実は後悔する人も多い…早期リタイアに向く人。向かない人。実は貯金の額だけが問題じゃなかった!
2023/08/25
「子どもの独立を機に早期リタイアして、長期旅行をしたい」と考え中の相談者ひろこさん。でもいざ会社を辞めて生活できるか、会社員の地位を手放して後悔しないか、確信が持てないそう。迷うひろこさんに、ファイナンシャル・プランナーの畠中雅子さんが提案する、自分の気持ちを見極めるための方法とは……?
<教えてくれた人>: ファイナンシャル・プランナー 畠中雅子
生活に根ざした家計管理、資産形成のアドバイスが人気。大学2年生のときに実行したバックパッカー旅行以来、旅行が...
人のいない秘境に行って、のんびり過ごしたいです
畠中:ひろこさんは、数千万円とまとまった貯蓄をお持ちですね。私は貯蓄が苦手な人なので(笑)、本当にすごいと思います。
ひろこ:実家に同居してて住宅ローンがなかったから、その分貯まったのかなと思います。それと、本当に欲しい物にお金を使いたいという気持ちが昔からあって。
畠中:ケチケチするわけじゃなくて、必要な物への出費は惜しまないけど、不必要な物を買わないということですね。
ひろこ:はい。お金にアバウトな両親が反面教師になってくれました(笑)。
畠中:ひろこさんは生き方がはっきりしていらして、そうするとこういうお手本のような貯蓄ができるのかなと思いました。
ひろこ:ありがとうございます。
畠中:それで50歳前に会社を辞めたいと。ということは、いわゆる「ファイヤー」をしようということですね。
ひろこ:ファイヤーするほどのお金はないですが(笑)。
※「ファイヤー(FIRE)」とは:投資運用で生活できる程度の資産をつくり、早期リタイアすること。ある程度の資産で生活費を抑えて暮らすリーンファイアなど数タイプある。
畠中:でもひろこさんは予算の範囲内で生活する習慣がついているから、一度退職してまた働くときに、今より収入が下がってもいけるでしょう。
ひろこ:はい。ただ、お金が足りなくなって娘たちに迷惑をかけることだけは、絶対に避けたいんです。
畠中:わかりました。早期退職したい理由は旅行でしたね。行きたい場所はある?
ひろこ:一番は鹿児島県のトカラ列島です。できれば1カ月、最低2週間ないと周りきれないようだから、長く休める環境が欲しくて。
※トカラ列島とは:南北約160kmに渡り、12の島からなる列島。島への交通手段は週数便のフェリーのみ。タクシーやレンタカーはなく、主に徒歩で移動する。
畠中:秘境と呼ばれている場所ね。海外はどう?
ひろこ:それより国内をゆっくり周りたいですね。人のいないところに行って、ぼーっとしてるのが好きなんです。
ファイヤーに向いているのは、趣味や友だちが多い人。毎日楽しそうです
畠中:早期退職して旅行した後は、パートで働くとか、働かずに節約して暮らすとか、どうイメージしてますか?
ひろこ:自分が働きたいと思うかどうか、仕事がなかったら時間を持て余したりするのか、予想がつかなくて。ただコロナ禍のステイホームで11日間休んだときは、全然退屈しなかったです。
畠中:長い休みの後に戻る場所があるのとないのとでは、ちょっと違うかも。私の周りにもファイヤーした方が何人かいますが、2つのタイプに分かれます。毎日が日曜日でも全く平気な人と、全然ダメですぐ働き出す人と。
ひろこ:へえ~。
畠中:ファイヤー生活を楽しんでいるのは、趣味も友だちも多い人。一方で、人に会わず家でゆっくり晴耕雨読というタイプは、1年もたたずに復帰して日銭を稼いでいます。「家にいるのに飽きちゃった」とか言って(笑)。
ひろこ:それでいうと、私は復帰するタイプかも。人は暇すぎる状況に耐えられないのかな……。
畠中:普段働いていて長い休みをもらうのと、いつまでも休めるのとは違うみたいですね。ちなみに、復職したいかどうかは、貯蓄額の大小よりマインドの影響が大きいかも。資産が2億円あっても「お金が減っていくのがこわい」と言って働く人もいますよ。
あれこれ悩むより、有休をフルに使って旅をして、自分の気持ちと向き合ってみては?
