70歳で料理家アシスタントデビュー「アシスタントの仕事は将棋と同じだよ」。youtuberとしても活躍中で間もなく90歳
2023/03/19
気になるあの人の「棚」と「引き出し」と「冷蔵庫」の中を見せてもらう企画。今年90歳になる料理アシスタント、小林まさるさんにお話を伺いました。
PROFILE
料理研究家
小林まさるさん
YouTube「小林まさる88(はちはち)チャンネル」
家族構成:息子、息子の妻(料理家の小林まさみさん)、ラブラドールレトリバーのヴァトン
住まい:東京都在住。撮影スタジオを兼ねた戸建て
略歴:
定年後70歳から、小林まさみさんの料理アシスタントを務める。78歳でシニア料理家としてデビューし、『まさるのつまみ』(主婦の友社)などのレシピ本も出版。バンダナがトレードマークで、座右の銘は「涙こぼしても酒こぼすな」。
まさみさんの料理家デビューまでのお話を聞いた、前回の記事はこちら
息子夫婦と同居がスタートし、 穏やかに暮らすはずの老後が一転⁉
奥さまを亡くし、一人暮らしをしていた小林まさるさん。もともと体が弱かった妻にかわって2人の子どもを育ててきたため、家事はお手のもの。何不自由なく暮らしていたそうですが、長男の結婚を機に同居が決定。長男の妻は、現在料理家として活躍する小林まさみさんでした。
「結婚した当初、まさみちゃんは料理が苦手でさ。おれのほうがうまかったよ。それが、料理家になるっていうからさ(笑)」。
当初は驚いたというまさるさん。でも、まさみさんの仕事を全面的にサポートします。
「本当にがんばり屋さんだから成功すると思ったよ。だからまさみちゃんのご両親に言ったの。『この子は大きくなるよ』って」
ふだんはこんなこと言わないけどさ、と続けるまさるさん。
「成功するにはまず最初に度胸、それから運が必要。もちろん努力も必要だね。まさみちゃんにはそれが全部あった。おれは度胸がないの。あったらすごいことしてただろうなって思うよ(笑)」。
アシスタント業は将棋と同じ。 相手の動きをよく見て、二手先を読んで動く
毎日いそがしそうにするまさみさんに、「洗い物でも手伝おうか」と声をかけたことから、まさるさんのアシスタントとしての人生が始まります。
「70歳すぎたら、趣味の釣りや畑でもやってのんびりしようと思ってたんだけどさ。『洗い物くらいはやってやる。飯くらいは炊いてやる!』って言ってたら、2人でコンビみたいになっちゃってさ(笑)」
もともとは鉄鋼所に勤めていたまさるさん。料理の仕事とは遠いようにも思えますが、アシスタントをするうえで、心がけたことはあったのでしょうか?
「料理の世界は女性が多くて、最初は『どうしたらいいんだ?』って思ったよ。今まで男しかいない世界だったからさ。緊張したけど、新鮮で楽しかった」
半年ほどで慣れてきたとのこと。
「アシスタントはさ、二手先を読むことが大切。将棋と同じだよ!たえずまさみちゃんは動いているから、次はフライパンを使うなって思ったらフライパンを先に洗うとかね。まさみちゃんが考えなくても動けるようにするんだよ」。
この発言にすかさず「先を読みすぎて、これから使おうと思っていたお皿をしまっちゃうこともよくあるよね」と、まさみさんから突っ込みが入ります。
散らかっている仕事場ではよい仕事ができない。 だから、いつもキッチンはピカピカに
料理家にとって、キッチンはいわば戦場。いかに動きやすい状態にできるかは、アシスタントの腕にかかっているといっても過言ではありません。
「料理の世界に限らず、散らかっている仕事場でいい仕事はできない。きれいなところでさっとやると、スムーズにいくでしょ。間違わないし、焦らないの。だからいつも、キッチンはきれいにしているよ。まさみちゃんがストレスなく、広々と作業できるようにね」。
毎日コンロの縁まで磨き上げ、すべての作業が終わったら、出しっぱなしにしていたものも棚に全部片づけて何もない状態に。コンロまわりに鍋や調味料を置くと油汚れで掃除が大変という理由から、小林家のキッチンは「しまう収納」が主流だといいます。
何が起こるかわからない人生。 90歳の夢は料理教室!
今年90歳を迎えるまさるさん。78歳でレシピ本を出版し、88歳でYouTuberデビュー。常に新しいことに挑戦する姿は、まさにシニアの星です。
「まさみちゃんと仕事を始めてもう20年たつけど、いまだに独立できてないなぁ(笑)。でも今で充分だ。ずっと現役でいたいね。あとやりたいことといえば、料理教室くらいかな。定年になった人を集めてさ。おれのつまみ料理を教えて、終わったらみんなで飲んでさ。まさみちゃんが外出するときはおれが夕食を作るんだけどさ。14時くらいから始めて焼酎を飲みながらつくるんだけど、できあがるころには1本空いてるんだ。お酒飲みながらみんなで料理をつくる。そういうの、やれたらいいな」
撮影/大森忠明 取材・文/草野舞友