牧草地で遊んでいる父と母と娘

子どもにイライラ、怒鳴ってしまう…どうすればいい?「感情的にならない子育て」のヒント

2022/05/21

子どもが小さいうちは、育児の負担が大きくなりがち。限られた時間のなかで、仕事や家事、育児を毎日こなしていると、体調が悪かったり疲れがたまったりしたときに、いつもなら何でもないことが急に気になりだして、気づいたら子どもを怒鳴ったり叩いたりしてしまった…という経験は、子育てをしている親であれば誰にでもあるかと思います。

そういう状況に陥ってしまったとき、母親としてどのように対応していけばよいのでしょうか。今回は、子育てアドバイザーで、虐待防止のために多方面で活動をしている高祖常子(こうそ・ときこ)さんに、「感情的にならない子育て」についてお話を伺いました。
(取材・文/みらいハウス 野呂知子)

■高祖常子氏プロフィール
子育てアドバイザー。育児情報誌「miku」元編集長。NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事など多数。その他執筆活動や全国各地での講演活動、テレビコメンテーターなど、多方面で活躍中。3人の子どもの母。

虐待で毎年、数多くの子どもが命を落としている現状

――2018年3月に東京都目黒区で、2019年1月に千葉県野田市で、それぞれ虐待死事件が起きました。2つの事件は社会問題化し、連日ニュースでさかんに取り上げられました。ここ数年の傾向を見ても、虐待のニュースを見聞きする機会が増えている気がします。そのあたりはどのようにお考えですか?

高祖さん:2016年に、日本小児科学会が小児科医に調査したところ、15歳未満で年間350人が虐待死の可能性があることがわかったんです(※1)。350人ってとんでもない数ですよね。小児科の先生とお話をすると、どうもこれは虐待かもしれないと思うことがすごくあると。ただ、実際に虐待を受けていることを証明できなければ、「あそこのお医者さんから疑われた」と言われるので、なかなか報告を上げづらいとおっしゃっていたんですね。

厚生労働省が把握している数値では毎年7~80人の子どもたちが、虐待で命を落としています。あとは、0歳児の虐待死も多いんですけども…0日、つまり生まれたその日っていうのも結構あるんですね。虐待で命を落としたという報道が流れますが、それはごく一部に過ぎず、その裏にはニュースとして取り上げられない子どもたちもたくさんいると考えています。

※1 https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG08H05_Y6A400C1CR0000/

「体罰や虐待は考えられない」スウェーデン、一方日本は…

リビングルームに一人で座っている子供
takasuu/gettyimages

――高祖さんは虐待防止活動の一環として、スウェーデンを取材されたと伺いました。スウェーデン国民の、虐待に対する考え方や、現在の日本の状況などを教えてください。

高祖さん:スウェーデンは1979年に、世界で最初に体罰禁止を法律で採り入れた国です。そんなスウェーデンでも、1960年頃には9割以上の親が子どもを叩いていました。しかし、法律制定から30年以上経って、私が取材でスウェーデンを訪れたとき「体罰なんて、子どもを叩くなんて考えられません」「野蛮なことだよね?」などの言葉をいろんな人から聞きました。「叩く」「怒鳴る」っていうのは考えられないという文化が、しっかりと根づいていたんです。

一方日本の場合、2018年のセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの調査結果(※2)によると、「子どもを叩いたことがあります」という親が約7割いました。1960年頃のスウェーデンよりは少ない数値ですが、調査結果が出された翌月に目黒区で、2019年に千葉県野田市で虐待死事件が起きたことは周知の通りです。

こうした状況を何とかしなければいけないと政府が動いて、2020年4月からは改正児童虐待防止法(※3)が施行されました。今回の法律には、体罰禁止がはっきりと書かれていますが、親を追い詰めるものではなく、“いろんな手を借りながら社会全体で子どもを育ててほしい。そしてそれが当たり前になるように”というメッセージが込められています。」


※2 https://www.savechildren.or.jp/jpnem/jpn/pdf/php_report201802.pdf
※3 児童虐待防止法(じどうぎゃくたいぼうしほう)。正式名称を「児童虐待の防止等に関する法律」という。18歳未満の児童を対象に、虐待の防止・早期発見・通告義務および自立支援のための措置などを定めた法律で2000年に施行された。