畠中:ひろこさんの勤め先は、勤続〇年で特別休暇が5日間もらえるといった制度はない?
ひろこ:残念ながらないんです。
畠中:そうですか。ならば、試しに有休をまとめて取って旅行してみるのはどうですか?会社には早めに「来年の〇月に10日間休みをください」と頼んで。一度旅行してみて、自分の気持ちと向き合ってみたらどうかしら。
ひろこ:なるほど、チャレンジする価値がありそうです。
畠中:トカラ列島も10日間じゃ周りきれないから、2回目に分けて周るプランにしたり。
ひろこ:おもしろそう~。
畠中:10日ほどの休みでもいけるとわかったら、会社には1年に1回くらいわがままを通させてもらって。
ひろこ:会社を辞めない場合の1つの選択肢ですね。
畠中:そうそう。行ってみたら「やっぱり10日じゃつまらないから退職しよう」と思うかもしれない。だから机上で考えるより、試しに実行してみるといい気がします。
ひろこ:ええ。
畠中:好きなことをしていると周りにいろいろ言われたりもするけれど、「自分が好きなことをして迷惑をかけているから、しょうがないよね」と思うと耐えられます。私がそうだから(笑)。
ひろこ:それも鍛錬ですね(笑)。ただ、直属の上司は長期休みを許可してくれそうだけど、その上の上司は渋りそう……。
畠中:でもひろこさんは辞めてもいい状況なので、無謀なチャレンジではないですよね。「定年まで絶対辞められない」という人にはおすすめできませんけど(笑)。
ひろこ:そうですね。
畠中:「リタイアしてから好きなことをする」ということは、私はあまりおすすめしていないんです。というのも、その前に大病して自由に動けない友人や、病気で亡くなった友人が何人もいて、「リタイア後も元気という保証はどこにもない」と実感しているから。やりたいことがあるなら1歳でも若いうちに、と心から思います。
年金の繰り下げ受給で年金額を増やして年金の範囲内で暮らす方法って、ありですか?
ひろこ:最後に私の年金について質問してもいいですか?年金をもらう年齢を繰り下げて受給額を増やして、年金の範囲内で暮らす方法ってありでしょうか?
畠中:ありだと思いますよ。ひろこさんは生活費が少ないので、今後も住居費がかからなければ、繰り下げもよさそうですよ。
ひろこ:1年後に仕事を辞めると、年金が少し足りなそうなんです。
※年金の繰り下げ受給とは:老齢基礎(厚生)年金は65歳から受け取らずに、66~75の範囲でひと月単位で遅らせることができ、その分、年金額が増額される。
畠中:注意したいのは、年金の受給を繰り下げて課税者になってしまうケース。すると額面は増えますが、いろんな負担が一気に増えて、かえって損することがあります。
ひろこ:そうですね。
畠中:課税者になると、国民健康保険料と介護保険料が連動して上がるので、年金の手取り額が減る可能性があります。額面が増えることよりも「手取り額がどう変わるか」が重要。「とにかく額面を増やしたい」という方がいるけれど、手取りが減らないように気をつけたいですね。それに非課税者ならいろいろな給付金を受けられます。
ひろこ:私の計算だと、3年くらい繰り下げれば、課税者にならずに年金額を増やせるかなって。
畠中:ご自身で調べていて素晴らしい!ひろこさんは働きながら娘さんを育てあげ、老後資金もきちんと準備して、これからやりたいことがある。それをどうかなえていくか、ですね。
ひろこ:早めに取りかかる方がいいけど、いきなり会社を辞めるのはリスクがあるから、お試し期間を設けるんですね。
畠中:そうね。ぜひご自身の夢がかなうプランを立ててみてください。
働きながらお試し旅行をする計画を立てること、そして両親に介護について少しずつ考えてもらうこと。長期旅行の夢をかなえるために、ひろこさんがやるべきことが見えてきました。あとは実行あるのみですが、それが一番難しいのも事実……。悩み相談後の1カ月間で、夢への一歩を踏み出せたでしょうか?次回伺ってみたいと思います。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部