仕事を辞めたい。でも、40歳すぎてから正社員の立場を手放してよいのでしょうか?

2023/08/11

今回の相談者・ひろこさんの夢は、のんびり長期旅行をすること。20年間、がんばって働いて老後資金を貯めたので、体力があるうちに早期退職して旅をしたいと考えています。でも親の介護などを考えると迷いもあって…。ひろこさんの夢をかなえるプランを、ファイナンシャル・プランナーの畠中雅子さんがアドバイスします。

【相談者】
ひろこさん<仮名>
48歳

父(78歳)と母(74歳)の3人暮らし。長女(25歳)と二女(23歳)は独立。石川県在住。事務職の会社員で勤続20年。数千万円の貯蓄があります。

【回答者】
ファイナンシャル・プランナー
畠中雅子さん

シニアに資金アドバイスを行う「高齢期のお金を考える会」を主宰。国内外の高齢者施設を300回以上見学し、介護事情にも精通。プライベートでは大の旅好きでもあります。

生活に根ざした家計管理、資産形成のアドバイスが人気。大学2年生のときに実行したバックパッカー旅行以来、旅行が...

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定年まで体力が残っているかわからない。今のうちに長期旅行をしたいんです

ひろこさん(以下、ひろこ):26歳で離婚して、働きながら2人の娘を育ててきました。今年ついに二女も独立したので、そろそろ会社を辞めたいなと思っています。

畠中さん(以下、畠中):辞めたい理由は何かありますか?

ひろこ:体力があるうちに長期旅行をしたくて。今の勤め先は長く休めず、かといって定年まで待っていたら、体力的に長旅は厳しくなりそうで。

畠中:なるほど。

ひろこ:ただ会社員の安定収入を捨てていいものか、迷いがあります。自分の老後もだけど、同居している70代の親の介護費用が心配。両親は今は元気ですが、お金がなさそうだし、どの程度フォローすればいいのか…。

親の介護問題は子どものライフプランにも影響します。見とおしを立てたいですね

畠中:ご両親は介護について、どう考えていらっしゃいますか?お互いに介護するという感じ?

ひろこ:母は世話好きなので、体力があるうちは自力で父の面倒を見ると思います。

畠中:そうですか。ただ元気な人でも85歳を超えると、介護するのが体力的にむずかしくなってきますね。私は、親の介護は親のお金でプランを立てることをすすめています。なぜならいったん介護が始まると、費用が軽くなることはなく、負担は増していくから。

ひろこ:はい。

畠中:ノープランで子どもが援助し始めると、費用が増してきても後に引けず、がんばって貯めたお金を失うケースをたくさん見ているんです。

ひろこ:そうなんですね…。

畠中:親の介護問題は、ひろこさん自身のライフプランにも関わるので、見通しを立てておきたいところ。親の要介護度が1~2のときはサポートするとしても、その先は特養に住み替えてもらうなど、相談しておくことは重要かと思います。

ひろこ:はい。

畠中:ご両親に貯蓄がない場合は、特養(特別養護老人ホーム)に数万円で入れます。それならご両親の年金で賄えますね。

ひろこ:ええ。

畠中:そんなふうに、ご両親には住み替えを考えていただいた方が、ひろこさんの資産への影響は少ないと思います。

ひろこ:なるほど。

70代で元気なうちが、相談のベストタイミング。手書きの「聞き取りシート」をつくってみて

畠中:でも親御さんに伝えると「何とかなる」とか精神論になりがちで(笑)。具体的な話になりにくいですが、70代で元気なうちが相談するベストタイミング。そのために「介護の聞き取りシート」を書いてもらうようすすめています。

ひろこ:それってどんなシートですか?

畠中:A4用紙に「介護の状態が重くなっても自宅で介護を受けたいですか」「誰に介護をして欲しいですか」など、質問を2つほど書きます。回答欄も忘れずに。そして「介護の希望を聞きいておきたいの。書けるところだけでいいから書いてみて」と言って、親に渡すんです。

ひろこ:ふむふむ。

畠中:親子で話しながら書くとお互い感情的になりがちなので、「急がないから」と渡して書いてもらうのがポイントです。

ひろこ:シートはパソコンでつくってもいいですか?

