「いのちの大切さを伝えたい」看護師を退職し「生」教育アドバイザーの道へ…山田亜弥さんインタビュー

2025/02/21

いまだどこかタブー視されている感がある、日本の性教育の現状。しかし、性について正しく知ることは、自分や相手を大切にすることにも繋がります。今回インタビューしたのは、包括的性教育を広めるため活動する山田亜弥さん。包括的性教育は性に関することだけでなく、人間関係やそれぞれが持つ権利など生きていくために大切なことを幅広く学ぶ教育です。看護師を退職して「生」教育アドバイザーに転身した山田さんの、活動に対する熱い想いに迫ります。

サンキュ!STYLE 取材班メンバー。業務スーパー、コストコ、KALDI、3COINS、100円ショップなど...

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<山田亜弥さんプロフィール>
OHANAIRO主宰。「生」教育アドバイザーとして園児や小・中学生向けに、性教育やいのちの大切さを伝える出前授業を行っている。また、最近では教育現場で働く職員向けに研修や講演を行い、注目を集めている。Instagramは@ohanairo_aya。

夫の転勤をきっかけに看護師を退職…専業主婦を経て再び看護師の仕事に戻ったわけ

元々看護師だった山田さんですが、夫の転勤が決まり退職。その後長女の妊娠がわかり、専業主婦となりました。

妊娠中に何か子育てに関することを学びたいと思った時にベビーマッサージと出会い、ベビーマッサージセラピストの資格を取得。時々講師としてベビーマッサージを教えていましたが、ワンオペで子育てする中で本格的な仕事復帰は難しいと感じていました。

しかし、コロナ禍をきっかけに状況は変わります。

「医療従事者が疲弊する姿をニュースで観た時に、自分も看護師の国家資格がありながら社会に貢献できていないもどかしさを感じていたんです」

その頃小学1年生だった娘さんが自ら「児童館に行ってもいいよ」と言ってくれたことも後押しとなり、まずはパートから看護師に復帰することを決意。そこで山田さんが勤務先に選んだのが、レディースクリニックでした。

レディースクリニックに勤務する中で直面した、日本の性教育の遅れ

レディースクリニックで働きはじめた山田さん。日本の性教育について考えさせられる出来事がありました。

生理の調整の為にピルをもらいに受診した10代の女の子。診察の中で、彼女が妊娠していることが判明しました。本人も、その場にいた家族も驚きを隠せない様子でした。

「この子が悪いわけじゃないんだよなぁってすごく思ったんですよね。やっぱり性教育がタブー視されているから、避妊のこともきちんと学ばない。もしかしたらこの子は妊娠に気づいていたかもしれないけれど、周りに言えなかったのかなとか…色々思うところがあり、日本の性教育の実態ってどうなっているんだと思いました」

また、日々患者さんに生理やホルモンの説明をする中で、多くの女性が自分のからだについて十分に知らない事実にショックを受けたそう。

生理や妊娠・出産、更年期など、女性のからだには様々な変化が起こります。しかし、まだまだ女性の不調に対して社会の理解は進んでいません。大変な思いをしながらも、仕事を休めない女性が多くいる現実に憤りを感じていました。

7年ぶりの妊娠で訪れた転機…産後3カ月で起業を決意

レディースクリニックで3年ほど働いた頃、三女の妊娠がわかりました。7年振りの妊娠を経験し、お腹の子に「これからは好きなように生きなさい」と言われているように感じたそう。

自分のやりたいことが何かを考えた時、包括的性教育を伝えていくには起業という形がよいのではないかと思った山田さん。税務署のすぐ近くに住んでいたこともあり、ビジネスに関して全くの無知の状態にもかかわらず、半ば勢いのような形で開業届を提出。この時三女は生後3カ月でした。

「開業日を忘れないようにするために、自分の誕生日がいいなと思って。それがちょうど生後3カ月の時でした。これからだんだんと動き回ることを考えて、ねんね期のうちがいいなと思ったんですよね」

