「ベーキングパウダー」がないときはコレで代用!代用食材と使用する際の注意点を管理栄養士が解説
2022/07/19
レシピをチェックしていざ料理をつくろうとしたところ、必要な材料が切れていた……なんてこと、誰しも一度は経験があるでしょう。でもその材料、もしかしたら代用できるかもしれません!
今回ご紹介するのは「ベーキングパウダー」の代用アイデア。
ふっくらとした食感のスイーツなどによく使われているベーキングパウダー。あまりそういったものをつくらないご家庭では、そもそも持っていないことが多い可能性もありますね。
管理栄養士と食生活アドバイザーの資格を持つライターのゆかりさんに、ベーキングパウダーの代用アイデアをレシピつきで紹介してもらいます。
ベーキングパウダーは何でできている?
ベーキングパウダーとは、膨らし粉(ふくらしこ)とも呼ばれ、パンや焼き菓子に使われる膨張剤の1つ。市販のベーキングパウダーは一般的に「ガス発生剤」「酸性剤」「遮断剤」が混合されたものです。
「ガス発生剤」が水分とふれたり熱を加えられることで発泡し、「酸性剤」がその反応を促進し、発生した二酸化炭素のガスによって空気を含んだふんわりとした食感に仕上げてくれるのです。「遮断剤」は保存中の反応を抑えたり、変質を抑える役割があります。
ガス発生剤には「炭酸水素ナトリウム」が使用されていて、筆者の使用しているベーキングパウダーには、それ以外にも
・第一リン酸カルシウム(酸性剤)
・コーンスターチ(遮断剤)
が含まれていました。
酸性剤には、この成分以外にも複数の成分が組み合わさって含まれていることもあります。遮断剤は、でんぷんを含んだものが適しているので、小麦粉が使われることもあります。
ベーキングパウダーは「重曹」で代用可能?
ベーキングパウダーのキモとなるのは「ガス発生剤」の炭酸水素ナトリウム。じつはコレ、単体で食品素材として販売されているのをご存じでしょうか?
山菜のあく抜きなどにも使われる「重曹」の成分こそ、炭酸水素ナトリウムなのです。では、ベーキングパウダーの代用には重曹を使えばいいのかというと、そんな簡単は話ではありません。
重曹単体でベーキングパウダーの代用をしようとすると、仕上がりに以下のような差が出てしまうのです。
・生地の色が黄色っぽくなる
・独特の苦味や塩味を強く感じることがある
・もっちりとした重い食感になる
代用するのであれば、やはり「酸性剤」も含まれた食材を選んで、よりベーキングパウダーの仕上がりに近づけたいところです。
ベーキングパウダーの代用になるものはコレ!
それでは、具体的にどんな食材(素材)がベーキングパウダーの代用に向いているのか見ていきましょう。
じつはベーキングパウダーが含まれている素材というものは意外とあります。たとえば、ホットケーキミックスや天ぷら粉。ただし、ホットケーキミックスには香料や砂糖が加えられていることが多いので、それを考慮して砂糖などの甘味料を調整する必要があります。
仕上がりがしょっぱくなっても問題ない料理であれば、お好み焼き粉や、たこ焼き粉で代用するのもおすすめ。「ケークサレ」や「チーズスコーン」などをつくるときに使ってみると、だしの香りが効いて一味違うおいしさも期待できます。こちらも、あらかじめ食塩が加えられているので、パッケージなどの栄養成分表示にある食塩量を確認して加える調味料の量を加減してくださいね。
【×】炭酸水、泡立てた卵白、山芋は代用に不向き
WEBでベーキングパウダーの代用について調べると、炭酸水、泡立てた卵白、山芋などが取りあげられることもありますが、これらは正直どれもおすすめできません。
炭酸水の場合は、加熱によって炭酸が減少することはあっても増加することは考えにくく、泡立てた卵白や山芋は、そもそも違う作用でふんわりさせるため、炭酸ガスのようなはっきりした膨らみは期待できそうにありません(弱いふんわり感で問題なければ、代用しても◎)。
また、お好み焼きと原材料がよく似ているものにたこ焼き粉がありますが、ベーキングパウダーの割合はお好み焼き粉の方が高いことがほとんどなので、もし両方お持ちの場合はお好み焼き粉で代用するのがおすすめ。
代用食材の実力は?マフィンとドーナツで検証
ここからは実際に、代用食材として挙げたものでベーキングパウダーを代用した場合、どんな違いが現れるのかを「マフィン」と「ドーナッツ」をつくって検証してみます。
「マフィン」をつくる場合
<材料>
・卵… 10g
・砂糖… 10g
・油… 10g
