怒ってもダメ、ほめてもダメ。勉強する気のない中1男子にやる気を出させる方法は?
2023/09/09
今回のテーマは、子育て中の親にはとても身近な悩み。「わかる~!」「うちも困ってる!」と共感するかたは多いのではないでしょうか。「勉強しなさい」とうるさく言いたくない、でもやる気を持ってほしい…。そんなジレンマを抱えた相談者はづきさんに、教育や学校の最新事情に詳しい小村俊平さんがアドバイスします。
【相談者】
はづきさん<仮名>
42歳
夫、長女(22歳)、長男(13歳)の4人家族。神奈川県在住。長男はおっとりした性格でゲーム好き。野球部に入っています。はづきさんはスーパーで発注係のパートをしています。
【回答者】
ベネッセ教育総合研究所
小村俊平さん
全国の自治体や学校とともに学校改革や学校設立に従事。全国の高校生とオンラインで対話するなどの教育支援を行っています。プライベートでは大学生と高校生のお父さん。
好きな歴史だけは自ら勉強するけれど、あとは「面倒くさい」のひと言。「授業中の態度にも現れている」と先生からも指摘されました
はづきさん(以下、はづき):中1の長男が勉強しなくて困っています。大学生の長女は必要に応じて勉強したけど、長男は危機感ゼロ。テスト前になっても焦りません。志望校はあるものの今は偏差値が届かず、それに対する切迫感もなし。私自身は両親から「勉強しろ」と言われてばかりで嫌だったので「自分はそうならない」と思っていたのに、つい尻をたたいてしまいます。
小村さん(以下、小村):私も大学生の娘と高校生の息子がいて、同じ悩みを抱える保護者の一人なので、お気持ちはよ~くわかります。息子さんは、何か得意なことはありますか?
はづき:歴史が好きで、社会は勉強しなくてもいい成績がとれます。友だちに教えたりもするようです。でも数学は、ちょっとつまずくとすぐ拒絶して。苦手なものには「面倒くさい」という言葉が一番に出ますね。
小村:なるほど。
はづき:三者面談でも、先生に「やる気があるものには授業も積極的だけど、やる気がないものにはまったく興味を示さない」「やればできるのにもったいない」と言われました。
小村:差が激しいんですね。
はづき:はい。私も得意なことは褒めて「苦手な数学もがんばればいけるんじゃない?」と励ますけれど効果がなく、かといって「勉強しなさい」と叱ってもダメ。どうしたらいいんでしょう。すすんで勉強する子の話を聞くとうらやましくなります。
息子さんのやる気のなさ、わりと「あるある」です
小村:歴史のほかに、好きなことや得意なことはありますか?
はづき:部活は野球をやっていて、水泳も得意かな。あ、ゲームは大好きです(笑)。すごいやる気と集中力で、それを少しでも勉強に向けてくれたらいいのにって思います。
小村:私は仕事柄、全国のたくさんの学生たちから話を聞いたりしていますが、息子さんの様子は中学男子ならきわめてふつう、あるあるですよ。
はづき:そうなんですね。
小村:よく女子は宿題や定期テストをコツコツがんばる子が多く、男子は「俺はやればできる」と思って好きなことだけ勉強すると言われます。男子の特徴は、あるとき目覚めてがんばり、あと伸びするケースが多いことです。
これからは「まんべんなくできる」より「好きなことから世界を広げられる」が重視される時代です
小村:息子さんが歴史好きなのは、強みだと思います。今は好きなことを見つけることが学校目標になっているくらいですから。
はづき:強みなんですね。
小村:これまでの教育は、苦手な教科を克服して平均点を高めることが重視されました。でもこれからは、尖った部分が社会で活躍する武器になる時代。高校の学びもそうです。
はづき:そうなんですね。
小村:そのためには、好きなことが得意であることが大事で。好きでかつ努力できることなら、それが得意になるまで応援したらいいんじゃないかな。ラクにできるから好きという感じなら、もっと好きなことを見つけなきゃならないと思いますが、そのへんはどうですか?
