「弟ばかり、甘やかす」元夫の子である長女に言われました。そんなつもりはないのですが
2023/05/29
今回の相談者みおさんは、最近、20歳の長女から「年の離れた二男には甘い」と言われるそう。ご自身は二男をひいきしているつもりはないけれど、長女が子どものころは夫婦仲が悪かったため、そのことが関係しているかも・・・という気がしています。
家族の問題に長年携わってきた心理カウンセラーのよしおかさんが、みおさんの悩みに寄り添います。
【相談者】
みおさん〈仮名〉
(45歳 愛知県)
夫(53歳)、長女(20歳)、長男(16歳)、二男(8歳)のステップファミリー。長女は県外で一人暮らしをしています。
【回答者】
心理カウンセラー
よしおかゆうみさん
幼稚園教諭を20年務めた後、思春期カウンセラーなどを経て、現在は夫婦や親子など家族問題のカウンセリングを行う。相談者数は2万組以上。
https://www.happymagic.jp/
「私には厳しかったのに、二男には甘い」と言う20歳の長女。そんなつもりはないのですが・・・
みおさん(以下、みお):11年前に再婚して3人の子どもがいます。大学生の長女と高校生の長男は前の夫との子どもで、小学生の二男は再婚後に生まれました。最近、長女から「二男にばかり甘い」とよく責められて悩んでいます。
よしかおさん(以下、よしおか):それはどんなときに言われました?
みお:長女が今年成人式で帰省して2人でドライブしたとき、「私には厳しかったのに二男には甘い」と泣かれてしまって。それまでも何げなく言われてたけど、そこまでとは思ってなくて驚きました。
よしおかさん:具体的にどう甘いと・・・?
みお:「自分が小学生のときは、毎日ご飯を炊いたり洗濯物を畳んだりしてた」とか「自分たちは9時に寝なさいと言われたのに、二男は9時過ぎまで起きていて動画も見放題」とか・・・。でも長女にそんなことはさせてないし、二男をひいきしているつもりもないんです。
よしおか:みおさんと長女の間に、記憶のズレがあるんですね。
当時、夫に対して不信感が募り、うつ状態に・・・。二人の子どもをつれて別居しました
みお:ただ、当時は結婚生活がうまくいってなくて、彼女の気持ちも分かるから対応が悩ましいです。
よしおか:前のご主人はどんな人でした?
みおさん:私は23歳で結婚したのですが、元夫は5つ年上の田舎育ちの長男で、しかられたことが全くない人でした。同居していた義母は優しい人で、私が子どもをしかると飛んできて「私の孫に何を言うの」という感じでかばうんです。きっと彼も同じように育ってきたんですよね。
よしおか:みおさんのほうは?
みお:私の父は厳しくて、タオルを余計に使ったとか細かいことでよく怒られて育ちました。
よしおか:正反対の夫婦ですね。
みお:はい。私は厳しい父がイヤで早く家を出たかったから、早く結婚しようとずっと思ってて。元夫は学歴とか父がこだわる条件をクリアしていたので、そういう理由で結婚を決めてしまったんです。
よしおか:なるほど。結婚当初はどんな感じでした?
みお:長女が生まれる前は普通に仲が良かったけど、出産後はケンカが増えました。
よしおか:それはなぜ?
みお:彼はエッチな本やビデオが大好きな人で、でも私はそういうものに免疫がなく、拒否反応を示してしまいました。すると彼は陰でこそこそするようになって、不信感がどんどん募っていきました。
よしおか:そうなのね。夫婦で話し合いはしましたか?
みお:いつも私がワーッと怒って、向こうは「時間がたてばおさまるだろう」と聞き流してたけど、我慢の限界が来ると逆切れして出て行っちゃう。話し合いはなかったです。
よしおか:なるほど。
みお:土地柄のせいか、彼は「俺はこの家の長男だ」という気持ちが強く、私自身も長男の嫁という意識があって、絶対男の子を産みたいと思っていました。そうすれば彼も変わるかもという期待もあったし・・・。
よしおか:そして長男が生まれたんですね。そのときは喜ばれた?
みお:はい、喜んでいました。
よしおか:それでも別居することになったのは?
みお:彼が風俗に行ってたことが発覚して。お店の人とのメールや割引券もいっぱい隠してありました。それでもう一緒にいられない、気持ち悪いと思ってしまったんです。
よしおか:それはいつのことですか?
