「十分」と「充分」の違いは何?意味と使い分け方法、例文を徹底解説!
2022/06/15
「じゅうぶん」は、「満ち足りて不足がないこと」や「いっぱいであること」を表す言葉です。「じゅうぶん」は「十分」と「充分」、どちらの漢字でも表現をされることがありますが、明確な使い分け方はありません。多くの方は、自分なりにニュアンスの違いを解釈して、使い分けているようです。
実はどちらの漢字も同じ意味で使われますが、一般的に用いられるのは「十分」のほうです。
そこで、「十分」と「充分」の違いや意味、なぜ使い分けることがあるのかについて例文を踏まえて解説します。
十分と充分の意味と違い
文章を書くときにどちらを使ったらよいのか迷いがちな「十分」と「充分」。2つの言葉の意味や違いについて解説します。
十分と充分の意味
「十分」と「充分」は、どちらも「物事がたっぷりあって、足りないところがない様子」を表す言葉です。物事だけでなく、気持ちや気分が満ち足りているときにも、この2つの漢字を使えます。
つまり、基本的にはどちらの漢字を使っても間違いではありません。
十分と充分に違いはある?
同じ意味をもつ「十分」と「充分」。『広辞苑』で「充分」という言葉を引くと、「十分に同じ」と書かれています。
文化庁の国語審議会によると、本来は「十分」で「充分」はあて字とされています。また、漢字で書くなら「十分」のほうがよいが、最近ではかな書きする傾向にあるとのこと。
「十分」のほうが適している理由は、「十」は「充」よりも画数が少なく、しかも教育漢字だからです。
公的文書にはどちらを使う?
公的文書にはどちらの漢字が使われているのかを調べてみました。
公務員が職務上作成する公文書では、「十分」が使われています。これは文化庁の見解として、「公用文や『文部省刊行物表記の基準』などでは、かな書きを採り、『十分』と書くことを許容している」からです。
しかし、日本国憲法では「充分」が採用されています。第37条2項には、「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を『充分』に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」という文言があります。この一文だけですが、日本国憲法で用いられているのは「充分」です。
英語ではどのように表現する?
英語では「十分」「充分」ともに「enough」という言葉で表現します。たとえば、以下のように使います。
I have enough money to buy the car.
(私はその車を買うのに十分なお金を持っています。)
He doesn’t study enough to pass this test.
(彼はこのテストに合格するほど勉強していない。)
「じゅうぶん」の使い分けと気をつけるポイント
「じゅうぶん」にあてる漢字を使い分ける方法や、用いる際に気をつけたいポイントをご紹介します。
「十分」と「充分」に明確な使い分け方はない
まず、認識しておきたいのが、「十分」と「充分」に明確な使い分け方がないということです。複数の辞書を確認しても、「十分」と「充分」は同じ意味が掲載されています。
基本的には「十分」を使う
文化庁の国語審議会では、本来使うのは「十分」だと記しています。また、柏書房『活用自在同音同訓異字辞典』では、「充分」の説明に「『十分』を一般的に用いる」と書かれています。
このように、基本的には「十分」を使うのがおすすめです。
「充分」を使うのはどんなとき?