・ヨーグルト… 10g
・粉類(※)… 20g
※粉類は、次の5パターンで比較。
【1】薄力粉 + ベーキングパウダー(2%)
【2】薄力粉 + 重曹(1%)
【3】天ぷら粉
【4】ホットケーキミックス
【5】お好み焼き粉
<作り方>
卵はよくほぐし、砂糖、油、ヨーグルトといっしょに均一になるように混ぜ合わせる。
粉類を加え、粉っぽさがなくなったら耐熱カップに注ぐ。
中まで火がとおるよう、180℃14分間オーブンで焼く。
オーブンに入れる直前の状態を比較してみました。
【3】の「天ぷら粉」は焼く前の時点でやや濃い黄色になっています。これは、揚げ色がきれいに色づくよう、てんぷら粉には色素が加えられていることが多いから。それ以外はほぼ見た目に違いはありませんね。
焼いてみると、明らかな違いが現れました!
【1】【3】は薄い焼き色で、表面にやや割れあり。
【2】【4】【5】は濃い焼き色で、側面片側に大きな割れあり。
という特徴を観ることができます。
ベーキングパウダーを純粋に使用したものが【1】のマフィンなので、ベーキングパウダーの代用として一番仕上がりが近いのは【3】のてんぷら粉を使用したもの、となりました。
断面を見てみると、膨らみ方に差があるのがわかりますね。
一般的に、ベーキングパウダーには「縦に膨らむ性質」があり、重曹には「横に膨らむ性質」があるといわれています。
マフィンなどの型に詰めて焼く場合、横が割れて表面の形がくずれるのを避けたければ、今回の結果からはベーキングパウダーの代用として「天ぷら粉」がおすすめできます。
味わいとしては、どれもふっくらとした食感がありましたが、好みは人によって分かれる可能性も。
家族で食べ比べをしたところ、【1】や【3】のやわらかい食感が好きな人もいれば、少しカリっとした食感も混じる【2】が好みという声もありましたよ。焼き色については焦げているように見えるものもありましたが、苦味を感じるようなことはありませんでした。重曹を使用したものや味が濃いものほど、焼き色も濃い傾向にあるようです。
今回、甘さを控えめにするために砂糖の分量を少ないレシピを選んだので、砂糖が混じっていた【4】は十分な甘さに仕上がりました。通常のマフィンの分量で砂糖を使用していたら、甘すぎた可能性があります。
なお、【5】のマフィンは、だしが入っていて風味がよかった半面、塩辛いと感じるほどの濃い味に……使用したお好み焼き粉の栄養成分表示を確認すると、100gあたり食塩相当量が3.5gであることが判明!今回使用した粉20gあたりでは、約1.8gも食塩が入っていることになるので塩辛いのは当然の結果でした。
一般的においしいとされる味の濃さは1%程度といわれており、その3倍以上も含まれていることもあるので、健康を気にするかたは食塩相当量の多い「お好み焼き粉」の代用はおすすめできません。
ただし、メーカーによって差があるので、食塩相当量が少ないものであれば気にせず使える可能性はありますよ。
「ドーナッツ」をつくる場合
続いては、揚げたときにベーキングパウダーの代用となる食材について検証するために、ドーナッツをつくってみました。
<材料>
・砂糖… 3g
・牛乳… 4ml
・ 粉類(※)… 10g
※粉類は、次の6パターンで比較。
【1】薄力粉 + ベーキングパウダー(4%)
【2】薄力粉 + 重曹(2%)
【3】天ぷら粉
【4】ホットケーキミックス
【5】お好み焼き粉
【6】薄力粉 + 重曹(2%)/牛乳→ヨーグルトに置き換え
【6】は、重曹に酸性剤の役割となるヨーグルトを使うことで、重曹の欠点をカバーできるのでは、と予想して追加しています。
<作り方>
それぞれの材料をよく混ぜ合わせ、まとまるようになったら丸く整える。
熱した油に入れ、中まで火がとおるように揚げる。
【4】は、ベタベタとしてまとまりにくかったので、粉類を1.5倍量でつくっています。
【6】は、パサパサしてまとまりにくかったので、ヨーグルトを1g増やしてつくっています。
それ以外は、分量通りできれいに形を整えることができました。
【3】は、マフィンのときと同じく、てんぷら粉に着色料が混ざっているので、ほかと比べて黄味が強くなっています。
【6】は、酸性剤としてのヨーグルトとすぐに反応したためか、表面が滑らかには仕上がりませんでした。炭酸ガスの発生によるものと思われます。
この時点でだいぶ違いが出ていますが、これらを揚げてみると……
揚げているときの様子やできあがりの状態に、だいぶ差が見られるように!