みお:長男が1歳のころかな・・・。そのころの記憶があまりなくて。多分うつだったんですよ。パートで塾の先生をしていたのですが、仕事に行く以外はずっと横になっていました。
よしおか:それは産後うつ?
みお:どうだろう・・・彼とはやっていけないという気持ちが大きかったと思います。2人目を産む前に別れることも考えましたが、父から「その程度のことを我慢できないお前が悪い。結婚したら死ぬまで添い遂げるのが当たり前だ」と言われました。それで実家に帰ることもできず、思いとどまったんですが、結局うまくいかなかったですね。
夫との関係が悪かったころは、子どもに十分な愛情表現をする余裕もなかった気がします
よしおか:そのころ長女とみおさんの親子関係はどうでしたか? ふれあった記憶は?
みお:私がパートのとき以外はずっと一緒に過ごしてました。娘は幼稚園のころからしっかり者で、自立した子に育ったなと思ってたけど、先日娘に泣かれたことで、昔私が弱っていた影響もあるのかなと思いました。
よしおか:そうなのね。
みお:私自身は娘を大事にしなかったという思いは全くないんですが、娘の中には何かあるんですよね・・・。
よしおか:そうね、たぶんね。長女が成人式で帰省したときに「二男にばかり甘い」と泣いたのは、おそらくみおさんと二男のやりとりを見て、記憶の隅に追いやっていたものが思い起こされたんでしょう。
みお:・・・はい。
よしおか:だから、さみしかったとか、甘えたかったとか、そういう気持ちはあったかもしれない。
みお:子育て中のお母さんが聞いたらびっくりだと思うんですが、私そのころ、子どもをひざにおいて抱きしめることができなかったんですよ。長女も長男も。「お母さーん」と寄ってきても「ちょっとごめん」という感じでよけてしまって・・・。あの夫の子ども、というのが私の中にすごくあって。
よしおか:みおさんと同じように、子どもを抱きしめられない、子どもはかわいいけれど無条件に愛せないという悩みの中に、「半分は夫の子ども」という複雑な思いを持っているお母さんが、実は結構いらっしゃるんですよ。
みお:えっ・・・そうなんですね。私、友だちには絶対言えなかったです。
よしおか:夫を丸ごと受け入れられないと、お子さんにもそれを投影してしまって、無条件にかわいいと思えないケースは決して少なくないので、みおさんがそう思ったのも不思議はないと思うんですね。
みお:・・・はい。
娘さんの記憶は正しくないかも。でも、そのくらい必死だったということでしょう
よしおか:ただ、幼い彼女の中に、何となくさみしさがあったかもしれない。それをおばあちゃんに甘えたりしてほかの場所で解消できればいいんだけど、何といっても、お母さんは特別な存在だから。
みお:そうですね・・・。
よしおか:だから2人の様子を見て「いいな、弟は。私もあんなふうに愛されたかったな」と感じたんじゃないかな。
みお:私が二男に厳しくする場面を長女が見てないだけじゃないかとも思うんです。家事のことにしても「私は毎日やっていた」と、娘の記憶の中で1のことが10に膨らんで・・・。
よしおか:昔の記憶は不確かもしれない。でももし幼かった長女の中に「いい子にしてお母さんに愛されたい」「お手伝いしないと怒られる。嫌われちゃう」という必死な思いがあったとしたら、と想像してみてください。それはきっと、記憶を書き換えるほど切実な思いだったんでしょう。記憶って、感情と密接に結びついているから。
みお:そうなんですね・・・。
よしおか:だから、長女の言い分が事実とは違ったとしても、彼女なりにいっぱいいっぱいだったと、みてあげたほうがいいかもしれないですね。
みお:はい。
よしおか:外で「しっかりしてるね」「いい子だね」と言われる子ほど、甘えられていないんですよ。幼い長女を抱きしめられなかったことを、この機会にみおさんも乗り越えてみませんか。
みお:はい、そうですね・・・。
「二男にだけ甘い」という長女の言葉に込められた「お母さんにもっと甘えたかった」という思い。その一方で、みおさんも夫に対する不信感から、子どもへの愛情をストレートに表現できなかった、当時の複雑な心情を内に秘めてきました。
親子の間に気づかぬうちに生じた問題が、時を経て表面化したとき、どう乗り越えたらいいのでしょうか。次回、よしおかさんのアドバイスをお届けします。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