両親の介護費用どうなる?年老いた両親とまず話をしておくべきこと。
2023/09/08
子育てが無事終了し、早期リタイアして長期旅行をしたいと考えていたひろこさん。ファイナンシャル・プランナーの畠中雅子さんに「実行に移す前に2つのことやってみて」と提案されました。それは、両親に介護について考えを聞くこと、そして有給休暇でプチ長期旅行を計画すること。悩み相談から1カ月後、進展はあったでしょうか?
<教えてくれた人>: ファイナンシャル・プランナー 畠中雅子
生活に根ざした家計管理、資産形成のアドバイスが人気。大学2年生のときに実行したバックパッカー旅行以来、旅行が...
両親に介護の聞き取りシートを渡したら、「ついに来たか」という反応でした
編集部:ひろこさん、お久しぶりです。前回の悩み相談で、介護についてご両親の希望を聞くという提案がありました。なかなか勇気がいる課題だと思いますが、トライできましたか?
ひろこさん(以下、ひろこ):はい、畠中先生に教えていただいた「介護の聞き取りシート」を作って両親に渡しました。
編集部:実行されたんですね!どう切り出したんですか?
ひろこ:日曜日の夕食後に、「希望に沿えるところは沿いたいと思っているので、考えを聞かせて」と伝えて。
畠中先生(以下、畠中):ご両親の反応は?
ひろこ:2人とも「ついに来たか…」みたいな、神妙な顔をしていました。
畠中:回答はもらえました?
ひろこ:5週間たったけど、まだです。でも先週父に「忘れてはいない」と言われました(笑)。
畠中:お母さまの方は?
ひろこ:「考えるのがつらい」みたいなことをつぶやいていました。まだ先の話にしておきたいのかな、という気がします。
編集部:なるほど…。聞き取りシートにはどんな質問を書きました?
ひろこ:「体が不自由になったときにどうしたいですか」と「認知症になったらどんな介護を受けたいですか」の2つです。同じシートを2枚作って両親に渡しました。
編集部:そうなんですね!私は、両親で1枚かと思っていました。
畠中:ひろこさんのようにそれぞれ1枚渡せると理想的ですね。夫婦でも考えが違うでしょうから。2人で1枚だと相談しながら書くことになると思うけど、考えが違っても意見の強い方に合わせたりして、本音を聞けないこともあるので。
編集部:2人の意見が違う場合、すり合わせをしたほうがいいですか?
畠中:それぞれの希望なので、必要ないと思います。もしすり合わせをしても、80代後半になれば忘れちゃって、結局別々に対応することになるでしょうから(笑)。
父は何か考えがある様子。母はギリギリまで家で暮らしたいようです
畠中:すると、お父さまのほうが介護について覚悟がある感じかしら?
ひろこ:父は兄弟が自分から施設に入ったこともあって、何か考えがある様子でした。
畠中:そうなんですね。
ひろこ:母には長年車いすで生活している親戚がいて、ヘルパーさんにガンガン来てもらって家で暮らしています。
母は「それが一番イメージに近いかな」と。ギリギリまで家で暮らしたいようでした。
畠中:住み替えには抵抗感がありそうですね。
ひろこ:そうですね。父も母も、基本的には家で暮らしたいんだと思います。
畠中:いつシートが返ってくるか、わからない感じ?
ひろこ:そうですね。今月いっぱいは様子を見て、回答がなければ個別に聞いてみるつもりです。シートを渡したことで、話のきっかけはつかめたかなと思います。
真面目で優しい子どもは「とりあえず介護しよう」が命取りになることも
畠中:今70~80代の親御さんだと、自分から住み替える人はごく少数ですね。それで、子どもが真面目だったり優しかったりすると、「施設に移るのがそんなにいやなら、とりあえずしばらく介護をしよう」となるけれど、その「とりあえず」が命取りで。
編集部:というのは?
