捨てられる野菜、無駄になる努力をなんとかしたい!「続けられる農業」を応援したくて会社をはじめました
2024/09/16
農園が生み出す豊かな環境や、出荷できない不揃い野菜も、全部まるごと「宝」。食や農を通して自然とのつながりを考えてもらいたい、続けられる農業を応援したいと事業を立ち上げた西村千恵さんにお話を伺いました。
<教えてくれた人>: ファームキャニング合同会社代表 西村千恵
東京生まれ、神奈川県在住、3児の母。オーガニックカフェの運営を経て、2016年、ファームキャニングを設立。著...
- 捨てられる野菜、無駄になる努力…そんな理不尽をなんとかしたい
- そこにあるものは全部「宝」。そう考えて事業をはじめた
- 流れを変えたいからまずは身近な一人の力になる
- 西村さんが取り組んだ「食」からの課題解決
捨てられる野菜、無駄になる努力…そんな理不尽をなんとかしたい
「2週間でこんなにのびちゃって!」と、腰の高さまである雑草をかきわけて、畑の中をぐんぐん歩く西村さん。奥まで入ると草ぼうぼうの合い間から、小さなぶどうの樹が蔓を伸ばしています。「無農薬でも、あらゆる土地でも丈夫に育つ、奇跡のぶどうなんですよ」。農薬を使わずに栽培する農家の苦労を見てきたから、この品種にも、また新しい希望を感じているそう。
西村さんの転機は30代のときに訪れました。当時、東京のオーガニックカフェの運営に立ち上げから携わり、仕事中心の多忙な日々を送っていました。深夜のタクシー帰りも多く、家族と過ごす時間は削られていく。2人目を妊娠したとき「もっと家族と向き合う暮らしがしたい」と、神奈川県の三浦半島に移り住んだのです。そこで無農薬栽培を実践する農園を手伝うようになり、さまざまな課題を知ることになりました。
「手間暇をかけてようやく育った野菜なのに、色や形が不揃いだと出荷できずに廃棄になってしまう。自然に育った野菜なら、違いがあって当たり前なのに」。無農薬や有機栽培に取り組んでいる生産者さんの苦労を目の当たりにして、西村さんはその状況をどうにかしたいと考えたそう。
そこにあるものは全部「宝」。そう考えて事業をはじめた
そしてどうにかしたい思いで事業を考え始めました。基本にあったのは、新しく何かを持ってくるのではなく「そこにある宝を活用しよう」ということ。農園が生み出す豊かな環境も、出荷できない不揃い野菜も、全部まるごと自然が与えてくれる「宝」と考えたのです。
かつての自分のような、都会で暮らすあまり時間のない人にも、食や農を通して自然とのつながりを感じてもらえる内容にしたい。考えたのは、土に触れることで農業を自分ごとに思えるような体験スクール、不揃い野菜を使ったびん詰めの販売、不揃い野菜のような「もったいない」を知るきっかけのためのケータリングです。3つの事業を柱に会社を立ち上げて、今年で8年目になります。
流れを変えたいからまずは身近な一人の力になる
「日本の有機農業の耕作面積は全体の1%にも満たないんですよ」と、西村さん。道のりは遠く思えるけれど、取り組む人がふえたらいいと言います。そのためにまずは、身近な地域の農家さんを応援しています。
「身の周りで1人増えたら、そのうち10人に増えて、100人に増えて……そのために、少しでも生産現場に還元できる形を探しているんです。経済的に立ちゆけば、やってみようという人がさらに増えて、1%が10%に広がる可能性だってあります」。
そして考えるのは、多様な生物が持続可能な状態でいられること。「まさか自分が農業に関わるとは思ってもみなかったけれど。雑草が土を肥よくにするとか、できるだけ多品種を植えた方が虫や病気に強くなるとか……。農業から自然の摂理を知れば知るほど、個ではなく、環境全体で生かされていることを教えられます。人間も自然界の生態系の一部。そう実感できる人生を送ることが、私の目標です」。
西村さんが取り組んだ「食」からの課題解決
農家さんの収入を支えるために、農業の課題を広く共有していくために、時間をかけて3つの事業プランを考えました。
1 消費じゃなくて、「生み出す」体験
その時だけで終わってしまう一過性の農業体験ではなくて、継続的に仲間と一緒に栽培をしたり料理をしたりすることで、「生み出す」楽しさを分かち合えるようなコミュニティを運営しています。
2 ラクして手軽に食卓を彩るびん詰め
不揃い野菜を農家さんから買い取ってびん詰め加工して販売。常備しておくと、それを使って短時間で簡単なお料理ができるような味付けに工夫しました。
3 もったいないケータリング
不揃いや余剰野菜を使った料理のケータリング。企業からの注文を中心に受けています。おいしい料理とともに、生産現場や食の背景についても伝えます。
参照:『サンキュ!』2024年10月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2024年8月現在のものです。撮影/砂原文 取材/石川理恵 編集/サンキュ!編集部