その夫婦関係、もしかして“異常”かも?ふつうの夫婦でも起こりうるマインドコントロール的支配の実態
2022/08/20
ニュースでときおり耳にする「洗脳」や「マインドコントロール」といった言葉。
なんとなく、自分とは関係がない遠いところで起きているコワイこと……という考えを抱きがちですが、恋人・夫婦仲相談所の所長を務める三松真由美さんによれば「夫婦間でも起こり得ること」だそうです。
事例を交えて、その実態を解説してもらいます。
「これって普通の夫婦関係ですか?」と質問した「普通じゃない」相談者たち
「洗脳」「マインドコントロール」などの状態は、宗教家や占い師などが、今回の例のようにスピリチュアルな言動、あるいはカリスマ性をもって周囲の人を操作している状態をイメージするかもしれません。
しかし、ごく普通の夫婦関係の中でも、無意識に相手に支配されていたり、自覚のないままに抑圧を受けていたり、といった現象は起こり得ます。
筆者が主宰する「恋人・夫婦仲相談所」に寄せられたふたつの事例を紹介しましょう。
ちなみ2名とも「マインドコントロールされている!」と相談に来たわけではありません。「なんか夫婦関係がうまくいってない。これって普通の夫婦関係ですか」という状況で来られました。
そして話を聞くと、とても「普通」とは言えない、完全にパートナーにコントロールされた生活をしていることが明らかになったのです。
ケース1:イクメンになれなかったという挫折感と妻への罪悪感に悩む夫
惠介さん(38歳 仮名)は中小メーカーのサラリーマン。昨年、結婚8年目にして待望の第一子が生まれたところです。同い年の妻は出版社で敏腕編集者として華やかなキャリアを重ね、今回の出産も、育休を半年で切り上げてすぐに時短で職場復帰しました。
「僕は結婚したら家族を大事にして、妻に喜ばれるようなイクメンになりたいと思っていました。でも実際には育休も2日しか取れず、妻には『最低』と言われました。
確かに現状では妻が仕事も育児も家事も頑張ってくれています。妻の手が回らない時は彼女の実家の義母が家に来て手伝ってくれます。僕が会社から家に帰ると、大抵リビングで子どもを挟んで妻と義母が楽しそうにおしゃべりしています。『ただいま』とリビングに声をかけると『いまごろ帰ってきたの。のんきでいいわね』と妻が目も合わせず、不機嫌そうに言うことが多いです。きっと妻も疲れているんだと思うので、僕は妻の機嫌をこれ以上損ねないよう、キッチンで立ったまま、急いで冷蔵庫の残り物を口に運びます。
時々妻と義母がひそひそと内緒話をしてゲラゲラ笑う声が聞こえて、僕のことを話題にしているのかな、と不安になります」
惠介さんの場合、理想としていたイクメンになれなかったという挫折感と妻への罪悪感から、過剰に妻の態度を気にして、それに一喜一憂する毎日になっています。妻の機嫌はその日によって波があり、その感情に惠介さんも振り回されている様子がうかがえます。
「別の日には、妻が友だちとの電話しているとき『連れ合いの給料じゃ食べていけないから仕事が辞められないのよ』と大きな声でしゃべっていました。また最近、妻のスマホのロック画面が『夫なんてATM 草』というイラストになっているのを見ました。自分が妻の役に立つ存在になれていないことに申し訳ない気持ちになります。
もともと妻は機嫌が悪くなると黙り込むタイプで、それもまた不安になる原因です。僕のどこが悪いかを言ってくれればいくらでも直すのに、何も言わずに舌打ちをして、こっちをチラッと見るだけなんです。妻のチッという舌打ちの音を聞くと、また自分の失敗で妻を怒らせてしまったのかと心臓がばくばくします。でも僕が産後の大事な時期に寄り添わなかったから仕方ないです」
妻とは円満で夫婦喧嘩を一度もしたことがない、という惠介さん。もちろん、暴力沙汰も皆無。しかし「このままでは妻を嫌いになるかも」と言う不安があります。様子を聞いていると、静かに惠介さんは妻の支配下に置かれ、妻によって思考や行動がコントロールされていることがわかります。