畠中:子どもが一生懸命つくった感じを出したいので、手書きがおすすめよ。

ひろこ:なるほど~。

畠中:例えば親から「死ぬまで在宅がいい」という回答が返ってきたら、「介護の状態が重くなったら、年金の範囲でこういう施設に移る方法もあります。どう思いますか」と提案と質問を書いて、第2弾のシートを渡すんです。

ひろこ:ほかにはどんなことを聞いたらいいですか?

畠中:一番聞きたいのは介護に対する気持ち。徐々に家や年金、貯蓄などの質問をしてもいいでしょう。

「介護の聞き取りシート」質問例

●要介護3以上になっても、特養などに住み替えるのはいやですか。
●将来1人になったら、自宅をどうしたいですか。
●家の処分はどうしたいですか。
●年金額を教えてくれますか。
●貯蓄額を教えてくれますか(できれば内訳も)。
●相続はどうしたいですか。

畠中:最初は2問くらいで、質問を小出しにするのがポイント。最初から完璧につくる必要はないですよ。いきなりたくさん聞かれると、親も答えづらいでしょう?それと、書きたくないことまで「書いて」と頼むとそこで終わっちゃうので、無理強いは禁物。

ひろこ:そっか、わかりました。

畠中:このシートは、介護についてお互いに心積もりをするためのもの。親も年齢が変わると気持ちも変わると思うので、ファイルして記録を残すといいですね。

ひろこ:そうすると、やりとりの経過をたどれますね。

畠中:そうそう。答えてくれたらまた質問して、親御さんには「介護になったら住み替えなきゃいけないんだ」という現実を少しずつ理解してもらう。そうするといざそのときが来ても、お互いに覚悟ができていますから。

ひろこ:そうなれたら理想的だな…。

畠中:余談ですが、貯蓄は全然ない人もいれば、一桁ごまかす親もいます。300万と思ってたら3,000万円持っていたり、その逆の場合も。正しい額を言わない親は、まあまあいますね(笑)。

元気なのに介護の話をすると、親はいやがりそう。ちょっと心配です

畠中:親は「自分は大丈夫」と思っているし、そうなれば一番いいですよね。でも、準備や覚悟がないまま介護となると、全員の人生がそっちに持って行かれちゃうんです。

ひろこ:何となく想像がつきます…。

畠中:介護を受ける方は幸せだけど、介護する方ははからずも人生が壊れてしまうことが結構あって。いったん介護が始まれば終わるまで続くので、最後には気力が残っていなかったり体を悪くするかたも大勢います。

ひろこ:そうなんですね。

畠中:親の介護を考えるのは気が重いですが、いやなことから取りかかるのが、ライフプランとしては正しいです。楽しいことは後からいくらでも、すぐ考えられますから。

ひろこ:まずいやなことから、ですね。

畠中:そうですね。話を整理すると、退職するかどうかを決めるには、親の介護の見とおしを立てることが必要。それには、親が元気なうちにコミュニケーションを取りながら、親のためにどこまでお金を使うか、数カ月かけて整理する作業が必要だと思います。

ひろこ:わかりました。ただ、元気なときにそういう話をすると、親はいやがりそうです…。

畠中:まあ喜びはしないですね(笑)。でも、元気じゃないとニュートラルに答えられないから。体が悪くなると、親ってどんどん子どもに戻って、何を言っても理屈関係なく「イヤイヤ」みたいになっちゃう。今が相談する適齢期だと思いますよ。

ひろこ:介護の聞き取りシートは正直ハードルが高いけど、こういう機会でもないと取り組めないのでトライしてみます。


親と介護について話をするのは、誰にとっても気が重いもの。それに果敢にも挑戦すると決意したひろこさんの後日談は、最終回でお届けします。次回は、ひろこさんが早期リタイヤしても後悔しないか、経済的にも心の面でも問題なく「ファイヤー」(早期退職)できるか、畠中さんといっしょに考えます。

イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ

 
 

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