そんな行動力のある山田さんですが、起業して半年たった頃自分のやり方に限界を感じるように。

「起業したのはいいけれど、ふたを開けてみたら何もわからなかったんですよ。趣味起業みたいになっちゃって…集客の仕方や自分の魅せ方もわからなくて」

そこで転機になったのが、知人の勧めで出場したスピーチコンテストでした。山田さんの思いに賛同した企業の後押しもあり、これからも仕事を続けていくために改めてビジネスについて学ぶことを決意しました。

起業して大変だと感じたのが、時間のなさとやることの多さ。山田さんに待っていたのは、SNSで見たキラキラしたママ起業家たちのイメージとかけ離れた現実でした。

「何から何まで自分でやらなきゃいけないし、24時間ずっと仕事をしようと思えばできる。家にいるから確かに子どもにおかえりは言えるけど、ごはんをつくる時間もないし家の中は散らかり放題。パートに行けばお金がもらえることは恵まれていたんだなと、改めて気づかされました」

時間がないからこそ優先順位をつけ、やらなくてもいいことを手放すことが大切。また、家族の協力も不可欠です。

山田さんが仕事と家事・育児の両立で意識しているのは、時間をどうつくっていくか。朝4時に起きて6時までは仕事をする、常に片耳にイヤホンをつけてインプットをするなど1分1秒でも無駄にしないよう心がけているといいます。

“なんでも話してくれる”関係は、親が決めることじゃない。まずは、安心できる環境をつくることが大切

3人の女の子のお母さんである山田さん。Instagramでは小学5年生の娘さんと、セックスや生理など性に関する話をしている動画がアップされ話題になっています。恥ずかしがる様子もなく、淡々と話す姿が印象的です。

実は山田さんの夫は、産婦人科の医師。それもあって、山田家では日常的に生理や女性のからだについての会話が飛び交います。「特に長女は私が性教育を学び始めた時に、絵本などを一緒に読んでいたので、勝手に知識をインプットしていた部分もあります」まさに、性にオープンな家庭で育ったサラブレッドというわけですね。

子どもと性の話ができるようになれば、正しい知識を伝えることができます。その結果、子どもが自分や相手を大切にできるようになるということにも繋がります。では、どうしたら子どもとなんでも話せるような関係性がつくれるのでしょうか。

「なんでも話してほしいって、親が決めるのではなくて子どもが決めることなんですよね。親をどれだけ信頼しているかとか、どれだけこの話をしても否定されない安心した環境なのかが大切。それがない場合、いくら親が話してねと言っても話してくれるわけがないんです」

子どもと心から向き合うためには、いいお母さんでありすぎないことも大切。山田さん自身子どもに対して怒ったり泣いたりもするそうですが、感情をあるがまま出して子どもと対等な関係でいることを心がけているといいます。

タブー感を払拭して、包括的性教育が当たり前な世の中を目指したい

学校現場や保育の分野でも、まだまだ包括的性教育という言葉は浸透していません。山田さんは、今はまだ種まきの時期だとして、今後も講演会や授業を通して包括的性教育について知ってもらいたいと話します。ゆくゆくは、性教育を伝える講師の育成もしていきたいのだそう。

授業で使う小道具を手づくりしている山田さん。今後は性教育の教材として、紙芝居やゲームなど、楽しく性教育を学べる教材がつくれたらいいなという夢を語ってくれました。

最後に性教育が今後どうなっていってほしいかを伺いました。「タブー感が強いなとどこに話していても思うので、そういうのが薄まればいいなっていうのと包括的性教育が当たり前に日常に行える社会になったらいいなと思っています」

包括的性教育の考え方が浸透し、1人1人が自分自身や誰かを大切にできる…そんな未来を目指して、これからも山田さんの挑戦は続きます。

執筆者…サンキュ!STYLE 取材班 むらせ
年中と年長の年子姉弟の母。家事・育児とのバランスに悩みながらもフリーライターとして奮闘中。サンキュ!STYLEにて暮らしをラクにする商品に関する記事を執筆中。

 
 

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