くしゃみで尿漏れ…?出産後や更年期に増える“尿トラブル” !原因と改善のヒントを医師が解説

2025/11/02

「最近トイレが近い」「くしゃみをしたら漏れた」…そんな経験はありませんか?じつは多くの人が悩む尿トラブル。原因を知れば、改善のヒントが見えてきます。

今回は頻尿や尿漏れについて、泌尿器科専門医でなかざわ腎泌尿器科クリニック院長の中澤佑介氏に詳しいお話を聞きました。

子育て・心理分野を得意とするチャイルドコーチングアドバイザー、LABプロファイル(R)プラクティショナー。子...

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Q. 頻尿・尿漏れとはどのようなものですか

頻尿は、排尿が多くなる時間帯によって「昼間頻尿」と「夜間頻尿」に分けられます。それぞれの定義は以下です。

・昼間頻尿:昼間の排尿回数が8回以上ある状態
・夜間頻尿:夜間に尿のために1回以上起きなければならない状態

尿漏れは、医学的には尿失禁と言い、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態を指します。

Q. 頻尿や尿漏れの原因にはどのようなものがありますか

頻尿や尿漏れの原因や起こり方には、いくつかのタイプがあります。主な種類と特徴は次の通りです。

・過活動膀胱(OAB:かかつどうぼうこう):
頻尿を引き起こす病気として「過活動膀胱(OAB)」があります。尿意切迫感(急な我慢できないほどの尿意)が特徴で、昼間頻尿や夜間頻尿を伴います。尿漏れを伴う場合もあります。OABは尿路感染などが原因ではなく、膀胱をコントロールする神経や筋肉の働きが過敏になることで起こります。

・腹圧性尿失禁:
咳やくしゃみをする・笑う・運動するなどの動作で、腹圧(お腹に力)がかかった場合に漏れるタイプで、出産後~中高年以降の女性に多くみられます。骨盤底筋という、膀胱や子宮を支える筋肉の低下が原因です。

・切迫性尿失禁:
突然の強い尿意を感じて、トイレに間に合わずに漏れてしまうタイプです。OABの一部としてみられ、加齢・神経疾患・糖尿病などが原因になることがあります。

・混合性尿失禁:
腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の両方の特徴を持ち合わせるタイプです。

・持続性尿失禁:
常に尿が漏れ続ける失禁です。膀胱や尿管の構造的な問題が原因で起こります。具体例として、膀胱瘻(ぼうこうろう:膀胱に異常な穴や通り道ができて、尿が本来と違う場所に漏れ出してしまう状態)や、尿管異所開口(にょうかんいしょかいこう:尿の出口が本来の膀胱ではなく、別の場所についてしまっている状態)などが挙げられます。

・男性の前立腺肥大に伴う尿トラブル:
前立腺の肥大で膀胱が圧迫されることで起こる頻尿・夜間頻尿・切迫感などの畜尿症状(膀胱に尿を溜めておく機能に関するトラブル)です。中高年男性に多く見られます。

・糖尿病に関連するもの:
糖尿病では、高血糖による浸透圧利尿(多尿)や、神経障害・膀胱の筋肉の異常が起こりやすくなります。その結果OABや排尿障害を伴い、尿漏れにつながるケースがあります。

・感染によるもの:
尿路感染(膀胱炎など)でも尿漏れや頻尿が一時的に起こることがあります。この場合、抗菌薬治療で改善します。

・薬や生活習慣によるもの:
利尿薬の使用、カフェインやアルコールの過剰摂取、便秘などが原因でも起こり得ます。これらは薬の調整や生活習慣の見直しで改善が期待できます。

・その他の原因:
骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ:骨盤内の臓器が下がる病気)や手術・放射線治療の影響など、体の構造や神経の変化が関係する場合もあります。

Q. 頻尿や尿漏れで病院を受診する目安はありますか

出典:写真AC

次のような症状がある場合は、早めの医療機関の受診を推奨します。(泌尿器科や女性であれば産科・婦人科など)

・ 痛み、血尿、発熱を伴う:
感染・結石・腫瘍などの可能性があります。病院で原因を判断してもらう必要があります。

・夜間に2回以上トイレに起きる:
放置すると睡眠障害や転倒リスクが高くなります。

・急な頻尿や多尿に加えて、口の渇き・体重減少がある:
糖尿病による高血糖のサインの場合があります。

・男性の排尿困難・残尿感の悪化・尿路感染を繰り返す:
前立腺肥大などの病気を疑います。

ほかにも、

・産後や骨盤の手術後に尿漏れが続く
・骨盤臓器脱が疑われる
・夜間頻尿が睡眠時無呼吸症候群により起こっている

などの場合には、専門の医療機関を受診しましょう。

なお、受診前に以下の3つを用意し、病院に持参すると診察・診断に役立ちます

・3日間の排尿日誌:時刻・量・切迫感・失禁の有無を記録したもの
・内服薬リスト:処方薬に加え、市販薬・サプリを含む
・既往歴:産科歴、骨盤手術歴、神経疾患、前立腺疾患など

Q.尿漏れや頻尿が気になるとき、市販の尿パッドを使用してもいいですか

市販の尿パッド類は、尿漏れや頻尿の根本的な原因を治療するものではありません。一時的な対策にはなっても、継続的な利用には慎重になりましょう。

長時間使い続けることで失禁関連皮膚炎(IAD:尿や便が長時間皮膚に触れることで起こる炎症)や、IADによって傷ついた皮膚に細菌などが入り込んで、二次感染を起こすリスクが上昇します。

