“トランプ関税”と消費税の関係って?ニュースで耳にする経済問題は私たちの家計や生活にどんな関係があるのか?欧州のVAT(付加価値税)を例に、庶民目線の経済評論家が関税と消費税についてわかりやすく解説します。

<教えてくれた人>: 経済評論家 岩本さゆみ
国内外の金融機関で為替ディーラーとして国際金融取引に従事。執筆や講演活動、ラジオ出演など幅広く活躍中。生島ヒ...
トランプ大統領が不公平と批判するものとは?
ライターK(以下【K】) トランプ大統領が連日メディアの中心にいますね。
岩本さん(以下【岩】) まず注目したのは、各国の中央銀行や経済・金融の専門家、欧州の財界人が多数参加したダボス会議です。就任直後のトランプ氏はオンラインで参加し、開口一番、「欧州は好きだが、ビジネスの慣習は不公平だ」と発言したんです(笑)。
【K】 トランプ節さく裂ですね(笑)。
【岩】トランプ氏は日本の消費税に相当する欧州の付加価値税(VAT。世界150以上の国や地域で採用)に触れ、これがビジネス上の障害で関税と同様に不公平な要素だと批判しています。
【K】トランプ氏がVATを不公平だと見なすのはなぜですか?
【岩】EUの輸出企業がEU域内で作った製品をアメリカに輸出して販売する際、その製品にはEUのVATはかかりません。そして、その製品を作る過程でEU域内で払ったVAT分は「輸出還付金」という形で生産した国から返金されます。トランプ大統領は以前からこの仕組みを「不公正な貿易慣行」と批判していて、2月にVAT採用国に対して相互関税を課すと公表。
日本の消費税も対象となりそうです。トランプ氏は相互関税を回避したいなら、アメリカ製品への関税を下げるか撤廃すればいいだけ、つまりはVATや消費税を下げたり撤廃すれば、関税は回避されると圧をかけてきているんです。
消費税や付加価値税は輸出企業のために生まれた!?
【K】確かVATはフランスで生まれたとお聞きしましたが……。
【岩】はい、1954年にフランスが採用したのが始まりです。第2次世界大戦後の自国の経済復興のために、輸出企業の競争力を高める手段を模索する中でVATが導入され、これがフランスの輸出企業の国際競争力を支援する役割を果たすことになりました。
【K】トランプ大統領がいう「消費税やVATが関税と同じ役割を果たしている」とはどういう意味ですか?
【岩】例えばアメリカとEUの貿易の場合、21%のVATがあるEU製品とVATがないアメリカ製品を消費者が購入する際に価格の差が生じます(上表参照)。どちらの製品も100ドルとすると、輸出還付金を受けることでEU製品はアメリカ国内で79ドルまで値下げすることが可能に。
一方でアメリカ製品は、EU域内ではVATが追加されて121ドルになってしまいます。この差がアメリカにとっての実質的な障壁と見なしているんです。
【K】なるほど。日本の消費税10%についても同じことがいえるわけですね。
【岩】多くの国が自国の利益を優先する中で、輸出を増やして輸入を抑える政策を取りますが、必ずしも自国民の生活向上につながっておらず、どの国でも一部の産業の経済力や発言力を強化することになった、という専門家の指摘もあります。VATや消費税は、グローバル経済が進む前の時代の古いタイプの税制度です。
70年前と今では貿易量も金額の規模も全く異なるわけで、昔の考え方や税制度が今の時代に合っているかは疑問です。一見アメリカ第一主義のように見えるトランプ氏ですが、実際には各国の一般市民や中間層、労働者の利益を守る視点もあり、現代の国際貿易のあり方、経済活動で国境を超える際の課税制度のあり方などの再構築を目指していると考えられます。
【K】消費税減税や増税反対などの議論は日本国内の問題とばかり思っていましたが、世界の経済や流通にも大きな影響を与える問題なんですね。
辞書の中で最も美しい言葉は“関税”!?
奇抜な発言でも注目を浴びるトランプ大統領。大統領選挙期間中のイベントで「辞書の中で最も美しい言葉は関税」と発言し、メディアでも話題に。大統領就任初日には、アラスカ州の北米最高峰の山「デナリ」を旧称の「マッキンリー」に戻す大統領令に署名。「ちなみにマッキンリーはアメリカの第25代大統領の名前で、高い関税をかけたことで有名。トランプ氏が影響を受けた人物の1人とされています」(岩本さん)
<教えてくれた人>
経済評論家 岩本さゆみさん
国内外の金融機関で為替ディーラーとして国際金融取引に従事。執筆や講演活動、ラジオ出演など幅広く活躍中。生島ヒロシ氏との共著『生活は厳しいのに資産は世界一!?日本経済 本当はどうなってる?』(青春出版社)など著書多数。
・聞き手 ライターK
貯金より"貯筋"に余念がない体育会系。マネー記事の執筆も多いが、自身の家計はどんぶり勘定。不安だらけの夫婦の老後に向け、戦々恐々の日々。
※ このページの情報は2月25日現在のものです。
参照:『サンキュ!』2025年5・6月合併号「それってうちの家計に関係ありますか?」より。掲載している情報は2025年3月現在のものです。構成・文/鹿島由紀子 編集/サンキュ!編集部