はづき:歴史について質問すると、得意げに説明してくれます。歴史漫画や本も読み漁っていますね。
小村:素晴らしいじゃないですか。将来は歴史学者か歴史の先生かな。好きなことがあることは、大きな可能性を持っていますね。
好きなことをきっかけに、ほかの教科にも学びを広げて、やる気を伸ばしてあげましょう
小村:息子さんは、なぜ歴史が好きなんですか?
はづき:戦国時代が好きみたいです。
小村:戦国時代も、視点を変えれば大名の覇権争いは政治を学ぶ題材になるし、歴史漫画を読んで登場人物の心理や物語を理解することは、国語にも役立ちます。
はづき:確かに!
小村:覇権争いにワクワクするなら、中国の三国志をすすめてみてもいいかもしれません。漢文にふれるきっかけにもなります。こんなふうに、歴史を学びながらほかの教科も学べると思うんですね。
はづき:歴史を起点にするだけで、ずいぶん広がりますね!
小村:歴史漫画が原作の大ヒット映画もありますが、漫画や映画は歴史上の事実とどこが違うのか、なぜ変えたのかを考えると、すごく高度な国語の学習になります。高校生なら論文にまとめると大学進学へのチャンスにつながったりしますよ。今、大学の受験制度も変わりつつあるので。
はづき:そうやって得意なところから広げるんですね。
小村:はい。国は新しい学習指導要領で「探求的な学び」を重視しています。そこではどんなテーマを探求するかではなく、「テーマをどう掘り下げるか」が大事なんですね。漫画だからダメではなく、漫画をどう読み解いて分析するかなんです。
親におすすめしたいのは、会話をとおして子どもが好きなテーマを掘り下げるヒントを見つけること
編集部:その方法って、ほかのテーマでも応用できますか。
小村:もちろん!スポーツやダンス、お菓子作りなどでも同じように広げられますよ。ですから親は、テーマが何かより、どう深めるかを子どもに問うたほうがいいですね。いろんな掘り下げ方がありますし、ほかの分野にも応用できますから。
編集部:掘り下げ方がポイントですね。
小村:テーマを掘り下げるときは、それが好きな理由を尋ねるといいと思います。どの部分をどう掘り下げるかのヒントが見つかります。例えばお菓子なら、甘いものが好きなのか、お菓子を囲んで楽しくおしゃべりする時間が好きなのか。好きな理由は人によっていろいろですから。
はづき・編集部:なるほど。
小村:本人も好きな理由を自覚していないことがあるので、「だから歴史が好きなのね」とフィードバックするといいと思います。
はづき:「ほかの教科もがんばれ!」っていう意味で、歴史の話を聞いたり質問したりしたけどうまくいかなくて。でも、好きなことからつなげればいいんですね。
小村:はい。好きなことや上達したいものがあるって素敵ですよね。部活の野球も、専門書を読んだりネットで調べたりしてフォームを研究してみたり、プロの技法はどうなのかを学んでみる。上達したくなるほど好きな分野があって、プロの視点を取り入れてみると「好き」からもう一段深まるし、よりおもしろくなるんだと思います。
はづき:そうですね。
小村:だけど、それもあまりあせらないことがポイントで。あからさまだと「やらせようとしてるな」と警戒されますから(笑)。
はづき:サラッとですね。
小村:漫画でも映画でも、興味の幅が広がりそうなものを買ってあげてもいいですし、親子でいっしょに楽しんでもよいのではないでしょうか。好きなことをきっかけに世界を広げて、やる気を伸ばしてあげましょう。
平均点を上げることにとらわれず、好きなことや得意なことから学びを広げ深めようという、小村さんのアドバイス。時代や社会の変化とともに、勉強のしかたやゴール設定もアップデートすることが必要なんですね。次回は勉強に加えてゲームにまつわる悩みも伺います。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部