「乾燥注意報」は何に注意?意外なしくみを知って生活に役立てるワザを気象予報士が解説
2023/11/27
冬を中心とした時期に天気予報などでよく耳にする「乾燥注意報」。
空気が乾いているときに出されるのは間違いなさそうですが、よく考えてみると、なぜ空気が乾くからといってわざわざ気象庁から注意報が出されるのでしょうか。
今回は、気象予報士・防災士・野菜ソムリエとして活躍する植松愛実さんに、「乾燥注意報」の意外なしくみと活用法について教えてもらいます。
「乾燥注意報」は何に注意?
もともと気象庁が出す注意報や警報はすべて、特定の災害への注意喚起になっています。
たとえば大雨注意報や大雨警報なら土砂災害や浸水害、大雪注意報や大雪警報なら雪による家屋倒壊や交通障害に対する注意・警戒を呼びかけている、といった具合です。
ただ、雨や雪ならわかりやすいですが、乾燥となると直感的にわかりづらいですよね。じつは「乾燥注意報」は、火災に対する注意喚起なのです。
たしかにいわれてみると、肌の乾燥で直接命を落とすことは考えづらい一方で、火災で命や財産を失う事例は実際に毎年全国で起きているので、わざわざ気象庁から注意喚起が出されるのも納得です。
基準は湿度だけではない
湿度が低い状態だと火災が燃え広がりやすいので、「乾燥注意報」は当然ながら湿度が低いときに出されます。
ただ、基準はそれだけではありません。というのも、火災が延焼しやすいかどうかには、風も重要だからです。
そのため、「乾燥注意報」を出す判断には「湿度が〇%以下」という基準に加えて「風速が〇m以上」という基準も設定されている地域があります(すべての地域ではありません)。
また湿度や風速の基準値は地域ごとに違う数字が設定されていて、完全にオーダーメイドな注意報になっているのです。
雨が降っても乾燥注意報が解除されない!?
冬になると「乾燥注意報」が何日間も継続して発表され、なかなか解除されないことがよくあります。しかも、その途中で雨が降っていても解除されないことすらあるのです。
これはどういうことでしょうか。
少し複雑な話にはなりますが、じつは気象庁で基準としている湿度には2種類あります。ひとつは私たちに身近な「相対湿度」で、空気中に含むことができる水蒸気量に対して実際にどのくらいの割合で水蒸気が含まれているかの数字です。
もうひとつは「実効湿度」といって、「木材の燃えやすさ」を表す指標です。
計算式は複雑ですが、当日の「相対湿度」だけでなくそれより前の「相対湿度」も用いて計算されます。つまり、その日その瞬間の空気の状態ではなく、やや長いスパンでの空気の乾燥具合を表しているのです。
たしかに木材はすぐに乾いたり湿ったりすることはなく時間をかけて変化しますし、火災の危険性を考えるなら木材の燃えやすさは重要ですよね。
そのため、たとえ一時的に雨が降って「相対湿度」が回復しても、「実効湿度」が低いままだと乾燥注意報は解除されないのです。
災害のための注意報だけど…生活にも活用できる!
ここまで「乾燥注意報」と火災との関連を見てきましたが、「乾燥注意報」はもちろん火災予防以外にも活用できる注意報です。というのも、火災のおそれがあるような気象条件は、私たちが一般に「乾燥がきついなぁ」と感じる条件に近いためです。
筆者自身も、朝起きたときに空気がカラカラで喉が痛い!と感じるような日は、だいたい「乾燥注意報」が出ているという経験則があります。
そのため、「乾燥注意報」が出るような日や、連続して何日も「乾燥注意報」が出続けるような時期は、火の取り扱いに注意するだけでなく、いつも以上に喉や肌のケア、そして室内の加湿が必要。
また同時に感染症も流行しやすくなるので、体調管理も重要です。
もともとは災害への注意喚起のために創設された注意報。中身を知ることで最大限活用して、生活に役立てていきたいですね。
■執筆/植松愛実さん
気象予報士と出張料理人の両面で活動中。気象・防災に関するヒントのほか、野菜ソムリエ・食育インストラクターとしておいしい食材のおいしい食べ方を発信中。インスタグラムは@megumi_kitchen_and_atelier。
編集/サンキュ!編集部