子どもが幼い頃、ぎゅっと抱きしめてあげられなかった。今から愛を伝えることはできますか?
2023/06/17
大学生の長女に「年の離れた二男には甘い」と泣かれて悩んでいたみおさん。心理カウンセラーのよしおかさんが当時の親子関係を丁寧にヒアリングすると、幼かった長女の、親の愛を求める思いがみえてきました。戸惑うみおさんに、よしおかさんは「愛を伝えるのに遅すぎることはないから」と背中を押します。
「あのときはごめんね」って、20歳になった長女を抱きしめてあげて
よしおか:みおさんの中に、幼い長女を抱きしめてあげられなかったという思いが、今も残っていますよね。だからご自身が前に進むためにも、その思いに決着をつけませんか。心を裸にして「あのとき抱きしめてあげられなくてごめんね」って、長女を抱きしめることが必要だと思うんです。
みお:はい…。
よしおか:愛情を伝えるのに遅すぎることはないので、「あのころお母さん、お父さんといろいろあって、あなたも悲しい思いをしていたかもしれないよね。ごめんね」って。
みお:長女はもう小さな子どもじゃないし、心の奥にあるさみしさをどう埋めてあげたらいいのか…。
よしおか:言葉で伝えて、さみしさを受け止めてあげる。それしかないです。一度ゆっくり時間を取って、「あなたを産んだときは私も一生懸命で、一人で育てなきゃと思って仕事も頑張っていたし、あなたを抱っこする時間が少なかったかもしれない。ごめんね」って。
みお:はい。
よしおか:記憶違いでも「違うよ」って言わないで、「いっぱい手伝ってくれたんだよね。ありがとう。お母さん、あなたをしっかり育てなきゃと思って厳しくしすぎちゃったかな。ごめんね」と言って、抱きしめてあげる。そうすることで彼女の気持ちもほどけていくと思うんです。
みお:「ごめんね」って言うんですね。
よしおか:そう、それを言わないと。子どもって「お母さんにこうしてほしかった」といろいろ言うんですが、最後は「謝ってほしい」っていうんですよ、みんな。謝るということは、すごくすごく、すごーく大事なことなんです。
みお:そうなんですね。
よしおか:はい。「でも愛していたんだよ、生まれたときはうれしかったよ」って、真心をこめて言ってあげてください。
子どもが家庭を築くときに問題を持ち越さないように、気持ちを真摯に伝えてあげて
みお:こういう話をどんなタイミングでしたらいいんでしょう。いきなり切り出すと「え、どした?」ってなりそうで。
よしおか:例えば夕食後に2人でお茶を飲んでいるとき、「お母さんこれから大事なこと話すね。勇気がいること言っていい?」という感じで、改まって伝えてください。どさくさまぎれだと「なんでそんなに軽く言うの?」ってなっちゃうから。
みお:そうかあ…。
よしおか:子どもらしく何も考えずにいられる時期に、親のいざこざを心に入れることには、苦労もあったはず。長女にとって、心の奥に閉じ込めていたものは、きっとすごく深くて重いことだったんじゃないかって思います。
みお:はい。
よしかお:これは母であるみおさんにしかできないこと。ほかの人から「お母さんも大変だったから」と言われても、多分納得できないでしょう。
みお:そうですね。
よしおか:離婚が⼦どもの心に与える影響は、⼤⼈が考えるよりはるかに⼤きいんです。一緒に暮らしていたお父さんや祖父母と離れる悲しみ、不安、家族の形が変わって育った家を失う喪失感を抱えていても、子どもはうまく言葉にすることができませんよね。
みお:はい。
よしおか:そうした家庭や家族関係のほころびが解消されないままだと、その影響が将来の結婚生活や子育てに表れることが少なくないんです。だから、長女が家庭を築くときに問題を持ち越さないよう、ここで終わらせてあげてほしいです。
みお:はい。
よしおか:そうしたら、長女も安心して自立していくんじゃないかな。
お子さんと前の夫やその家族との関係を絶たなかったことは、よかったと思います
よしおか:話は変わりますが、お子さんたちは別居中や離婚後、お父さんや祖父母と交流していましたか?
みお:はい。元夫の実家で敷地内別居でしたし、今も定期的におばあちゃんちに泊まったり父親と会ったりしています。子どもたちはおばあちゃんが大好きなんですよね。とにかく優しい、甘~い人なので。
よしおか:うんうん。
みお:娘が子どものころ、食事の前にはお菓子を食べないとか、宿題をすませてから遊ぶとか、約束ごとを守らないときに私がしかると、お義母さんが「かわいそうに、こっちおいで」って、すぐ母屋に連れて行っちゃったんです。
よしおか:そうなのね。でも子どもにとって逃げ場があることは大事だから。子育て中って、お母さんは余裕がないじゃないですか。でも祖父母は余裕があるので、ワンクッションおいて子どもに接することができる。だから子どもは、おばあちゃんにはありのままの自分でいられたりして。
みお:私は怒りんぼうの母みたいで、損な役回りでしたけど(笑)。
よしおか:そうよね(笑)。でも父親や祖父母との関係を切らなかったのは、とてもよかったと思いますね。なぜなら、親や祖父母がどんな人なのか、自分のルーツを知ることは、アイデンティティ(自分は自分であるという感覚)を形成していくうえでとても重要なことだから。遺伝子の半分は父方から受け継いでいるので、それを否定してしまうとね。
みお:娘は、私が元夫の悪口を言っても全く聞かない子でした。
よしおか:聞かない子でよかった(笑)。子どもが傷つくから、悪口は禁物ですよ。
みお:気をつけます。
桜の季節に撮り続けてきた家族写真。忙しい長女が私のために時間をつくってくれました
みお:これまで毎年、桜の季節に子ども3人と家族写真を撮ってきたんです。娘は他県で暮らしていてバイトも忙しいし、今年は無理かなと思っていたんですが、「お母さんが写真を撮りたいなら時間をつくろうか」と言ってくれて、桜をバックに写真を撮れました。
よしおか:とても素敵なお話ですね。子どもたちにはきっと、そのイベントが家族の証なんだと思います。
みお:たった15分しか会えなかったけど、私のために時間をつくってくれてすごくうれしかったです。
よしおか:お子さんたちも「桜と一緒にあなたたちを写真におさめておきたい」というお母さんの気持ちに触れることで、自分が大切にされていると実感できるのかも。心の風景として支えになっているのでしょうね。
みお:ありがとうございます。
よしおか:長女に話すことを考えるときも、昔の写真を見ながら、当時のことを思い起こしてみるといいと思います。彼女の立場だったらどんなことを言ってあげたらいいかなって考えて。一度やってみてください。
みお:わかりました。がんばってみます。
自分が気づかないうちに、娘がさみしさを抱えていたと想像することは、みおさんにとってつらく重いことだったかもしれません。でも最後は親子の素敵なエピソードを笑顔で語ってくれました。
みおさんは今回のお話をどう受け止め、気持ちを整理したのでしょうか。次回うかがってみたいと思います。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