一般的には「十分」を使うものだと聞くと、どういったときに「充分」を使うのかが気になる方も多いはず。
人によって解釈が異なりますが、精神的に満ち足りている状態に対して「充分」を使うという方が多い傾向です。たとえば、「じゅうぶん楽しめた」というときは「充分」と書くのでしょう。ただし、「十分」と書いても間違いではないので、どちらの漢字をあてるのかについては、個人の感覚によるものだといえます。
小学館『日本国語大辞典』では、幸田露伴の『露団々』の一説を「充分」の例として挙げています。「滑稽の点に於いて充分笑ひ、真面目の点に於いて充分悦ばれんことを」
また、北杜夫の『羽蟻のいる丘』の一説「あと二十年は充分美しい」も、例として挙げられています。
このように、文学的な表現では「充分」が多用される傾向にあります。
「10分」との意味の混同に注意
「十分」を用いるときに気になるのが、「10分」という具体的な時間を表す言葉と混同しやすいことです。
たとえば、「十分加熱しましょう」という言葉は、「10分間加熱する」のか、「火が通るまでじっくり加熱する」のかがわかりにくいでしょう。「充分」を使うと、意味が通じやすくなります。
もし、「十分」を使う場合には、「十分に加熱しましょう」や「十分間加熱しましょう」などと表現を工夫することで、より伝わりやすくなるでしょう。
じゅうぶんを使った例文
「じゅうぶん」と一緒によく使われる言葉や例文をご紹介します。
じゅうぶん頑張っている
「あなたはじゅうぶん頑張っている」というとき、「十分頑張っている」とするのが一般的です。精神的な充足感を含めて「充分頑張っている」としても、問題はないでしょう。
じゅうぶん伝わる
「じゅうぶん伝わる表現」というときも、「十分伝わる」と書くのが一般的です。
じゅうぶん理解する
「じゅうぶん理解する」というときも、「十分理解する」と書くのが一般的です。これで「完全に理解する」という意味合いになります。
じゅうぶんかわいい
「あなたはそのままでじゅうぶんかわいい」というときは「十分かわいい」と書きます。ネット上をチェックしてみると、「充分かわいい」という表現を好んで使う方もいるようです。
じゅうぶん若い
「じゅうぶん若い」という言葉も「十分若い」と書くのが一般的。「充分若い」を用いる方もいます。
こんなときはどちらを使う?実際の使い方
実際に文章を書くときに「十分」と「充分」のどちらを使ったほうがよいのか迷うことがあるはずです。迷いやすい場面について解説します。
不十分?不充分?
「じゅうぶん」の反対語である「ふじゅうぶん」。こちらは「不十分」と「不充分」のどちらが正しいのでしょうか?
『広辞苑』を引くと、「不十分」には「十分でないこと」「足りない所のあること」と記載されていますが、「不充分」という言葉は辞書に出ていません。ただし、「不十分」には「不充分」とも載っています。
「十分」と「充分」と同様、「不十分」と「不充分」も明確な使い分けはなく、どちらを使ってもよいのでしょう。
睡眠時間について話すとき
睡眠時間について話したいときも、使い方に迷うかもしれません。「十分睡眠をとりました」というと、「満足できるほどたくさん睡眠をとれた」のか「10分間だけ眠った」のかがわかりにくいでしょう。
睡眠時間について話すときは、「十分に眠る」や「十分な睡眠」とすると、10分という時間のことを指していないことが明確になります。
「お気持ちだけでじゅうぶん」というとき
「お気持ちだけでじゅうぶん」というときは、「十分」を使うのが一般的ですが、「充分」を使っても構いません。
どちらを使うのが適切なのか迷うときは、「お気持ちだけちょうだいします」といった表現に言い換えるのも、解決策の1つでしょう。どちらも、配慮をやんわりと断るときに使う言葉です。
距離について話すとき
距離について説明するときも「十分」という漢字を使います。たとえば、ここ数年新型コロナウイルス感染予防のためによく耳にする「3密回避」。首相官邸の発行しているパンフレットには「他の人とは手を伸ばして届かない十分な距離を取りましょう」と書かれています。
まとめ
使い方に迷う「十分」と「充分」の意味や使い分け方法について解説しました。「満ち足りている」という意味の「じゅうぶん」は、基本的には「十分」という漢字が使われます。「充分」はあて字なので、公文書には使われません。
「十分」と「充分」は同じ意味なので、明確な使い分け方はなく、どちらを使っても間違いではありません。個人の解釈や「10分」と混同しないことを重視して「充分」を使うこともあります。
迷う場合もあるかもしれませんが、基本的には「十分」を使うということをしっかり覚えておきましょう。
参考サイト・参考書籍
角川書店『漢字用法辞典 漢字の用法 三訂版』武部良明184頁
柏書房『活用自在 同音同訓漢字辞典』215頁
小学館『日本国語大辞典 第二版⑥さこう~しゅんひ』1300頁