私たちは税金を払いすぎているのか?~現役東大生の元国税局芸人に、税金について解説してもらった!

2023/11/27

ニュースで耳にするお金の単語。なんとなくはわかっていても、説明できるほどには自信がない……そんなことありませんか?この連載では、図解も含めてスパッと解説。もやもやとお金の不安を、少しでも減らしたいと思います。
第2回目は税金についてです。

教えてくれる人
さんきゅう倉田さん
元東京国税局職員という異色の吉本芸人。税金やお金に関する情報発信が話題になり、執筆や講演などをこなす。最新刊は『元国税局芸人が教える わかる、得する! 超やさしい税金の教科書』(Gakken)。’23年に東京大学文科二類に合格し、東京大学に在学中。1985年神奈川県生まれ。

編集部)
前回は元国税局芸人のさんきゅう倉田さんに、「所得税」についてわかりやすく説明してもらいました。所得税は会社からもらう給与や自分で商売をして稼いだお金などにかかる税金ということでしたよね。

さんきゅう倉田さん)※以下敬称略
はい。そして所得税と同様に私たちの暮らしと関係が深い税金が「消費税」です。今回は消費税について解説したいと思います。

編集部)
遠い昔の記憶ですが、私が子どものころは消費税ってなかった気がするんですけど……。

倉田)
消費税が日本で初めて導入されたのは1989年(平成元年)で、当初は3%でした。平成という時代の幕開けとともに消費税がスタートしたんですよね。消費税は、物を買ったりサービスを受けたりするときにかかる税金で、消費者が負担した税金を事業者が納める間接税であることと、消費者の所得などに関係なく広く公平に課されるというのがポイントです。

編集部)
今までなかった税金が導入されることになったのはどうしてだったんでしょう?

倉田)
じつは消費税には前身があって、「物品税」がそれに当たります。生活必需品以外のぜいたく品が課税対象で、サービスに対しては原則として課税されていませんでしたが、時代とともにサービス業の割合が高くなり、不公平感を訴える声が高まったんです。この物品税に変わる税として導入されたのが消費税です。

編集部)
これまで徴収してこなかった分の税収が増えて、政府はウハウハですねえ。

倉田)
いえ、そうは言っていられなかったんですよ。日本では消費税導入前から人口の高齢化が進んでいて、将来の年金、医療、福祉のための財源確保が課題でした。消費税は高齢化社会に対応する方策という重要な目的もあったんです。

編集部)
消費税が現在の10%(一部は8%)になったのは2019年(令和元年)でしたよね。

倉田)
はい。消費税の標準税率は10%で、その内訳は消費税率7.8%、地方消費税率2.2%です。食料品など生活に関連する物品などにかかる軽減税率は8%で、消費税率6.24%、地方消費税率1.76%となっています。

編集部)
そういえばこの連載の第1回で、消費税は国税にも地方税にも登場していましたが、国の取り分と地方の取り分が細かく設定されているんですね。約30年の間に3%→5%→8%→10%と税率がアップしたことになりますが、倉田さんは現在の10%という税率についてはどう思っていますか?

倉田)
消費税自体はきちんと機能しているし公平ですから、あっていいものだと思っています。税率については、10%を高いと感じている人もいるかもしれませんが、イギリスとフランスは20%、ドイツ19%、中国13%、韓国10%と、日本が特に高いということはないんですよね。適正に使われている前提であれば、10%という税率は高すぎるということはないのかなと思います。

編集部)
消費税は間接税ということなので、私たちが支払った消費税は事業者を通して国に納付されているということでした。

倉田)
はい。ただ自営業者や個人事業主の場合は、消費税の納税義務がないというケースもあるんです。その基準は前々年の課税売上高です。1,000万円を超えると納税義務が課される課税事業者、1,000万円を下回る場合は免税事業者となります。

編集部)
課税事業者が消費税を納付する仕組みはどういうことになっているんでしょう?

倉田)
たとえば課税事業者A店が10万円の商品を販売して、消費者から1万円の消費税を受け取ったとします。A店がその10万円の商品を卸売業者B社から7万円+消費税7,000円で仕入れていた場合、A店があとから納付する消費税は1万円ではなく、すでに負担済みの消費税7,000円を差し引いた3,000円になるんですよ。この仕組みを「仕入税額控除」といって、流通の過程で二重三重に消費税がかからないように配慮されています。

編集部)
A店にとっては、すでに仕入れのときに7,000円の消費税を支払ったよ~と、あとからしっかり証明する必要がありますねぇ。

倉田)
そうなんです。その効力のある請求書のことを「適格請求書」または「インボイス」といいます。国税庁では、「売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるもの」と定義していますね。

編集部)
それってまさにこの10月1日からスタートした「インボイス制度」のインボイスですね!

