実は出生率上昇の鍵にも!男性の十分な育休取得が有効~連載『はじめよう!フェムテック』
2024/08/22
2021年10月から、ニッポン放送でスタートした番組『はじめよう!フェムテック』。ベネッセコーポレーションとかます東京の共同企画で、社会的なムーブメントになりつつある「フェムテック」を、さまざまな角度から取り上げています。パーソナリティーは、おなじみの伊久美亜紀さんと東島衣里アナウンサー。この連載では、毎週オンエアされた内容を、ギュッとまとめてお伝えします。
番組ではフェムテックに関する、あなたの職場や家庭などでの問題点やポジティブな試みなどを募集いたします。ニッポン放送『はじめよう!フェムテック』宛にメール(femtech@1242.com)でお送りください。
<パーソナリティー>
●伊久美亜紀 Aki Ikumi
ライフスタイル・プロデューサー、企業コンサルタント。大学卒業後、『レタスクラブ』編集部、ハースト婦人画報社を経て、1995年~2022年までは、ベネッセコーポレーション発行のメディア総編集長として『たまひよ』『サンキュ!』『いぬのきもち・ねこのきもち』など年間約100冊の雑誌・書籍・絵本の編集責任者を務め、2023年に独立。32歳の長女一人。
●東島衣里 Eri Higashijima
長崎県出身。大学卒業後、ニッポン放送に入社。現在は「中川家 ザ・ラジオショー」(金 13:00~15:30)、「サンドウィッチマン ザ・ラジオショーサタデー」(土 13:00~15:00)などの番組を担当。最近、女性の健康、そして幸せについて友人と語り合うことが多くなった33歳。
<ゲスト>
●山口慎太郎さん Shintaro Yamaguchi
1976年生まれ、神奈川県出身。東京大学大学院経済学研究科教授。1999年、慶應義塾大学商学部卒業後、2006年、ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号(Ph.D.)を取得。マクマスター大学助教授・准教授、東京大学大学院経済学研究科准教授を経て、2019年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。『子育て支援の経済学』(日本評論社刊)などの著書がある。プライベートでは一児の父。
認知が広がりつつある「フェムテック」を推進して、女性だけでなく社会全体の幸せを目指したい!という意気込みでスタートしたこの番組。今回のゲストも、東京大学大学院教授の山口慎太郎さんです。「“なぜ、男性の十分な育休取得が大切なのか”、その理由が、論理的で大変わかりやすい先生のお話で腹落ちしました。男性というのは、子育てにおいても仕掛けが必要なのですね(笑)」(伊久美)
男性の家事・育児デビューは時期が肝心!初めから参加すれば自然に行うようになる
■東島アナ「前回に引き続きゲストは、東京大学大学院教授の山口慎太郎さんです。今回のテーマは“育休”についてです。“子育ては女性だけでなく男性も行うもの”という価値観は広く浸透してきましたが、そのためには男性の育休取得が欠かせません。ひと昔前に比べ、育休取得が進んでいるという記事をよく目にしますが、現状いかがでしょうか」
■山口「肌感覚では、びっくりするくらい進んだと感じています。私と同じ40代の男性では、育休を取得する人はほぼゼロでしたが、現在、特に都市部の大企業では、まったく珍しくなくなってきました。とはいえ、取得期間で見ると1週間未満というのが非常に多いです。実態としては、日本の社会全体には、まだまだ浸透していないと思います」
■伊久美「私は北海道の企業でも仕事をしているのですが、2023年は2人の男性が育休を取り、大騒ぎになっていました。2024年は約3カ月取得した男性が5人。やはり会社が育休を推奨すると、取得しやすくなるというのはあるようです」
■東島アナ「男性の育休取得とともに、家庭内でのジェンダー格差についても、よく話題になりますね」