【1/ベーキングパウダー】…少し割れあり。揚がるまで一番時間がかかった。ずっしりとした食感。
【2/重曹】…少し割れあり。早く色づいた。表面はカリッとした食感。
【3/天ぷら粉】…表面はカリっとしていて滑らか、軽い食感。
【4/ホットケーキミックス】…大きく割れあり。早く色づき、大きく膨らんだ。表面はサクッと、中はふんわりとした食感。
【5/お好み焼き粉】…滑らかで、たこ焼きのような見た目になった。表面はカリっとした食感。しょっぱい。
【6/重曹/牛乳→ヨーグルトに置き換え】…表面はガリっとしていて、ずっしりとした食感。
このように、それぞれ特徴が異なる結果となりました。
【1】を基準とした場合、筆者の個人的な好みでは【4】、【3】、【2】の順でおいしいと感じました。いっしょに試食した家族からは【3】が一番食べやすかったという評価でした。
【5】はたこ焼きのつもりであればおいしく食べられる可能性がありますが、だしや食塩が多く含まれるのでドーナッツには向いていません。【6】はまとめにくさや仕上がりの状態から、おすすめしません。
ドーナッツをつくる場合、今回の結果からはベーキングパウダーの代用として、「重曹」「天ぷら粉」「ホットケーキミックス 」のなかから好みの仕上がりに応じて選ぶことをおすすめします。
ベーキングパウダーの代用に余っている粉類を活用しよう!
ここまで、焼き料理と揚げ料理をする場合のベーキングパウダーの代用に向いている食材を紹介しました。
今回は、あらかじめ重曹の性質がわかったうえで、デメリットを抑えるためにヨーグルトを使用しました。そのお陰で、黄色っぽくなったり、苦味・塩味が強いこともなく、食感のずっしり感も気にならない仕上がりとなりました。
このことから「重曹」を代用とする場合は、
・ヨーグルトなどの酸味や酢が入っている食材を少量加える(適量であれば酸味は残りません)
・食用の重曹を選ぶ(掃除用はNG)
・ベーキングパウダーの1/2量を目安に使用する
といった方法がおすすめです。
なお、ベーキングパウダーがあらかじめ含まれている「てんぷら粉」「ホットケーキミックス」「お好み焼き粉」などは、通常使用時よりもガスの発生が強くなる場合があるため、酸味や酢が入った調味料を加えるのは少なくした方がいいかもしれません。
今回のマフィンづくりにおいて、重曹を加えたものとホットケーキミックス・お好み焼き粉でそれぞれつくったものが同じ結果(焼き色、横割れの状態)になったのは、それが原因だと考えられます。メーカーによってベーキングパウダーの種類が違うため、必ずしも同じ結果になるわけではありませんが、レシピを選んだりアレンジする際の参考としてみてくださいね!
ご紹介した内容をもとに、ご家庭で余っている粉類を上手に活用してみてはいかがでしょうか?