「癪に障る」とは?意味や由来、「癇に障る」との違いを解説します
2022/10/06
「癪(しゃく)に障る」とは、腹立たしくて、気持ちがむしゃくしゃすることを表す言葉です。似ている言葉に「癇(かん)に障る」というものがあります。どちらも腹が立つことを表す言葉ですが、「癪」と「癇」は異なる意味合いです。そこで、「癪に障る」の意味や由来、「癇に障る」との違いについて解説します。
「癪に障る」の読み方と意味
「癪に障る」とは、腹立たしくむしゃくしゃする感情を表す慣用句です。詳しい意味や由来を知るために、「癪」と「障る」の意味や読み方をご紹介します。
「癪に障る」の漢字と読み方
「癪に障る」は、「しゃくにさわる」と読みます。「しゃく」はやまいだれに「積」という字で、「さわる」は障害の「障」の字をあてます。
「癪」の意味
日常生活であまり使わない「癪」なので、意味がわからないまま「癪に障る」と、口にしている方も多いでしょう。「癪」の意味を解説します。
「癪」は胸部や腹部の激痛のこと
「癪」とは、何らかの病気によって起こる胸部や腹部の激痛全般を指す言葉です。「癪」は女性に多く起こる症状で、別の言葉では「さしこみ」とも呼ばれます。
医学が発達していなかった時代の日本では、思わず患部をおさえて身をかがめるような胸や腹の痛みをはっきりと判別できなかったため、総称して「癪」と呼んでいました。
現代の医学では、「癪」は胃けいれんや胆石症、尿路結石などが原因で起こる疝痛と考えられます。
「持病の癪」って何?
時代劇などを見ていると「持病の癪が…」と、若い女性が倒れ込むシーンが時々あります。これは、持病としてしばしば起こる、胸痛や腹痛を訴えている場面です。時代劇などでは若い女性が持病の癪を訴えますが、癪の一因である胆石症は、中高年の女性に多い病気となっています。
「障る」の意味
「障る」には、「心身の害になる」や「差し支える」という意味があります。たとえば、「深酒は体に障る」は、「深酒することが体に悪い」という意味です。
「さわる」は「触る」を使うこともありますが、気分を害するという意味では普通「障る」と書きます。
「癪(しゃく)に障る」と「癇(かん)に障る」との違い
「癪に障る」と似ている言葉に「癇に障る」があります。「癇に障る」は、「かんにさわる」と読み、「癪に障る」と同様に腹を立てることを指す言葉です。2つの言葉の違いや使い分け方について解説します。
「癪(しゃく)に障る」が表す状態
「癪に障る」が表すのは、腹立たしくてむしゃくしゃする状態です。「癪」は胸部や腹部の強烈な痛みのことなので、いらいらして思わず胸や腹が痛くなるようなときに使います。
また、もともと「癪」はストレスが積もり積もることで起こると考えられていました。このため、「癪に障る」とは、激しい痛みを起こすほどの腹が立つことを表す言葉といえます。
「癇(かん)に障る」が表す状態
「癇に障る」とは、神経を刺激していらいらさせることを表す言葉です。「癇」は、感情が激しく怒りやすいことやそういった性質を表します。
いわゆる「ギャン泣き」のような、幼い子どもがひきつけを起こすほど不機嫌で大泣きすることも「癇」といいます。子どもの不機嫌は「疳」という字を当てることが一般的で、「疳の虫」が原因とされてきました。実際に体の中に「虫」がいるわけではありませんが、昔は原因不明の不機嫌や体調不良を虫のせいということにしていたのです。
「癇に障る」とは、何らかの言動が害になって、激しく怒りっぽい性質が引き出されることを指します。
使い分け方
「癪に障る」と「癇に障る」は、どちらも腹立たしいことを指す言葉です。「癇癪に障る」という言葉もあり、何らかの理由でいらいらしたり腹を立てたりするときに、どちらの言葉も使います。
ただし、もともとは「癪に障る」がひどい腹痛を起こすような怒りを、「癇に障る」が興奮して怒りっぽい性質が引き出される状態を表しています。
「癪に障る」の類語
「癪に障る」の類語はたくさんありますが、主な3つの言葉をご紹介します。
類語1:鼻につく
「鼻につく」は「癪に障る」と同様に、むしゃくしゃしたり嫌な気分になったりすることを言い表しています。しかし、「鼻につく」はにおいが鼻につきまとう不快感や、人の振る舞いに飽き飽きしてうっとうしく感じるというニュアンスで使う言葉です。
例文としては、「彼の気取った立ち居振る舞いが鼻につく」や「上司の嫌味な言い方が鼻につく」などが挙げられます。
類語2:腹が立つ
「腹が立つ」は、「癪に障る」とほぼ同じ意味で、怒りを感じることを表す言葉です。「立腹する」とも言い換えられます。
例文としては、「彼はスープの中に大嫌いなニンジンを見つけてとても腹を立てた」や「些細なことで腹を立てるのは私の短所だ」などが挙げられます。
類語3:むしゃくしゃする
「むしゃくしゃする」は、腹を立てて平静ではいられない様子を表す言葉です。とても怒っている状態なので、「癪に障る」の言い換え表現として使えるでしょう。
ただし、「むしゃくしゃする」は「癪に障る」よりもカジュアルな印象を与える言葉です。
「むしゃくしゃする」の例文としては、「打ち合わせのリスケが続いてむしゃくしゃする」や「気分がむしゃくしゃしているので、帰りにバッティングセンターに寄ろう」などが挙げられます。
「癪に障る」を英語でいうと「irritate」
「癪に障る」を英語でいうと、「irritate」が近しい意味になります。「irritate」は、日本語では「いらいらする」という意味です。次のような例文が挙げられます。
I’m often irritated by her selfishness.
(彼女のわがままさが癪に障る)
He was irritated with me.
(彼は私にいらいらした)
まとめ
「癪に障る」の意味や由来、似ている言葉の「癇に障る」との違いを解説しました。「癪に障る」の「癪」とは、胸部や腹部に起こる激しい痛みの総称です。現在でいうところの、胃けいれんや胆石症などが原因と思われる痛みが「癪」。これが起こりそうなほど腹立たしかったりストレスを感じたりすることが「癪に障る」状態です。
「癇に障る」の「癇」は、興奮しやすく怒りやすい性質のこと。「癪に障る」と「癇に障る」はどちらも腹立たしい状態を表しますが、由来が異なる慣用句です。
職場やプライベートな場でも、胃がキリキリと痛むようなストレスや腹立たしさを感じることはあるでしょう。そういったときは「今の気持ちは『癪に障る』と『癇に障る』のどちらに近いかな?」などと考えて、一度冷静になるといら立ちが紛れるかもしれません。胸部や腹部の激痛(「癪」)を伴う前に、ストレスを発散させながら過ごしたいですね。
参考文献
『広辞苑 第六版』岩波書店
『明鏡国語辞典 第二版』大修館書店
『明鏡 ことわざ成句使い方辞典』大修館書店