【韓国ドラマ】チョン・ヘイン主演『D.P.-脱走兵追跡官-』脱走兵を追跡する「D.P.」の視点から軍隊の闇に迫った社会派ドラマを韓ドラマニアが徹底解説!

2024/11/07

韓国で社会現象を巻き起こしたドラマ『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』などで知られる俳優チョン・ヘイン。「国民の年下彼氏」と呼ばれ、現在30代半ばという年齢が信じられないほど、可愛らしく柔らかい雰囲気が印象的です。

そんなチョン・ヘインがスイートな笑顔を封印し、これまでのイメージを覆した作品が『D.P.-脱走兵追跡官-』。韓国の軍隊という閉ざされた世界を掘り下げた、衝撃の社会派ドラマです。

韓ドラマニアで韓ドラライターのJUMIJUMIさんに解説してもらいましょう!

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韓国留学を機に韓国の文化に魅了される。年間50作品以上の韓国ドラマを視聴し、またライターとして情報発信も積極...

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あらすじ:兵役制度により入隊した青年が、軍から脱走した兵士を追跡する部署に配属され…。

兵役制度により軍隊に入隊したばかりの二等兵アン・ジュノ(チョン・ヘイン)。軍の中では毎日の厳しい訓練に加え、先輩兵士によるパワハラや暴力が横行していました。

憲兵隊(軍事警察)になったジュノは、ボクシングの経験と優れた観察力を買われ、「D.P.(Deserter Pursuit=軍務離脱逮捕組)」に配属されます。軍隊から脱走した兵士を安全に捕まえ軍に戻すのがD.P.の任務です。

先輩D.P.パク・ソンウ(コ・ギョンピョ)と共に初めての任務に出たジュノ。しかしソンウは軍の外に出たのを良いことに、友人と酒を飲むなど遊んでばかりで任務に取り組もうともしません。そんな最中、事件が起きてしまい…。

ソンウがD.P.から外れ、ハン・ホヨル上等兵(ク・ギョファン)がジュノの新たな相棒に。

ジュノはホヨルと共に任務を遂行しながら、兵士たちが脱走した理由や、そこに隠された過酷な現実と直面することになります…。

知っておきたい!韓国の兵役制度についての基本知識!

韓国の成人男性は一定期間軍隊に所属し、国防に備え訓練を受ける義務があります。

K-POP男性アイドルや韓国俳優ファンの間では、「推しの兵役」は避けては通れない問題ですね。最近ではBTSもメンバー全員が入隊したことで話題になりました。

BTSのように世界的な活躍が認められる場合、満30歳まで入隊を遅らせられる特例がありますが、基本的には満20歳〜28歳の誕生日を迎えるまでに入隊しなければなりません。所属部隊によって服務期間は異なります。

服務期間は年々短縮されていますが、2023年現在、短くても約1年半。実際に入隊する男性にとっても、彼らの無事の除隊を待つ家族や周囲の人々にとっても、決して短い期間ではありません。

原作者はD.P.出身!実体験が活かされたフィクション作品!

本作はウェブ漫画『D.P. 犬の日』が原作。原作者でありドラマの脚本も手掛けたキム・ボトンはD.P.出身です。そのため、ストーリー全てが実話ではありませんが、原作者の実体験に基づいて描かれています。

本作の時代設定は2014年。この年、韓国では実際に軍隊内での暴行事件や銃乱射事件が発生し、社会に大きな衝撃を与えると共に、兵役制度や軍隊の在り方が問われることになりました。

本作ではこれらの事件をモチーフにしたようなストーリーも描かれています。

ちなみに、元々はあまり知られていなかったD.P.という存在ですが、本作によって注目されるようになりました。しかし軍務離脱件数の減少を理由に、2022年にD.P.は廃止され、現在では脱走兵が出た場合には軍幹部が捜査にあたっているそうです。

見どころ:チョン・ヘインの新境地!相棒を演じたク・ギョファンにも注目を!

見どころ1:ボロボロなチョン・ヘインがかっこいい!華麗なアクションも!

暴力を振るう父親に殴られないよう、ボクシングを習得していたジュノ。寡黙でほとんど笑顔も見せず、他を寄せ付けない雰囲気を持っています。真面目で規則に従順ですが、融通が効かない堅物とも言えるかもしれません。

D.P.になったジュノは、必死で逃走する脱走兵を追いかけて、とにかく走る!走る!走る!脱走兵と揉み合いになることも珍しくなく、そんな時にはボクシングで培った高い戦闘能力を発揮します。

こんなチョン・ヘイン、今まで見たことがありません!汗まみれになりながらひたすら走り、いつも傷だらけでボロボロ。しかしそんな無骨な感じが、たまらなく男らしい!「可愛い年下男子」のイメージを一掃したと思います!

初めての任務で取り返しのつかない失敗を経験して以降、D.P.としての大きな覚悟と責任を持つようになるジュノ。様々な事情を抱える脱走兵と向き合う中で、そこに隠された過酷な現実や軍隊という世界の不条理さを目の当たりにし、変化と成長を遂げていきます。

これまでのイメージを覆し、激しいアクションもこなしながら、ジュノの移り行く心理を丁寧に演じ切ったチョン・ヘインは、2022年百想芸術大賞(韓国映画・ドラマにおける最大級アワード)にて、最優秀演技賞男性部門にノミネートされました。

見どころ2:相棒ホヨルとのデコボココンビが最高!深まる絆に熱くなる!