尿パッドを使用して汚れた際は、「やさしい洗浄→保湿→皮膚を保護する」の3ステップで皮膚をケアすることが大切です。やさしく洗浄したあと、保湿を行い、保護クリームなどで皮膚を守りましょう。

また、尿パッドが汚れていない場合でも、こまめな交換や通気をこころがけてください。

いずれにせよ、頻尿や尿漏れの症状が持続する・悪化する場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。

Q. 頻尿や尿漏れは治療することができますか

多くの場合は改善可能で、原因に応じて段階的に治療することが可能です。 具体的な治療は以下の通りです。

・行動療法・生活習慣の改善:
排尿日誌の記録、膀胱訓練(トイレの間隔を延ばすトレーニング)、夜間の飲水の調整、刺激物(カフェイン・アルコール)の管理、便秘対策、体重管理、禁煙など

・骨盤底筋訓練(PFMT):
骨盤底筋を鍛えるトレーニング。咳やくしゃみで尿が漏れるケースでの第一選択肢となります。症状改善や治癒への高い効果が証明されています。

・薬物療法:
OABでは、抗コリン薬、β3作動薬(ミラベグロン等)といった薬の使用が推奨されます。薬は、患者さんの年齢・性別・持病・体の状態といった特性と、副作用を考慮して選択します。

薬の効き目が不十分なケースでは、ボツリヌス毒素膀胱壁注入(※1)、後脛骨神経刺激(PTNS)(※2)などを検討します。

・男性の排尿トラブルへの治療:
男性の排尿トラブル・前立腺肥大(LUTS/BPH)が原因の場合、α遮断薬(前立腺や尿道の圧迫をやわらげる薬)や、5α還元酵素阻害薬(前立腺のサイズを縮小させる薬)を使用します。これらを併用療法として組み合わせることもあります。

十分な効果が見られない場合は、必要に応じ低侵襲治療(内視鏡やレーザーなど体への負担が少ない治療)から、前立腺の摘出を伴う手術まで広い選択肢から選びます。

・糖尿病関連:
糖尿病による高血糖が原因の場合は、食事・運動・薬物などで血糖コントロールを行い、浸透圧利尿(※3)を改善します。

・その他:
睡眠時無呼吸症候群の場合は持続的陽圧呼吸療法(CPAP)、神経因性が疑われる場合はウロダイナミクス(※4)等で膀胱の動きを詳しく調べて、症状にあった治療法を選択します。

国際的な泌尿器科の診療ガイドラインでは、
・行動療法(生活習慣の改善)
・薬物療法
・低侵襲治療・外科治療
の順で、患者さんの希望や状態に合わせて治療を選んでいくことが推奨されています。個別の診断・治療は担当医の判断に従いましょう。

Q. 頻尿・尿漏れを予防・改善するためにできるセルフケアはありますか

医療機関で重大な病気がないことを確認したうえで、以下のセルフケアができます。

・骨盤底筋訓練(PFMT):
骨盤底筋を鍛えるトレーニング。理学療法士などから正しい力の入れ方を学び、毎日継続することで効果を発揮します。とくに腹圧性尿失禁で高い改善効果が確認されています。

・膀胱訓練:
腹圧をかけない呼吸法や骨盤底短縮収縮(※5)など、切迫感が強い尿意への抑制テクニックを習得し、排尿間隔を段階的に延長します。効果はあるとされますが、科学的な確実性は低いとされています。

・生活調整:
夕方以降の過剰飲水を避ける、就寝前2〜3時間の飲水を減らす、カフェイン・アルコールの摂取量を見直す、便秘対策・体重管理・禁煙など、生活習慣の見直しで骨盤底への負荷を軽減します。

・皮膚のケア(尿パッド使用時):
尿パッドを使う場合は、「やさしい洗浄→保湿→皮膚を保護する」の3ステップで皮膚のケアを行います。発赤(はっせき:皮膚が赤くなっていること)やびらん(ただれ)があれば、病院を受診しましょう。

・糖尿病管理:
糖尿病による高血糖の場合、血糖コントロールで多尿・切迫感の悪化を防ぎます。

※1.ボツリヌス毒素膀胱壁注入:
膀胱の筋肉が過剰に収縮するのを防ぐために、ボツリヌス毒素の成分を膀胱の壁に注射して働きを落ち着かせる治療

※2.後脛骨神経刺激:PTNS:
足首の内側にある神経に弱い電気刺激を与え、膀胱の神経の働きを整える治療

※3.浸透圧利尿:
しんとうあつりにょう。血糖値が非常に高くなると、血液中の糖が増えて濃くなる。その濃度を下げようとして体が水分を尿として排出し、尿の量が増える現象のこと

※4.ウロダイナミクス:
尿流動態検査(にょうりゅうどうたいけんさ)。膀胱や尿道の働きを数値で測定し、排尿機能を数値的に調べる検査のこと

※5.骨盤底短縮収縮:こつばんていたんしゅくしゅうしゅく。骨盤底筋を締める・引き上げるように力を入れること。女性では尿を途中で止めるような感覚、膣を締めるような感覚

教えてくれたのは・・・

中澤 佑介(なかざわ ゆうすけ)院長

「患者さんに近い立場で専門的医療を提供したい」という思いで2021年、石川県野々市市になかざわ腎泌尿器科クリニックを開設。2024年9月、JR金沢駅前に金沢駅前内科・糖尿病クリニックを開院。

取材/文:山名美穂
編集:サンキュ!編集部

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