉です。
例文
「どうやら先ほどのやり取りに少し齟齬があったようですね」
「齟齬をきたすことのないよう、しっかりと打ち合わせを重ねていきましょう」
「誤謬(ごびゅう)」
「誤謬」は、「まちがえること。まちがい」といった意味の言葉です。
「誤謬」は、誤り自体を指す言葉のため、「誤った解釈を招きやすい言い方」の意である「語弊」とは異なった意味で用いられます。
例文
「その解釈は誤謬であると思いますが」
「適切でない」
「適切」とは、「状況・目的などにぴったり当てはまること。その場や物事にふさわしいこと」を指す言葉です。
つまり「適切でない」とは、「当てはまらない」際に用いられる言葉のため、「語弊」とは少し違ったニュアンスの言葉と言えます。
例文
「この発言は適切でないかもしれません」
「勘違いされそう」
「勘違い」は、「間違って思い込むこと。思い違い」という意味の言葉です。
「勘違い」は「誤解」と似た意味の言葉のため「勘違いされる」と受け身な表現にすることで「誤解を与える」と似た使い方ができます。
例文
「勘違いされそうな言い方かもしれませんが」
「語弊」を習う学年
ここまでの解説で「語弊」は少し使い方が難しい言葉という印象を持たれたのではないでしょうか。
日常的に耳にする言葉でもある「語弊」ですが、類義語である「誤解」も含めて、子どもたちはこの言葉をいつから使い始めるのでしょうか。
学習指導要領にある「学年別漢字配当表」から学校教育で習う時期について見ていきましょう。
「語弊」はいつ習う?
「語弊」という言葉は、熟語として国語教育で改まって習う機会はないため、「語」と「弊」というそれぞれの漢字を知る際に初めて学ぶことになります。
文部科学省が公示している学習指導要領によると、「語」は小学2年生で習う漢字とされています。
「弊」という漢字は学習指導要領によれば、小学生では習う機会はないため、「語弊」自体も中学生以降で教科書および読書などで学ぶ子どもが多いようです。
「誤解」はいつ習う?
「誤解」は「語弊」と違い、「誤」と「解」それぞれの漢字を小学生の間に習うため、小学生の時点でも言葉を理解して使うことができる熟語と言えます。
「誤」は小学6年生、「解」は小学5年生でそれぞれ習う漢字とされていて、「誤解」自体も教科書などで触れる機会があるものと考えられます。
文学で出会う「語弊」
「語弊」自体は中学生以降に習う漢字のため、小学校の学校教育で教科書に掲載されている文学を通して触れる機会はありません。「語弊」という言葉は文豪と呼ばれる人たちも好んで用いる言葉のようで、有名な著書でもよく使用されています。
「語弊」が使われている著書の一例
・芥川龍之介『羅生門』
・夏目漱石『吾輩は猫である』
「忍び込むと云うと語弊がある。」「うん、気を引くと云うと語弊があるかも知れん。」
「語弊」の英語表現
「語弊」は日本ではよく利用される言葉として聞きなじみのある言葉ですが、世界の公用語と言われる英語ではどうでしょうか。
「語弊」の英訳としてよく利用される「be misleading」や「mislead」の詳しい意味や例文などから日本語と英語の違いを見ていきましょう。
「be misleading」
「be misleading」は「語弊のある」という言葉の英語表現としてよく用いられます。
「misleading」は「語弊のある~」や「語弊を与えかねない~」といったような表現ができる形容詞のため、「語弊」を使った日本語を英訳する際によく利用されます。
例文
「The words is misleading.」
「こう言うと語弊がある。」
「mislead(ミスリード)」
「mislead」は、日本語の文章や会話でもよく耳にする英語です。「mislead」の直訳は「誤った方向に導く」や「判断を誤らされる」「欺く」といった意味となります。
「mislead」は、言葉や言い方に関することにのみ言及する言葉ではなく、相手を誤った方向に導く、連れていくという意味も含まれます。
また、「mislead」は、意図的に誤った情報を与えることを意味する言葉のため、「語弊」とは少しニュアンスが異なります。
例文
「mislead the enemies.」
「敵を欺く」
まとめ
「語弊」は、「語弊があるかもしれませんが」と前置きとして用いることで、「誤解を与えてしまった場合は申し訳ありませんが」といったニュアンスを含むことができる便利な言葉です。
「語弊」と「誤解」を混同し、誤用されがちな言葉でもあるため、迷った場合は、話し手・聞き手、どちらの主観で話されている言い回しかを判断し、正しく使い分けましょう。
「語弊」は毎日使う言葉、というと語弊があるかもしれませんが、日常的に使用するシーンも多い言葉です。
本記事を読むことで正しい知識を身に付け、美しい日本語表現の1つとして「語弊」を正しく使ってもらえると幸いです。