お坊さん、物を捨てたら心はラクになれますか?
2018/12/04
物欲の強い人は、物を買うことで心が満たされていきます。しかし、部屋が物であふれかえると心は逆に疲弊するばかり。物を手放したら、心はラクになれるのか……。物も寺も手放した、元住職に話を伺いました。
<教えてくれた人>
空朴さん……月読寺(神奈川県)の元住職。今年9月、瞑想中に思い立ち、寺をたたみ放浪生活に入る。著書『考えない練習』(小学館文庫)など。
物が多くある空間で心静かに過ごすのは難しい
編集部員(以下、編):『サンキュ!』読者には、物を捨てられない人が多いんです。物を多く持つことは、よくないことでしょうか?
空朴:物には、「思念」が宿ります。作った人や売った人の思念が入っているうえに、物を買った「私」も、それを買うことで人に自慢したいと思うなど、いろんな念が入り込みます。つまり、家や、家にある物の多くには、知らぬ間に、たくさんの〝私〞が宿っているのです。
物が多くあるというのは、いわば「私が、私が」という自意識、強い念を発するものに、より多く囲まれている状態。そんなたくさんの念が存在する空間で、心静かに過ごすというのは、とてもむずかしいことなのです。
私も以前は、寺をつくるときに、「壁は真っ白な漆喰にしよう」「窓枠は素敵な赤いペンキを塗ろう」などと考えましたが、今思えばそこには、〝人から見て洗練された空間をつくろう〞という自らの美意識を誇示したい気持ちが、無意識にあったと思います。寺には、私の〝思念〞がこもりすぎていたのです。
思念がこもった物に囲まれ、自分は物や土地に執着しているのだな……と感じたので、傘と寝袋、身の回りの物を入れた風呂敷包みだけ持ち、寺を出ました。
物が多いと悩みも増える
編:そんなに物を減らしてしまって、不安は感じないのですか?
空朴:まったく感じません。私もかつてはたくさんの物を持っていましたし、こだわりもありました。洋服も、デザインのよいものを欲しいと考えていました。でも物が多いと、それだけ物についてあれこれ考えたり悩んだりすることになります。
例えば服をたくさん持っていると「どうしまおう」とか「どれを着ようか迷う」という悩みが増え、時間も費やされる。また、選ぶときには、人にセンスがいいと思われたいなどの自意識が入ります。これは、「人からよく見られたい」という承認欲に従属し、心が苦しくなる原因になります。たくさん持つということは、一見選択するという自由を与えられているようで、実は物にしばられ、振り回されて、身動きが取れなくなっているのです。それでは、心穏やかに暮らすことはできません。
編:物を手放すとどんな気持ちになれるのでしょう?
空朴:「私は、物がなくても平気だったんだ」という、解放感で満たされます。この気持ちは、実際に手放して初めて得られるものです。そこでようやく、物にしばられていたことに気づけましょう。物を多く持ちたがる人は、心に欠落感を持っている場合が多い。物というのは、そこにあるだけで意識がそこに向きますから、多ければ多いだけ、心そのものに目を向けなくてすみます。
物が少なくなると、自分の心に向き合わざるを得なくなる。向き合うことが怖いから、物に依存して、物を捨てられないという側面もあるかもしれません。1つずつ手放していけば、心を物以外のことで満たすことができるようになります。
編:捨てるのは「もったいない」「エコじゃない」と考えて、手放すことを迷う人もいますが……。
空朴:人は、労力を投入すると、そこにしがみつく傾向があります。「せっかくお金を払ったのだから、捨てるなんてできない」と、感じてしまうのですね。つまり、実は買ったときの自分を否定することが嫌で、捨てられないのです。「もったいない」というのは、「自分は正しかった」ということにしがみついている、煩悩の1つだと気づいてください。捨てることで、〝過去の自分の正しさ〞にこだわる気持ちを乗り越えることができます。
捨てなければと考えることも煩悩
編:やはり、私たちは物をもっと捨てるべきなんですよね。
空朴:その〝べき〞や〝みんなやっている〞という言葉自体が、もはや、「捨てることが正しい」と思い込む煩悩なのです。「物を潔く捨てる自分は素敵だ」「私は、流行の〝物を持たない暮らし〞ができている」……などの自意識が入ることで、物を捨てること自体に執着している状態とも言えます。
編:では、私たちはどのように物を捨てていけばよいのでしょう?
空朴:やみくもに「捨てるべき」と義務感に駆られることはありません。のんびりと、不要なものから、少しずつ手放してみるとよいでしょう。捨てるときは自分を責めたりせず、「あのときはそうだったね」と静かに自分を眺めればいい。
物に貼られている〝私が選んだ〞〝私が△△だったころに買った〞……そんな何重にも貼られた思念の〝シール〞を1枚ずつはがし、ただの〝物〞に戻してやる。〝私〞という執着をそぎ落とした物だけになった家は、きっと心穏やかに過ごせると思うのです。
お坊さんならではのお言葉をたくさん聞くことができました。皆さんも「捨てなければ」と無理して捨てることはせず、少しずつ不要なものを手放していくようにしましょう。
参照:『サンキュ!』12月号「スッキリ捨てて、イライラしない暮らしになる!」より。掲載している情報は18年10月現在のものです。撮影/林ひろし 構成/出下真紀 取材・文/福山雅美 編集/サンキュ!編集部
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