ケース2:夫を見ていると「本当に無能でだめな妻」と落ち込む
晴香さん(42歳 仮名)は、湾岸地区のタワーマンションに夫と小学生の息子2人と住む専業主婦。夫は、大学時代にラグビー部で活躍し、現在は商社に勤める優秀な男性。「イマドキ、専業主婦でいられるなんて幸せ者ね。羨ましいわ」と友人に言われるそうですが、晴香さんにとっては、幸福感より緊張感のほうが強い毎日です。
「私にとって夫は厳しい父親か先生みたいな存在です。彼は物知りなので、私の知らないことを教えてくれたり、間違っていることを直してくれたりします。我が家では子どもたちの勉強も夫が全部見てくれています。昔は私が宿題を見ていたこともあったんですが、偏差値が低かった私が教えると子どもたちの成績が下がる、と言われ、今は夫が担当しています」
ここまでの話を聞いただけでも、「ん?ちょっと危ないかな」と感じましたが、コロナ禍で夫の圧力はさらに進んだようです。
「健康面でも夫が家族全員のことを気にしてくれています。帰宅したら、まずは玄関で下着以外は脱いでお風呂場に直行。シャワーで全身を洗ってから部屋に入るのが夫の決めたルールです。もちろんドアノブなどは1日2回、除菌シートで拭きます。夫に『拭き忘れてコロナになったらお前の責任だからな』と言われているので緊張します。
さらに、コロナ予防にはビフィズス菌が効くという海外の論文を読んだそうで、真偽は不明だけど毎食必ず家族全員が、夫の指定した銘柄のヨーグルトを1人1パック食べています。毎日4人が食べる分を買い置きしておかないといけないのに、雨で買い物に行けなかったり他のものが重くて持てなかったりすると、時々在庫が切れてしまいます。でも、そんな言い訳は許されません。『おい、明日朝に食べる分がないぞ』と夜中に起こされて、コンビニを3軒回って探したこともあります。『俺が怒るのは、家族を大切に思うからだ」と夫に言われると、夫の家族への思いやりを台無しにしてしまう自分は、本当に無能でだめな妻だと反省します……」
夫の実家もワンマンな義父が君臨している家庭だそうで、義母が義父に、靴下をはかせてあげているのを目撃したこともあるそうです。そんな家庭に育ったから、妻や家族を自分の支配下に置く=守ることが父親の役割だと思っている可能性があります。晴香さんの発言は自己肯定感の低さが感じられて、夫の支配がかなり進んでいることがうかがえます。
コロナ禍で状況はさらに悪くなっている!?周囲の様子も気にしてあげて!
以上、2つのケースを紹介しました。読者の皆様は「どう考えても普通じゃない!」と驚いたことと思います。
しかし、先に書いたとおり相談に訪れたふたりは、どちらも夫婦関係がどこかおかしいとは思いつつ、それがマインドコントロールのような状態とは思ってもいませんでした。でも実際には、自分で考えることができず、相手の言うことを鵜呑みにしていたわけで……これは、マインドコントロールの可能性が高い。
日々の言動やルールから支配が進み、周囲が変だと気づいたときには、かなり重大な局面に陥ってしまっていることもあります。
コロナ禍の巣ごもり生活で、普段以上に家族が一緒にいる時間が増え、外とのかかわりが減ることで、パートナーに操られる状況に陥りやすい環境になっている可能性も。
ご自身のことを気にするのはもちろん、友人、知人の様子が少しおかしい、元気がない、自分を卑下する言葉を頻発に使う……などがないかにも注意してください。もし、明らかに異変があったときには、早めに本人の話を聞き、専門家への相談を支援してください。
◆監修・執筆/三松 真由美
会員数1万3,000名を超えるコミュニティサイト「恋人・夫婦仲相談所」所長として、テレビ、ラジオ、新聞、Webなど多数のメディアに出演、執筆。夫婦仲の改善方法や、セックスレス問題などに関する情報を発信している。『堂々再婚』『モンスターワイフ』など著書多数。