健康を維持したり、病気の予防に欠かせない栄養素。そのなかでも、「鉄」にはどういった働きがあるのかご存じでしょうか?
必要量がたりているからこそ、私たちは当たりまえに毎日をすごせるのですが、不足してしまうといくつものデメリットが出てくることに…。
管理栄養士と食生活アドバイザーの資格を持つライターのゆかりさんに、「鉄」が不足することでどのようなことが起きるのかと、効率よくとるための食べ方について紹介してもらいます。
「鉄」の働きとは?
「鉄」とは、体内での酸素運搬を担っているミネラルの一種です。体内に吸収されると、血液中のヘモグロビンの材料としてそのほとんどが使われ、残りは筋肉で使われたり肝臓・脾臓・骨髄などに蓄えられます。
血液中で鉄が不足すると肝臓などに貯蔵された鉄が使われ、血液中の鉄を一定に保つような仕組みになっているのです。
そんな「鉄」の働きは、おもに次のとおり。
・体内に取り込んだ酸素を全身に運ぶ
・運動能力、学習能力、作業能力などを維持する
・肌、髪、爪などを美しく保つ
このようなことから、「鉄」はパフォーマンスや健康維持、美容のために必要不可欠な栄養素となっています。
「鉄」不足になると起きることとは?
そんな「鉄」が不足すると、血液中のヘモグロビンの濃度の減少にともなって鉄欠乏性貧血を引き起こし、さまざまな不調が見られるようになります。
貧血では、めまい・動悸・息切れ・疲れやすさ・倦怠感・頭痛・顔色の悪さ・食欲不振などがおもな症状と言われています。さらに症状が進行すると、手の爪がスプーン状にそり返ったり、口角(唇の両端)に炎症が起きたりすることも……。
また、人によっては気分が落ち込みやすくなったり、イライラしやすくなるといったメンタル面の変化も現れるのだとか。
令和元年国民健康・栄養調査におけるデータを見てみると、食品からの「鉄」の1日の摂取量は、男女ともに若い世代ほど不足傾向にあることがわかっています。ちなみに、月経のある女性の場合には所要量が増大するため、女性の5人に1人が鉄欠乏性貧血であるという報告もあるのです。
ただし、貧血症状が見られなくても、女性の半数近くは貯蔵されている鉄が不足した「かくれ貧血」と言われているため、積極的な摂取が求められます。
なお、性別を問わず、日常的に激しいスポーツを行う人も汗から鉄が失われやすくなるため注意が必要です(このほか、運動の種類によっては足裏への強い衝撃で赤血球が壊れやすくなる「溶血性貧血」も起こりやすくなります)。
「鉄」を多く含む代表的な食材
ここからは「鉄」を多く含む食品についてご紹介します。
・あさり(水煮缶詰、味付け缶詰、つくだ煮)
・スモークレバー
・かたくちいわし(煮干し)
・しじみ(水煮)
・豚レバー
「鉄」は幅広い食品に含まれていますが、日常的に多くとり入れやすいものにはこれらのような動物性食品が多いと言えるでしょう。
また、あまり一度に多く口にする食品ではありませんが、乾燥バジル、青のり、乾燥ひじき(※)、岩のり、カレー粉、煎茶(茶葉)、黒こしょうなどにも「鉄」は多く含まれています。
なお、「鉄」の吸収率はとても低いため、通常の食事では過剰摂取の問題はありません。ただし、サプリメントなどで過剰摂取した場合には、消化管や肝機能への影響があるため注意しましょう。
※……ここでは鉄釜を使用した乾燥ひじきを指す。製品パッケージなどに表記がない限り、ステンレス釜を使用した乾燥ひじきであることが多く、その鉄含有量は1/10ほどに少なくなる。
効率よく摂取するための食べ方や、おすすめの組み合わせ
「鉄」を意識してとる際は、吸収率を下げてしまうタンニンを含んだ食品に注意が必要です。
赤ワイン・コーヒー・濃い緑茶(とくに玉露)・紅茶にとくにタンニンが豊富に含まれるため、これらの飲料は鉄の豊富な食事の前後になるべく時間をあけて飲むようにするといいでしょう。
また、植物性食品に含まれる「鉄」が体内に吸収される過程は複雑なため、動物性食品に比べて吸収率が低くなっています。そのため、植物性食品からの吸収率を高めるために、たんぱく質・ビタミンC・クエン酸などを組み合わせてとることが有効です。
たんぱく質は肉・魚介類・卵・大豆製品・乳製品に、ビタミンCは野菜や果物、クエン酸は酸味のある果物や酢などに豊富に含まれています。
そのため、「鉄」を効率的にとりたいのであれば、バランスよくさまざまな食品を取り入れた食事が基本となります。
ちなみに、先述したような「鉄」を多く含む食品ばかりを積極的にとるような生活が続くと、ビタミンAも同時に多く含まれる食品もあるためその過剰摂取によるリスクも…。
令和元年国民健康・栄養調査によると、大豆類・野菜類・穀類の順で、わたしたちの鉄の補給源となっていることがわかっています。ふだんの食事に、これらの食品が不足していないかを見直すことも大切です。
主食・主菜・副菜をそろえ、炭水化物・脂質・たんぱく質が偏らないような食事を意識し、そのうえでご紹介した栄養豊富な食品をとり入れるようにしてみてはいかがでしょうか。