一時的に部隊から離れていた上等兵ハン・ホヨルが復帰し、ジュノのパートナーに。D.P.の先輩としてジュノにノウハウを教えていきますが、真面目なのか、ふざけているのか…。掴みどころのない性格をしています。

D.P.担当官パク・ボムグ中士(キム・ソンギュン)に対してもサラッと悪口を言ったり、脱走兵の母親から遠慮なくお金を受け取ったりと、型にはまらないスタイルの持ち主。ジュノのイケメンぶりを脱走兵捜査に利用したり、堅物なジュノをおちょくって楽しんだりもしています。

本作は軍隊の中でのいじめや暴力など、重苦しいテーマを生々しく描いています。第1話だけを見ても、その「重さ」は充分に感じられることでしょう。

しかしホヨルという個性的で明るく軽快なキャラクターがいるおかげで、エンターテイメント性がグッと高まっています。重苦しいだけじゃない、笑ったり心休まるような要素を作り出してくれているのです。

またジュノとホヨルのデコボココンビが、任務を積み重ねながら互いを信頼し、絆を深めていく様子が胸を熱くさせます。「バディもの」としての見応えも抜群です!

ホヨルを演じたク・ギョファンは本作で、2022年百想芸術大賞のTV部門男性新人演技賞を受賞しています!

見どころ3:彼らはなぜ脱走したのか。一人一人のストーリーに胸が締め付けられる…。

軍隊のイメージは、やはり厳しい縦社会。上官や先輩の命令は絶対。逆らうことはできません。また社会とは大きく隔たれた閉鎖された世界です。「男らしさ」が求められるここでは、そうでない要素がほんの少しあるだけで、いじめの標的になりかねないのです。

彼らが命懸けで脱走した理由は何なのか、彼らをそこまで追い詰めたものは何なのか…。一人一人のストーリーがグサグサと胸に刺さり、とても軽い気持ちで見ることはできません。

そして彼らの事情を知りながらも逮捕しなければならないジュノやホヨルの葛藤、板挟みになる苦しい心境も、見ている私たちの胸にずっしりとのしかかります。

シーズン2も!ジュノとホヨルが再びタッグを組み、更なる困難に立ち向かう!

衝撃的すぎる終わり方をするシーズン1…。大きな事件を経て失意のどん底にあるジュノと、除隊が近づくホヨルが再びタッグを組むところからシーズン2は始まります。

さらに強まっていくデコボココンビの絆!そしてシーズン1では敵対していたD.P.担当官パク中士と、その上官イム・ジソプ大尉(ソン・ソック)の関係性にも変化が!?

様々な脱走兵との出会いから大きな覚悟を決めたジュノ。そんなジュノをそれぞれのやり方で守ろうとするホヨルや上官たちの姿に、胸が熱くなること間違いなしです!

筆者の感想:ここまで掘り下げて大丈夫!?と心配になるほどの衝撃作でした!

ジュノの先輩でいじめの主犯格であるファン・ジャンス兵長を演じたのは、『還魂』のシン・スンホ。ジュノを気に掛ける心優しい先輩兵チョ・ソクポンを、『ホテルデルーナ』などで知られるチョ・ヒョンチョルが演じています。

さらにシーズン2では、『愛の不時着』『スタートアップ:夢の扉』などに出演する個性派ユ・スビン、『ラケット少年団』『二十五、二十一』などで知られる次世代スターのチェ・ヒョヌクなどなど、豪華すぎるキャストが続々と出てくるのも本作の見どころの1つでした。

筆者は韓国留学当時、兵役を終えた韓国人男性など友人の間で「軍隊でいじめはあったか?」という話題になり、その中で「全くないとは言えない」「自分の部隊ではなかったけど…」という言葉を耳にしました。

本作は、日本人には馴染みのない軍隊でのいじめをセンセーショナルに描いています。「ここまで描いて大丈夫なの!?」と筆者は心配になるほど衝撃を受けました。軍隊の中の様子をこんなにも掘り下げた作品は見たことがありませんでした。
筆者は本作を見て「自分の息子をここに送り出すなんて無理!」と正直、思いました。実際に我が子を送り出す韓国の親御さんの気持ちになると言葉が出ません…。

しかし韓国の軍隊は、これまでのいじめ問題などを経て、組織の在り方が幾度となく問題視されてきました。服務期間の短縮化のほか、友人などと同時に入隊し同じ部隊に所属できる同伴入隊や、携帯電話の使用許可など、様々な改善も行われています。
本作は改めて、根強く残る軍隊におけるいじめや縦社会から生まれるパワハラに、一石を投じる形となりました。今後も継続的な改善がなされ、いじめなどに苦しむ人がいなくなることを願うばかりです。

しかし兵役というものは決してネガティブなことばかりではないようです。兵役を経験した韓国人男性からは、「一生の友人ができた」「自分に自信が持てるようになった」「無人島に置き去りにされても生き抜ける術を学んだ」など、肯定的な言葉もたくさん聞きました。
「この国の男に生まれたなら当たり前」という姿勢に、同世代の友人とは思えないほどの逞しさを感じたこと、今でも強く記憶に残っています。

そして韓国の軍隊に限ったことではなく、多くの人が集まる組織の中でいじめやパワハラが後を絶たないのは、日本においても深刻な社会問題です。改めて、自分の周囲に苦しんでいる人がいないか、自分が傍観者になってはいないか、考えたいものです。

■執筆/JUMIJUMIさん…韓国留学を機に韓国の文化に魅了される。年間50作品以上の韓国ドラマを視聴し、またライターとして情報発信も積極的に行う。ただ作品の内容を説明をするだけでなく、食や生活様式など文化面から掘り下げた解説を得意としている。インスタグラムはjumistyle99。

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