「子どものために離婚しない」は本当に正しいのか?離婚した&しなかった妻の“末路”
2024/01/19
離婚という大きな決断を前に、子どもの存在によって思いとどまる……というケースは少なくないでしょう。しかし、「子どものために離婚しない」という考えかたは本当に正しいことなのでしょうか?
恋人・夫婦仲相談所の所長である三松真由美さんに解説してもらいます。
大切なのは「それでも私、いま幸せ!」と言えること
20年以上にわたり、数千組にのぼる夫婦のお悩みをカウンセリングしておりますが「子どものために“離婚しない”は本当に正しいのか問題」に関しては一生答えの出ない、禅問答のようなむずかしいテーマだと感じています。
人は育った環境も性格も思考も……ひとつとして他人と完全一致することはありません。それは大人も子どもも同じこと。
子どものために離婚をあきらめた、あるいは子どもがいるのに離婚した。そのことの「良し悪し」は他人がジャッジはできるものではないと、筆者は考えます。「離婚しなくてよかった!」であろうが、「離婚して苦労した……」であろうが、その状態を「それでも私、いま幸せ!」と断言できるかどうかの気持ちの有り様だと考えています。
今回は、離婚と子どものテーマについて解説をしていきます。まずは、夫婦仲相談所に相談にいらした2つのケースをご紹介しましょう。
ケース1:恵子さん(仮名:35歳)、娘(12歳)と息子(10歳)
恵子さんの夫は定職につかず、育児も家事もしないダメ夫でした(なぜ、そんな夫と結婚したかは長くなるので省きます)。そのため、恵子さんは一家の大黒柱として昼に夜にと働き、子どもたちを育ててきました。しかし、夫はねぎらいの言葉すらかけず「おまえがやって当然」の態度を続けていました。
ある日、夫が大型連休の真っただ中に、人気テーマパークへ行きたいと言い出しました。「この時期に?計画もしてないのに?」と反対しても聞く耳を持たず、仕方なく家族で出かけることに。しかし、当然ながら大型連休の園内は大混雑でアトラクションにはなかなか乗れません。夫は自分が行きたいと無理強いしたのにも関わらず、あろうことかその状況に腹を立てて、文句を言い始めました。一方、子どもたちは長い待ち時間に疲れ果て、下の子は眠ってしまう事態に。けっきょくほとんど楽しめないまま帰ることになりました。
帰り道、恵子さんが娘の手を引き、荷物をもち、息子を抱えてクタクタでバスを待っているあいだ、夫は手伝うどころか「おまえの態度が悪い」となじり続けました。自分ファーストで家族愛のかけらもない夫に対して、怒りと悔しさが募った恵子さん。ついに堪忍袋の緒が切れ、翌日、子どもたちを連れて実家へ帰りました。
当時、子どもたちは8歳と6歳。離婚したい恵子さんと夫との話し合いは平行線をたどり、調停へともつれ込みます。ようやく協議離婚が成立したとき、子どもたちは10歳と8歳になっていました。
離婚後も恵子さんは子どもたちにそのことはとくに説明しませんでした。というのも、離婚したものの、元夫と子どもたちは会いたいときに会えたし、お祝い事や授業参観、運動会などはみんなで楽しんでいたため、最低限の家族関係は維持できていたからです。
そんな家族の形になってから2年、あるクリスマスの夜、子どもたちと3人でケーキを囲み、ほろ酔いになった恵子さんはふと「いま、子どもたちに離婚したことを話したらどうなるのだろう?」と思います。そしてついに打ち明けました。
「あのね、実はママ、パパと離婚してるんだ」
子どもたちは一瞬あっけにとられた表情をしたかと思うと次の瞬間、大爆笑しました。
「マジで!?いつ!?」
「じつは離婚していたとか、マジでウケるね」
と、大盛り上がり。離婚した時期や経緯などをひととおり説明し終えると
「離婚してよかったよ。新しい彼氏見つけてね!」
「離婚してもパパは俺たちのパパだし、ママはママだしね」
と、あっさり離婚を受け入れました。恵子さんは子どもたちの反応に驚くとともに「自分が思っているほど子どもたちは子どもではない」ということを実感。同時に子どもたちを頼もしく感じたそうです。
そして、これからは子どもたちを子ども扱いせず、対等に正直に接していこうと決心したと言います。
ケース2:道子さん(仮名53歳)、長女(28歳)、次女(25歳)、三女(18歳)の事例