暴力は、見聞きすることで多方面に悪影響を与えるもの

――怒鳴ったり叩いたりしてはいけない理由は、どういったところにあるのでしょうか。

高祖さん:例えば、ここにワイワイ大騒ぎしている大勢の子どもたちがいたとします。それで、静かになってほしくて声をかけると、指示に従う子たちと、大騒ぎをしている子たちに分かれます。そこでまだ大騒ぎをしている子どもたちに「ちょっと静かにしてね」って注意するとしましょう。聞かなければ「いい加減にしなさい」って声を荒げるでしょう。それでも止まらなければ、「何で聞かないの!」と言って手を上げる。

子どもの行動は止まりますよね。だけど止まったのは子どもが恐怖を感じたからであって、根本的な問題解決ができたわけではないんです。

手を上げるところを子どもに見せることで、「言葉で伝えて解決できなければ、暴力を使ってもよい」と教えてしまう危険があります。例えば、お母さんから「いい加減にしなさい」と叩かれている子が、「同級生の誰々はいつも言うことを聞かないから、殴ってしまおう」と行動してしまう可能性があるということです。

こういった悪影響が出るので、叩いたり怒鳴ったりするのを止めようと発信しています。

感情的になって、叱ったり怒鳴ったりしないために

お母さんに怒っているかわいい女の子
Hakase_/gettyimages

――日常生活のなかで、子どもについ声を荒げてしまい、反省することが多くて…そういうとき、どのように対応していけばいいのでしょうか。

高祖さん:「片づけなさい!」ってついつい語気を強めて言いたくなったり、思ってもいないことを言ってしまったりしますよね。でもこれは、ストレスからくる反応(怒りの爆発)です。自分のなかで怒りが大きくなれば、カーッとして叩いたり怒鳴ったりしてしまいそうになることがあるわけです。

まずはどんなときに自分自身がイライラしやすいか、客観的に見ることがすごく大事です。その後、自分で「ああ、こういうときにイライラするんだな」っていうところに気づいたのであれば、子どもへの接し方を工夫したり、変えていったりっていうことができると思います。すぐに変わることはむずかしいですが、心がけることでずいぶん子どもへの対応も変わってくるでしょう。

お子さんが「嫌だ!」って言ったとき、「そっか、嫌なのか…そういう気持ちなんだね」と一旦気持ちを受け止めるのも大切です。子どもも一人の人間なので、親とは違う気持ちを持っています。「でも、もうそろそろご飯食べる時間だよ、だから片づけてほしいな。どうしようか?」というふうに、子どもと相談して解決していきましょう。こうすることで、自分の主張を親からとても大事にされたと感じることができ、自己肯定感が育まれます。

あとは「あれやっちゃダメ、これやっちゃダメ」というよりも「きょうだいで遊んでくれていたから、ご飯つくれたよ」っていう感じで、普通のことでも「助かったよ、ありがとう」と伝えることで、いい行動が増えていきます。これを「肯定的注目」と言います。親の方もイライラが減っていくでしょう。

暴力ではなく、会話で問題解決する力を育む

――ここまでお話を伺っていると、体罰や虐待は、子どもときちんと向き合うことで抑えられるということですね。

高祖さん:叩かない、怒鳴らない、と決めることによって、関係性が変わってくるのではないかと思っています。そのためには、親子の気持ちのズレを、威圧や支配ではなくコミュニケーションで解決を図ることが大切です。コミュニケーションでの解決方法を学んだ子どもは、友達や先生との関係を広げていけるし、社会人になっても会社の同僚や上司との関係を上手に構築できるようになっていくでしょう。

取材を終えて

仕事が終わって帰宅すると、家事をこなしながら育児をして…と慌ただしく過ぎていく日々のなかで、子どもから「ママあれやって、これ聞いて」と言われたときにイライラするのは、ひどく疲れているときが多いと感じます。そういうときほど子どもにあたってしまっているな…と反省しました。

さらに突き詰めて考えたとき、「子どもは親の言うことを聞いて当たり前だ」という強い先入観のようなものもイライラの要因になっているのかもしれない、と気づきました。「自分が親で大人だから、子どもの話を聞かなくてもいい」とどこかで思っているのではないか、それは子どもを一人の人間として信頼していないのではないかと気づいたのです。

子どもと親は別の人間である――。このことを胸に刻み、コミュニケーションを重ねながら親子間や子どもに起きた問題を解決していこうと思いました。


◆取材・文/みらいハウス  野呂知子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。地域と産後の女性の働き方に関心があり、19年5月から参加。小学生の子どもがいる。

 
 

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