現代アートはわからない?ー解釈するより、海を渡ることのほうが大切な理由

2025/09/27

雑誌『サンキュ!』に連載のSDGs企画。今回お話を伺ったのは、瀬戸内国際芸術祭2025総合ディレクターを務める北川フラムさん。
交通の不便な地方で芸術祭を開催することの意味は、持続可能な世界をつくることとどうつながるのでしょうか?

美術館を飛び出して、アートを見せる

美術館のような特定の建物内に留まらず、土地の地形や元からある建物を活かした形でアート作品を展示する手法が、様々な地域で盛り上がりを見せています。

中でも新潟県の越後妻有や瀬戸内海の島々を中心とした芸術祭は有名ですが、総合ディレクターを務めるのが北川フラムさん。

北川さんが越後妻有でその手法を始めたのは、四半世紀前。美術館やギャラリーの真っ白な空間でアートを鑑賞することに価値が高いとされていた時代。自然の中にアートを直接展示するような形は、日本国内はもちろん世界的にも例がありませんでした。

瀬戸内国際芸術祭メイン会場の一つである直島の砂浜の風景。決して交通の便の良い場所ではないが、多くの人が訪れ、海に足をつけて楽しむ人も。

都会でしかできないことに、本当の価値はある?

生まれ育った新潟から上京した約60年前、高層ビルが建ち始めた東京を見て「土地の匂いが無くなってしまう」と感じました。

ビルを建てる技術も管理するシステムも素晴らしいけれど、それは均質な箱の中のこと。いずれ人は決められた動きしかできなくなるのではと、危機感を覚えました。

「決められた空間でしか成り立たない形は、便利でも本質的とは言えないんじゃないか?」という問いが、アートを展示する形とも繋がりました。

条件が厳しいと言われる地方で、土地の特徴に合わせた活動を続ける一つの理由となりました。

「現代アートはよくわからない」でもいい

「美術」や「アート」というと高尚に感じたり、現代アートは理解できないと思いがちですと聞くと「わからないと思っても、その『わからない』が個性」と北川さん。

「美術って全部あり得ること。AからZまであって、真ん中のMとNだけが正解じゃなくて、とんでもないAとかZもありなの」

「目と脳で感じるだけじゃなくて、触ったり匂いを嗅いだりもあるでしょう。解釈をするより、触れることの方が大切」とも。

アートをきっかけに海を渡り山を歩いて「船で海を渡って楽しかった」とか「山の景色がきれいだった」とか、そんな発見こそが価値になると言います。

もう一つ北川さんが大切にしているのは、周りの人を巻きこむこと。

「僕がやっているのは、みんなが集まって楽しかったっていう、子どもの頃のお祭りみたいなもの」と笑います。事実、芸術祭の運営は地域の人々や世界中から集まるボランティアに支えられています。初めは反対したり心配していた人も、人が来て賑わいを見せるようになると喜んでくれるとか。

高松港から会場に向けて出航するフェリーには、朝から長蛇の列。「慣れない人も来るから、海に落ちないようにとかそういった事故を防ぐことが、続けるための大切な仕事です」と北川さん

「人が集うことは、本能的な喜びなんです。自然を感じて心地よいと思うことと同様に」。

今日の風は昨日と違うと感じるだけでも、人は楽しめる。それは、自分が自然や周囲に囲まれてかかわりあいながら存在していると、改めて確認するようなこと。アートを通して、人が本能的に楽しいと感じることを続けているから、多くの人が魅了されるのでしょう。

北川さんは今日も朝から現場を回り続けます。直接触れたときの発見からしか得られないものがあるから。芸術祭に沸く港の賑わいが、その大切さを証明しているようでした。

ボランティアサポーター「こえび隊」には世界中から参加者がやってきます。朝礼には北川さん自身ができる限り参加。この日も朝7時から会場入りしてスタッフに活を入れます
「こえび隊」で毎日更新される手作りの新聞。「こういうものを、みんなが手作業でサッと作る。目と頭だけじゃない体の部分で何かをするって大事なんだ」と北川さん

撮影/北村和也 取材・文/飯塚真希(サンキュ!編集部)
*記事は『サンキュ!』2025年11月号に掲載の内容から一部抜粋しています

 
 

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