道子さんは長年、夫のモラハラに悩んできました。6つ年上の夫とは学生時代に出会い、就職することなく結婚した道子さん。専業主婦をしながら、大学に入り直し、資格をとった頑張り屋さんです。
優しくて真面目な道子さんは夫が自分を無視したり、暴言を吐いたりしても「原因はすべて自分にある。自分がダメだから彼はああいった態度に出るのだ」とずっと思ってきました。しかし、子どもたちが大きくなるにつれ、「このままでいいのか?」と疑問を抱くようになってきました。
その理由のひとつは次女のことでした。次女と夫は相性が悪く、ことあるごとに衝突し、道子さんに「ママがパパを甘やかすから、ああいう態度にでるんだよ!」「パパとママみたいになりたくないから私は絶対結婚しない」などと言うようになったのです。
私のせいで子どもたちの未来をつぶしているんじゃないか……と道子さんは悩み始めます。しかし、道子さんの結論は「今は離婚するときではない。まずは夫婦で話し合おう」でした。そして二人で話し合いをもちましたが、その後も一向に夫の態度は変わらず、かえってモラハラが酷くなる有様。
やがて夫の定年が近づいてきました。定年を迎えれば、毎日夫が家にいる日々が始まる……そのことに耐えられなくなった道子さんは、ここでようやく娘たちに「離婚したい」と相談します。しかし、子どもたちの反応は分かれました。
長女は「なるべくなら離婚してほしくない」、次女は「大賛成」、三女は「絶対に離婚して欲しくない」と泣いたそうです。
長女と三女の意見を聞いて「離婚したら娘たちが悲しむ」と考えた道子さんは離婚を諦め、現在は夫と三女が住む家と、一人暮らしをしている次女の家を行ったり来たりしながら生活しています。周りのことばかり考えて決断できないでいる自分を「情けない」と感じながら……。
離婚しようがしまいが、「自分で決めた」人の表情は晴れやかで美しい
夫側に問題がある、という点では共通しているふたりですが、結末は対照的です。いずれにしても、行動を起こした先にある未来が明るいものになるのか、暗いものになるのかを決めるのは子どもでも夫でもなく、自分自身です。
自分が決めた自分の人生を生きている……と腹をくくれるのであれば、「子どもが反対するから離婚しない」「子どもが反対しても離婚する」といった選択の結末がどうなろうと、その人は幸せであると、筆者は思うのです。
冒頭でも述べたとおり、これまでに数多くのご夫婦の相談に乗り、その行く末を見てきました。離婚によって経済的な問題から質素な生活を強いられるようになった、世間体を気にする実家と距離ができた、子どもが転校をいやがった……など、さまざまな離婚のマイナス面も見てきました。しかし、どんな状況にあっても「自分が決めた!」と言い切る人たちの表情はとても晴れやかで美しいものです。
もしいま「子どものために離婚はしないほうがいいのか?」と迷っているなら、一度鏡の中の自分をじっくりと眺めてください。そこに映っている顔はあなたが好きなあなたの顔か?夫とのイライラする生活で疲弊していないか?疲弊していても子どものためならあと10年はがんばれる顔か?
幸せの定義はひとそれぞれ。子どもが幸せならすべてよしの人もいれば、「私の人生に憎しみしか与えない夫はいらない」と言う人もいます。でも、我慢することで自分らしさが失われて、不満を子どもにぶつけるようなるなら我慢は禁物。子どもは親の不仲を察知しますし、恵子さんのケースにもあったとおり「自分が思っているほど子どもたちは子どもではない」のです。
自分自身を自分で拘束して苦しめないようにしましょう。そして、「幸せ」と自信をもって言える状態をとことん考えてみてください。
ただし、子どもが成長したときに、落ち込んだ表情で「あなたのために離婚しなかったのよ」は厳禁です。そんなこと言われたら「え?私がおかあさんの自由をじゃましたの」と悲しくなりますから。
◆監修・執筆/三松 真由美
会員数1万3,000名を超えるコミュニティサイト「恋人・夫婦仲相談所」所長として、テレビ、ラジオ、新聞、Webなど多数のメディアに出演、執筆。夫婦仲の改善方法や、セックスレス問題などに関する情報を発信している。『堂々再婚』『モンスターワイフ』など著書多数。