倉田)
正解です。適格請求書の発行は課税事業者にしか認められていないため、これまで免税事業者だった小規模の自営業者や個人事業主に、適格請求書を発行できる課税事業者になる(=インボイス登録事業者になる)ことをうながしているのがインボイス制度なんですよね。でも、従来の免税制度がなくなるわけではないので、小規模の自営業者や個人事業主は、インボイスに登録するか否かで迷う人が続出したわけです。

編集部)
免税事業者なのに消費税の納付を求められる人の戸惑いもわかるし、「適格請求書」の発行を求める事業者側の事情もわかるので、もどかしいですね……。

倉田)
インボイス制度には2029年(令和11年)まで経過措置があるので、登録を迷っている人は、その間に課税事業者になるか免税事業者のままでいるかを見極めてもいいと思います。

編集部)
ところで倉田さん、前回は所得税、今回は消費税と、特に身近な税金について解説してもらいましたが、私たちが納めた膨大な額の税金は、どんなことに使われているんでしょう?

倉田)
税金の使い道は気になるところですよね。税金の使い道は、毎年それぞれの省庁からの希望を聞いて予算案を作成して、国会での審議を経て決まるんですが、令和5年度当初予算(2023年度)は以下のような内訳になっています。

歳出総額114兆3812億円。社会保障関係費32.3%、公共事業開発費5.3%、文教及び化学振興費4.7%、防衛関係費8.9%、経済協力費0.4%、その他12.0%、地方交付税交付金等14.3%、国債費22.1%。

それぞれの費用の詳細は以下の通りです。
■社会保障関係費:公的年金や医療、福祉などに使われる費用
■国債費:国がお金を借りたり、借りたお金を返済したりするための費用
■地方交付税交付金等:自治体によって公的サービスに格差が生じないように国が支出する費用
■公共事業費:道路や橋、ダム、災害復旧など、公共施設の歳暮を行うための費用
■文教及び化学振興費:学校教育、科学技術などに関する費用
■防衛関係費:自衛隊の装備品購入費、隊員の人件費など、日本の防衛に必要な費用
■経済協力費:発展途上国の経済援助のための費用

編集部)
税金の使い道を見るのは、大人になってから初めてかもしれないです。社会保障関係費が思った以上に多くて驚きましたし、国の借金に関係する国債費が多いのも気になりますね。

倉田)
特に会社員のかたは給与から税金が天引きされているので、納税の意識が薄れやすいんですよね。日ごろから税金の使い道に関心を持つことは、税金のムダ使いを減らすことにつながると思います。

編集部)
倉田さんは税金に関する講演をしたり著書を出したりしていますが、税金のどういうところにおもしろさを感じているんですか?

倉田)
「ゼロか1ではないところ」ですかね。たとえば、自宅を事務所としても使っている個人事業主の人が、家賃を必要経費にしようとする場合、全額は計上できないんですが、3割ならいいとか5割ならいいと決まっているわけでもないんです。税務署の職員でも判断が分かれることが多々あるので、そういう玉虫色のところが好きですね(笑)。

編集部)
それはちょっと独特かもしれないです(笑)。私のまわりには、税金が高い、税金はお金持ちからもっと徴収すればいいのにと不満をもらしている人がいるんですが、そういう声についてはどう思いますか?

倉田)
前回の所得税のところで触れたように、所得税や相続税などの直接税は、もともとお金持ちからより多くとるように設計されているんです。所得税の税収は20兆円くらいあるのですが、その半分を年収1,000万円以上の人が、もう半分を1,000万円未満の人が支払っています。年収1,000万円以上の人がどれくらいいるかというと、4.6%しかいないんですね。4.6%の人が20兆円のおよそ半分を負担していると考えると、お金持ちはすでに十分、税金を負担していると言えると僕は思います。

編集部)
なるほど~。税金について知らないことだらけで反省しました。やはり一納税者として、税金の知識はあったに越したことはないですよね?

倉田)
税金も含めたお金についての知識があると、いざというときに困らないですし、自分をだまそうとする人がいても防御することができるんです。不動産投資の広告がさかんに「節税になる!」とPRしていていも、その根拠としているデータは捏造されたものかもしれません。知識があれば「おかしい」と気づくことができるのですが、そういうことって親も学校も教えてくれないですよね。

編集部)
倉田さんは、ボランティアで各地の小学校に出向いて「税金教室」を開催しているんですよね。「税金とり」という子ども向けのボードゲームも製作されたそうで、子どもたちへの税金教育に熱心に取り組んでいるのがすごいなぁって。

倉田)
税金やお金のことは、社会人になる前にある程度の知識をつけることが大切だと思っています。税金やお金の知識があると、詐欺などから自分を守ることができますし、前回の所得税の控除のところで触れたように、知らないよりも知っていたほうが得になるんですよね。税金教室やボードゲームをきっかけに子どもたちが興味を持って自分で調べたりしてくれたらうれしいですが、大人になったときに「さんきゅう倉田がこんなことを言っていたな」って思い出してもらえればいいかなって。
*ボードゲームは倉田さんのHPから購入できます*

編集部)
もう大人になってしまった私が、税金について基本から復習したい場合はどうしたらいいでしょう?

倉田)
国税庁のホームページをチェックしてみてください。「税の学習コーナー」というページがおすすめです。あと、税金についていろいろな情報が記載されていますので、給与明細をもらったらよく見る習慣をつけたほうがいいですね。

編集部)
編集部的には、倉田さんの著書もわかりやすくておすすめです(笑)。倉田さん、3回にわたって楽しく税金のお話をしていただき、ありがとうございました!

イラスト/オガワナホ 構成・文/志賀朝子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部

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