畠中:だんだん介護負担が重くなって、そのころには親御さんと冷静に話し合うのも難しく、結局子どもが介護離職をして最期まで面倒をみる、というパターンになりがちなんです。
編集部:そうなんですね。
畠中:そして親を見おくった後、生活保護を受ける人も少なくありません。親が亡くなると、それまで生活を支えていた親の年金支給もなくなりますからね。就職活動はするけれど、社会とのつながりが10年なかったりうつになったりすると、外出や仕事上のコミュニケーションが難しくて働けないんです。
編集部:重い現実ですね…。
畠中:みんな親孝行なんだけど、その後の自分の人生がもうない感じで。そのリアルな結果を現場で見ていると、「何となく」とか「とりあえず」って、絶対ダメだなと思います。
ひろこ:親をどこまで介護するか、線引きするのは、なかなか難しいですね…。
畠中:そうね。ただ私は「介護はプロにしてもらうのがベスト」という考えなんです。質の高い介護が受けられるし、食事も施設なら栄養やカロリーをきちんと計算したものが出るし。だから、自分の予算で入れる施設を探しておくことが重要かなって思います。
ひろこ:はい。
畠中:一番大切なのは、ひろこさんが自分の人生を自分の意志通りに生きること。いずれは親が住み替えることが前提にあって、最初の何カ月かを助けるのは反対しないけれど、最期まで介護するプランはおすすめしない、ということですね。
ひろこ:両親にはある程度までフォローすることを期待されていると思うし、私もできる範囲で、と思います。それは差し支えないと。
畠中:はい。それと同時に、介護の聞き取りシートなどを使って、要介護度が重くなったら住み替えてもらわないと難しいよ、ということを伝えて、納得してもらうことが大事だと思います。
親と施設を見学したりウェブサイトを見せて、介護施設の暗いイメージを変えてもらいましょう
畠中:「施設」っていうと、昔の特養(特別養護老人ホーム)をイメージする方がほとんどだと思います。ベッドに寝かされたまま、みたいな。そのイメージを払拭するためにも、施設見学に行けるといいのですが。
ひろこ:そうですね。
畠中:こんな施設もあるんですよ。(ある施設のウェブサイトを見ながら)ここは住宅型だけど、介護や看護にも対応をしてもらえて、カフェが併設されていたりホテルみたいなラウンジもあったりして。
編集部:とてもきれいな施設ですね!
畠中:施設の充実ぶりに対して月額費用は月16万円ほどで、軽減措置が受けられない方にとっては、特養と同じ価格帯。昔と違って特養は安いとは限らない施設になっているので、単身で、遺族年金だけの収入の方でも、資産が650万円以上あると月15万~16万円くらいはかかるんです。地方だと、介護付有料老人ホームとコスト的にあまり変わらないと思います。
ひろこ:そうなんですね。
畠中:こんなふうに、親御さんに快適な施設のサイトを見せて「可視化」するのもおすすめ。「昔とイメージが違う」と言ってもらえるんじゃないかしら。
ひろこ:むしろ自分のために見学に行きたい(笑)。私の世代でも見学できますか?
畠中:「親のことで検討している」と言うと、見せてもらえますよ。
編集部:複数の施設を見学すると比較できて、「ここならよさそう」と判断するポイントもわかってきそうですね。
「来年の4月、2週間休みたいです」と課長に話しました。「辞める」と伝えるより気がラクでした(笑)
編集部:長期旅行のために早期リタイアするかどうかという悩みもありましたね。畠中先生から「お試しに有給休暇でプチ長期旅行をしてみたら?」という提案がありましたが…。
ひろこ:先日、仕事がいち段落したタイミングで、「来年の4月に2週間、休みが欲しい」と課長に話しました。
畠中:反応はどうでした?
ひろこ:年度明けは忙しくないこともあって、「いいんじゃない」と言ってもらえました。部長はもっと手強そうですが、課長にOKをもらっているほうが通りやすいので。
編集部:では実現に向けて一歩前進、ですね!
ひろこ:はい、何とかなりそうな気がしています。それに、辞めるより休むと伝えるほうが気がラクって思いました。
畠中:夢だったトカラ列島に行かれたら、ぜひ写真を送ってくださいね。
ひろこ:はい。いろいろな面で背中を押してくださって、ありがとうございました。
編集部:部長にもOKをもらって、ぜひ旅立っていただきたいです!報告を楽しみにしています!
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部