■山口「そうですね。家庭内でのジェンダー格差というのは、“家事育児に関して、どのような配分で男性と女性が携わっているか”ということです。どの国でも女性の配分が大きいのですが、日本はその配分が極端に女性に偏っているのです。たいていの先進国では、家庭内で発生する家事育児のうち、男性が40%くらいを担当しています。女性が担当する比率が大きいとはいえ、男性もそこそこ行っているといってよいと思います。ところが日本は、男性が担当する比率は15%で、先進国の中でも飛び抜けて低いのです。この背景には、“男は外で仕事をしてお金を稼いでくるのがよき父親である”という伝統的な価値観があり、“母親は家で子どもを育てる”という性別役割分業意識というのが、他の先進国と比べて日本は非常に強いのかなぁと感じます。結果的に、このことが出生率に悪影響を及ぼしているのではないかということも指摘されています。実際に統計を見ても、男性が家事育児を積極的に行っている国は、出生率が高いことが知られています。日本でも、例えば1人目の子どもが生まれた後に、家事育児時間が長かった父親がいる家庭だと、2人目の子どもが生まれやすいというデータもあります。ですから、男性が家事育児をすることと出生率の間には、無視できない関係があるのではないかと思います」
■伊久美「なるほど~。データ上にも示されているのですね。ただ今の若いご夫婦を見ていると、かなり夫も当たり前のように子育てをしているケースが多くなってきた気はします」
■山口「確実に、男性の育児参加率は上昇していると思います。それでもまだまだ欧米と比べると開きがあります」
■東島アナ「肌感覚ではなく、データで知るということも一つのポイントかもしれませんね。“女性が働きやすくなり、かつ出生率のアップが望まれる”という子育て支援対策については、どのようにお考えでしょう」
■山口「男性の育休取得というのは、非常に重要な出発点になると思います。というのも、子育ては子どもが大人になるまでずっと続くわけですが、育休を取り、子育ての始まりの部分でうまくいかないと、その後に男性は子育てに参加できない、うまく関わっていけないというデータもあります。男性の育休取得率を高め、かつ期間も1週間ではなく3カ月くらいは取るようになっていくことが非常に大事ですし、それを支えるような国や会社の制度をつくっていかなければならないと思います」
■伊久美「男性の子育てデビューは、その後の子育てに繋がる重要なこと!ですね」
■山口「その通りです。海外の研究でも、1カ月くらいの育休を取った場合、2~3年後の男性の家事育児時間が2割伸びるといわれています。実は脳科学でも明らかになっているのですが、男性も子育てをすると、脳から“オキシトシン”が出てきます。オキシトシンというのは愛情ホルモンと呼ばれており、子どもをかわいいと感じられる脳内物質です。男性は子育てをして、初めてオキシトシンが出てくるのです。女性は出産や授乳を通して、自然にオキシトシンが出てくるようになり、子どもがかわいいと自然に思えるのです。男性はなかなかそうはいかない。ですから、最初は責任感からの出発で、半ば無理やりでもよいから子育てに参加させると、子どもをかわいいと思うようになって、もっと子育てをしたくなるというサイクルが動くのです」
■伊久美「本当に重要なことですね。男性は子育てに参加しないと、愛情ホルモン・オキシトシンは自然に出てこないのですから」
■山口「はい、男は自然に子育てを行えないので、オキシトシンが出るような仕掛けが必要になるわけです。初めから子育てに参加させることが肝心です(笑)」
■東島アナ「さらに、このことは少子化対策にも繋がりますしね」
■山口「そうです。結局のところ、男性がある程度、育児や家事を担っていかないと、女性の負担は軽くなりません。負担が大きいままだと、女性はもう一人子どもをもちたいという気持ちにならないので、男性の家事育児参加は非常に大事なのです。その出発点として、男性の育休取得が有効!というわけです」
合言葉は「はじめよう!フェムテック!!!」
【番組インフォメーション】 『はじめよう!フェムテック』は、毎週・土曜日15時50分~16時にニッポン放送でオンエア。聴き逃しは『radiko』のタイムフリー機能で、放送1週間後までお聴きになれます!
●記事まとめ/板倉由未子 Yumiko Itakura
トラベル&スパジャーナリスト。『25ans』などの編集者を経て独立。世界を巡り、各地に息づく心身の健康や癒やしをテーマとした旅企画を中心に、各メディアで構成&執筆。イタリア愛好家でもある。伊久美さんとは28年来の付き合い。https://www.yumikoitakura.com/
●撮影/寿 友紀